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3章:その出会いはきっと必然

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 その上のメモをタップして開く。内容は、アデルのお兄さんを襲ったって言う日記だった。詳細については語らないことにしよう。お兄さん、大変だったね……と同情するが、元々はアデルの貞操(?)を狙っていたみたいだから、自業自得とも言えるような……。

 さらに読み進めていくと、アデルがこの国に来た頃までたどり着いた。



『本編終了後の世界かよ! 攻略キャラどこ行った!』



 え? 本編終了後の世界? アデルがこの国に来た頃にはゲームの内容は終わっていた? ……なんでそんなことがわかるんだ?



『ルードはいるけどあまりにもそっけない。サディアスは想い人がいる、ニコロは行方不明。この国の王は幼すぎ。おかしいな、四十代くらいの人だったハズなのに。キャラはあのゲームと同じなんだけど、あまりにもボクの知っている内容とかけ離れている。どういうこと……?』



 …………え、サディアスさんも攻略対象だったの……? そして一番はニコロの名前だよ! もしかしてニコロって……、ここに居るニコロ!? おれが呆然とニコロを見ると、彼は「なにかわかりました?」って聞いてきた。

 パッケージにいたっけ? どうしよう、もう覚えていないよ、おれ!



『ルードとニコロ狙いだったんだけどなぁ。ああいうガタイの良い人を快楽でぐちゃぐちゃにするのがボクの目的だし』



 どういう目的だよ……。アデル、お前……総受け主人公じゃなかったのか……? 快楽でぐちゃぐちゃになるって挿れる側もあるのかな。

 それからまた読み進めると、おれのことも書いてあった。



『黒髪黒目ってこの世界で初めて見た。もしかして異世界転移者だったりして』



 正解だよ……。って言うかサディアスさんとニコロの衝撃で吹っ飛んだけど、国王も攻略キャラだったわけ……? どうなっているのこのゲーム……。せめて王子じゃない……? どんどんと日記を読んでいく。



『最近シリウスがうざい!』



 うざがられているよ、シリウスさん……。



『一度抱いたからって、ボクを独り占め出来るわけないのに。あー、もう、本当に面倒。いっそ触手でシリウスをぐちゃぐちゃにしてやろうかな。でも……あいつMっぽいし、それはそれで悦びそうでヤダなー。って言うかヒビキって名前、日本人確定っぽいよね』



 ……これはどっちの意味なんだろう。シリウスさんがアデルを抱いたの? それともアデルがシリウスさんを抱いたの? そしてさりげなくおれの名前が出てるし! うう、気になることが多すぎて読み進めるのが怖い。



『これを読んでいると仮定して、今、ボクはシリウスと一緒にいると思う。ここが八年前の世界ってことは理解してるよね? シリウスの目的がなんなのかわからないけど、一番最後の画面にあるアプリを起動すればボクのところに来るように設定したから、さっさと迎えに来てよ!』



 ――えっと……。うん……。助けられる側の圧がすごい……。



「読み終えたのか?」



 おれがスマホから視線を外してため息を吐くと、ルードがスマホを覗き込んできた。……そう言えば、十五歳のルードとおれの身長って結構近いな……。おれよりちょっと高くなったくらい? それが二十三歳のルードとおれの身長差を考えると、成長期にどんだけ伸びたんだ……羨ましい。



「どうした?」

「あーえーと、おれらの探し人の落とし物、でした。さっさと助けに来いって」

「ふぅん」



 それにしても、アデルがどうしてスマホと日本語を……? 異世界転移があるのなら、異世界転生もあるだろうし……。アデルは転生者? だけど、本編終了後の世界って本当にどういうことだろう。じっとふたりを見ると、彼らは同時に首を傾げた。



「どうやら、これを使えば行けるみたいです」

「魔法か?」

「……多分……」



 アプリ起動してアデルの元に行くってどういうことなんだか……。アデルって魔法使えるのかな。魔法とスマホを組み合わせたってことなのか……。それにしても、圏外なのはわかるけど、全然電池が減らない気がする……。結構な時間メモアプリを読んでいたのに、充電は満タンのままだ。この世界の謎がまた増えた……。



「行くのか?」

「罠かもしれませんよ」

「罠なら罠でいいよ、聞きたいことあるし」



 スマホに視線を戻して、アデルの望み通りに最後の画面まで移動してアプリに触れようとする。それをバシッとおれの手首を掴んで止めたのはニコロだ。



「頼みますから、もう少し慎重になりましょう!?」



 すっごく必死の形相でニコロが声を出す。……おれが慎重だった時があっただろうかと一瞬考えてしまった。ニコロの形相に驚いて目を瞬かせると、ルードもこくんとうなずく。



「確かにホシナは後先考えずに行動しているように見える」

「うっ」



 否定は出来ない。考えるより先に身体が動いてしまうから……。ふたりの視線から逃げるように顔を背ける。ニコロは大きくため息を吐いた。それから、これからどう動くかを話し合う。手がかりはこれだけだし、起動してみないとわからないし……。だから、おれはアプリを起動すること一択ってことをニコロとルードに伝えた。



「俺はホシナから離れませんからね。一緒に行きます」

「……? ふたりはそういう関係なのか?」

「違います! 恐ろしいことを言わないでください!」



 うん? おれとニコロの関係がルードには恋人のように見えたんだろうか。それを即座に否定するニコロ。ルードは「そうか」とだけ呟いて考えるように目を伏せる。



「オレも共に行ったほうが良いか?」

「どうなんでしょう……」



 シリウスさんは二十三歳のルードがこの絵画の中に入るのを拒絶しているみたいだけど、十五歳のルードはどうなんだろうか。正直ルードが力を貸してくれるのなら百人力だと思うけど。ニコロが得意なのは接近戦よりも遠距離戦っぽいし、おれは戦闘員としては論外だろうし、接近戦が得意なルードが居てくれるのはありがたいよな……。



「ルードはどうなんです? 一緒に行きたいと思いますか?」



 逆に尋ねてみた。ルードはじっとおれとニコロを見つめる。そして、辺りを見渡して肩をすくめた。周りに魔物はいないけど……?



「ちょっと待ってて」

「え? あ、はい」



 ルードがおれらの傍から離れて、五分もしないうちに戻って来た。その表情からはなにも読めない。こんなに表情が動かないルードってなんだか新鮮だ……。



「フェンリルに頼んで王都の魔物を蹴散らしてもらうことにした。共に行こう」

「えっ」



 正直に言えば意外だった。一緒に行くことをルードを選ぶとは……。ニコロは「そうですか」と答えた。フェンリルが魔物を蹴散らすってどうやるんだろう……と想像してしまって少し和む。いやいや、あの子犬サイズで蹴散らすわけないか。最初に会ったようなデカい姿なら……魔物も……大変だな……とちょっと同情してしまう。



「王都は大丈夫なんですか?」

「団長が居れば何とかなるだろう。鬼だから」



 サディアスさん、一体どんな戦い方をしているんだ……? ニコロからは怪物って呼ばれていたし……。あの時、サディアスさんは全然戦っていなかったからなぁ。さっぱり想像できないや。



「手がかりはこれしかないし、もしかしたら罠かもしれませんけど、それでも一緒に来てくれるんですか?」

「――その媒体を壊さないといけないからな」



 ああ、おれらがスマホを壊さないかもしれないって考えているのか。なるほど。自分の手で壊したいタイプなのかな? こういうの。目に見えるものだけを信じる的な……? うーん?



「じゃあ、念のためおれの服を掴んでもらっても良いですか?」



 ふたりはおれの服を掴む。おれはドキドキしながらアデルの言う通りにアプリを起動した。

 一体どんなことがおれらを待っているのか――……。
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