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3章:その出会いはきっと必然
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しおりを挟む――おどろおどろしい場所についた。いかにも魔王が出てきそうな。RPGの最終決戦っぽい場所。
「遅い!」
いきなり声を掛けられた。階段の上の玉座に座る人物から。その人は玉座のひじ掛けに肘を置いて、不機嫌なのを隠そうともせずにふくれっ面でおれらを見た。組んでいた足を組みなおし、ぽかんと口を開けたおれを見て肩をすくめる。
「あれ、ルード以外誰だよ?」
「ホシナ、これは一体……」
「いや、おれに聞かないで……」
まさかアデルが玉座に座っているとは思わなかった。そしてその隣に本来の魔王であるシリウスさんが控えているってどういう状況だよこれ……。シリウスさんは楽しそうに笑っているし、おれらは困惑しているし、変な雰囲気だ。
「いやぁ、本当に来てくれるとは! 誘った甲斐があったね、アデル!」
「ええ、本当に彼なの? カラー違い過ぎない?」
「ルーちゃんの過保護っぷりがわかるよね~」
ニコロとルードが首を傾げた。ルーちゃんって誰のことだろうと考えているんだろう。そして、アデルがおれをじっと見つめる。そして一言「ふうん」と呟いた。綺麗に笑みを浮かべて、頬杖をするとシリウスさんに視線を移す。
「ねえ、ボク彼と話があるんだけど」
「はいはい、じゃあ彼らはオレが預かるよっと。最近暇していたし、丁度いいや」
パチン、とシリウスさんが指を鳴らした。すると、おれとアデル以外の人が消えた! びっくりして辺りを見渡したけれど、やっぱり居ない……。アデルは玉座から立ち上がると、ゆっくりと階段を下りておれに近付いてきた。
「別に取って喰うわけじゃないから、安心しなよ」
「おれをここに呼んだ理由は?」
「話があるって言ったでしょ。キミ、今何歳?」
「え、十六だけど……」
そ。とおれをじろじろ見るアデルに、ちょっとたじろく。アデルは次の質問をした。
「誕生日は?」
「十月十三日……」
そんなことを知ってどうするんだろうと思ったけれど、アデルはぴくりと眉を動かした。おれの誕生日がどうかしたのか?
「二年もずれるなんて面白いね」
「ずれる?」
アデルは腕を組んで考えるように顎に手を掛けた。自分の身長とおれの身長を測るように手を動かしたりして、一体なにをしているんだろうか……。
困惑するおれを目を細めて眺めている。感情が全然読み取れない。
「……」
「……」
にらめっこかな? ってくらい互いを見つめ合う。主人公だけあってやっぱり顔がイイ。
「日本人でしょ」
「!」
「だと思った。ここがゲーム中だってことも知っている?」
小さくうなずくと、アデルはまた「ふうん」と呟いた。そして、
「じゃあ、ボクがこのゲームの主人公だってことも、知っているよね?」
「おれが知っているのは、姉ちゃんから聞いてアデルが総受け主人公ってことだけど……」
「ああ、プレイしたことはなかったのか。なんだ、腐男子じゃなかったの」
心底つまらなそうに言われた。フダンシってなんだ? と首を傾げると、「BLが好きな男子」と説明された。へぇ、そんな言葉があったのか。
「ノーマルなのにルードと付き合っているってコト?」
「ルードが女性でも好きになったよ」
男だから女だからじゃなくて、おれはルードだから好きになったのだと言えるから。アデルはおれの言葉を聞いて眉を顰めた。なにか気に障ることを言ったのだろうか……。
「本当にプレイしてないの?」
「してない。姉ちゃんから聞いただけ。……ところで、本編終了後の世界ってどういうこと?」
「そのままの意味だけど? ボクがこの国に来た頃には色々変わっていたし、全然イベントも出なかったし、攻略対象の年齢は上がってるし……」
「……どういうこと?」
「シリウスのせい。大体シリウスが悪い」
いきなりシリウスさんのことを言い始めてびっくりした。なんでシリウスさんのせいなんだろう? とアデルを見ると、アデルはそれ以外は口にしない。……なんなんだ、この人……。一体おれになんの用があったのかもさっぱりわからないし……。本当、なんでおれ呼ばれたんだろ?
「――日本に帰りたい?」
「え?」
「帰りたいとしたら、無理だってことを先に言っておくよ」
「それはどういう――」
その言葉の意味を尋ねる前に、シリウスさんがにゅっと現れた! 驚いて思わず後退る。
「だってキミの魂は、こっちの世界のものなんだから」
「――は?」
「そうでしょ、シリウス」
シリウスさんはアデルの言葉にニヤリと口角を上げた。おれの魂がこっちの世界のもの? いや、いやいやいや、おれは日本で生まれたんだぞ!?
「アデルは気付いてルーちゃんの愛し子が気付かないか~。だけど、思い当たることは多いんじゃない?」
シリウスさんはニヤニヤと笑みを浮かべている。思い当たること……。文字を覚えるのが早かったり、魔法がすぐに使えたり、感度がおかしいこと……? いや、でもおかしいだろう。ここはゲームの世界だ。ゲームの世界の住民の魂が日本に流れることなんてあるのか?
「ずっと考えていたんだよね。ボクがアデルに転生したのなら、元のアデルの魂はどこに行ったんだろうって。ま、日本で病死したボクにとってこの転生はとっても楽しい人生だけどさ」
「い、異世界転生……?」
「そ。折角イケメンたちを喰えると思っていたのに、攻略対象がコレだもん。ボクに集まってくる人たちで好みの子たちは美味しく頂いたけどさー」
「…………ずっと考えていたんだけど、アデルって総受け主人公だよな?」
「それはゲームの中のボク。ボクがヤられるわけないじゃん。なんのためのスキルだよ」
――つまり、このアデルは総受けじゃなくて総攻め……? ばっとシリウスさんに顔を向けると彼は照れたようにぽっと頬を染めた。…………なんなの、この人たち……。
「美青年攻めって良いと思わない?」
「あ、自分で美青年って言っちゃうんだ……」
「ボクの容姿が美しくないわけないからね」
すごく自信満々に言われた。シリウスさんはうんうんとうなずいている。なんかもうなにがなんだかわからないぞ……。頭が痛くなってきた――…………ん? ちょっと待って。
「おれの魂がアデルに入る予定だったってこと……?」
「……今頃気付いたの?」
「なんかもう、わけがわからないんだけど……」
「頭の回転鈍くない、大丈夫なの、キミ?」
酷い言われようだな、おい! そんなおれの様子をシリウスさんが楽しそうに眺めている。それに――ルードとニコロはどこに行ったのだろうか。この良くわからない雰囲気に呑まれてしまっていることに気付いて、おれはぎゅっと拳を握る。
「そう警戒しないでよ。言ったでしょ、取って喰うわけじゃないって」
ふたりからちょっとずつ距離を取ると、アデルとシリウスさんは肩をすくめた。
「ルーちゃんと彼なら今頃薬が効いて寝ていると思うけど」
「なにを盛ったの!?」
「さて、なんでしょう?」
「ふたりはどこ?」
「さぁ、どこでしょう?」
――シリウスさんはおれと会話をする気がないようだ。ルードとニコロを探さないと……! おれが扉に向かって走り出すと、すぐに魔物がおれの前に立ちはだかった。見たことのない魔物だ。これが、アデルのスキル?
「まだ話は終わってないんだよね」
「話すことなんて、おれにはもうなにもないけど!?」
「ボクにはあるの。やっと話せるようになったんだから、もう少し付き合ってくれても良くない?」
あ、こいつワガママだ……。そうはっきりとわかった。こっちの都合なんて全然聞いてないし、ナルシストでもあるっぽいし……いや、美青年なのは同意するけどね。
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