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3章:その出会いはきっと必然

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「あ、ニコロ、ちょっといい? ルードは待っていてください」

「? ああ」

「なんですか、ホシナ?」



 おれはルードから離れてニコロとこそこそ話す。ルードの年齢が十五歳なことを。ここが恐らく八年前の世界であること。だから、この八年前の世界でなにか覚えていることはないかって。おれはこの世界のことを知らないけど、ニコロならなにか覚えているんじゃないかな?



「……あー……。覚えているようないないような……」



 顎に指を掛けて目を伏せ、記憶を探っているのだろう、うーんと唸っている。っていうか、今思い出したけど、ルードが十五~六歳の頃に魔物をたくさん倒したのって……。あれ、でも待てよ。ルードがひとりで倒したわけじゃない……。

 だけど、引っかかることがある。それは――おれらの姿を、ルード以外の聖騎士団員は確認できていないような気がするってこと。だって、おれらのことに気付いたら声を掛けると思うし……。

 つまり、彼らにはルードがひとりであれだけの魔物を倒して、そして目に見えないなにかが傷を癒していったという……なにそれホラー? みたいな出来事だったんじゃないかって。どうしてそう思うのかって、ルード以外の人たちと一切視線が合わなかったから。



「確か、魔物が王都を囲うように進軍していて……。ああ、そう。確かに隊長が三日くらい姿を消していましたね。隊長が王都に戻るのと同時に魔物も消えたとか」

「消えた?」

「はい、消えたって聞きました。王都防衛していた聖騎士団員から」

「あれ、ニコロはその頃聖騎士団員だったよね」



 見ていなかったの? と首を傾げると、ニコロは肩をすくめた。聞いちゃダメなことだったのかな、と彼を見るとその頃ニコロは森でルードを探していたらしい。ルードが姿を消したから。じゃあ鉢合わせする可能性もあるってことか……?



「……会ってないんですよ。隊長が王都に戻るまでの間、俺は一度も人と会っていないんです。おかしな話ですよね。ばらけた聖騎士団員に会っていてもおかしくないのに……」

「ルードのことを探していたのはニコロだけ?」

「いいえ、それぞれの隊から数人。全員隊長のことを知っていたし、すぐに見つかると思っていたんですけど……」



 誰もルードをことをわからなかった? この森ってそんなに広いの? と辺りをきょろきょろ見渡してみる。ワープポイントを使って移動ばかりしていたから、さっぱりわからないや。おれがここからあの噴水広場までひとりで行けって言われたら、森の中で迷子になる可能性がすごく高い。

 そんな中をルードは調査のために来たってことなんだろうか……。黙り込んだおれに、ニコロがぽんと肩に手を置いた。



「とにかく、俺らはアデル殿下、でしたっけ。を、探しましょう」

「そうだね……」



 そういやアデルに会ったことないんだっけ、ニコロ。アデルが来たのが数ヶ月前らしいし、その頃には屋敷の中にいたもんな。噂話はリーフェから聞いているだろうけど。とにかく、動いてみないとわからない。



「すみません、ルード。行きましょう!」

「ああ」



 一言だけ。そっけない言葉だ。ルードって人に興味ないって聞いてはいたけど、確かにおれらが話していても全然気にしていないみたいだし……。……ちょっとした違和感を覚えるのはおれが二十三歳のルードの恋人だから?



「で、どこに向かうつもりですか?」

「王都を魔物が囲んでいる。なにか媒体があるだろうから、それを探す」

「え?」



 王都を魔物が囲んでいる=媒体ってどういうこと……? 困惑するおれに、ニコロが補足を入れてくれた。



「魔物って大体群れないんですよ。理性ありませんから。ただ、たまにこうやって思い出したかのように群れて王都やら村やら街やらを襲うんです。その時に、大体媒体が残されているんですよ」

「誰かが魔物を操ってるってこと?」

「誰かというより魔王一択だ」



 おっと、ルードも会話に入って来た。魔王ってことはシリウスさんが魔物を操って王都を襲っているってこと……だよな。なんでそんなことをするんだろうか。そして、なんでそんな過去にアデルを……? 考えれば考えるほどさっぱりわからない。



「前にもあったんですか、そう言うこと」

「あった。数年に一度くらいの割合で魔物が群れるらしい」

「へぇ……」



 毎年じゃないところに良心を感じるべきか、それとも数年に一度もなにやってるんだとツッコミを入れるべきか……。おれを呼んだ理由もさっぱりわからないし……。

 ん? アデルのスキルって確か魔物使いだったよな。もしかして群れさせることも出来る? でも、アデルがそれをする理由はない……と思う。ああ、もう、全然わからない!



「えーと、媒体がどこにあるのか目星は?」

「フェンリルが見つけている。それを壊せば一定時間後魔物は消えるだろう」



 媒体壊して終わりってわけじゃないのか。しかし媒体ってどんなのだろう。なんとなく思い浮かぶのは鏡とかガラスなんだけど……。うーん、ファンタジー小説や漫画も読んでいたからかな、こんな風に考えるの。



「……消えた魔物って、天に還ったってことですか?」

「――わからない。恐らくは姿を隠すだけだと……」



 ルードにもわからないことがあるのか、と変なところに感心していると、ニコロが眉を下げた。じっとこっちを見るルードの視線も気になる。おれ、なにか変なことを言ったっけ……?



「ホシナは魔物のことを知っているのだな?」

「多少は」

「そうか」



 ……その反応はどういう意味なのか教えてください、ルード……。

 二時間くらい、休憩を挟みながら歩いてフェンリルが見つけたという媒体を発見した。これを壊せば一定時間後に魔物が消えるのか。……なんかすっごい見覚えのある形の媒体だな……! この世界に来てから初めて見たぞ、スマホ……。そういやおれのスマホって鞄に入れっぱなしだったけど、もう充電切れているだろうなー……。



「なんですかね、コレ」

「媒体のようだが……」



 ルードが剣の鞘で突く。なんとなくシュールに見える……。あれ、それにしてもフェンリルが待っているのかと思ったけどそうでもなかった。フラウもいないし。



「鏡……ではないな。とりあえず壊すか」

「あ、待ってください。ちょっとおれに見せてもらっても良いですか?」

「……良いのか?」



 ルードはちらりとニコロを見た。おれとニコロの関係をどう思ったのか、ニコロに許可を求めているように見えた。ニコロはおれをじっと見る。彼と視線を合わせてうなずくと、ニコロは小さく息を吐いた。



「ホシナに見せましょう」

「ありがとう!」



 おれはスマホを拾って電源を入れてみる。ぱっと画面が明るくなって、ルードとニコロが戦闘態勢になった。それを見て、おれは首を緩く振る。平気だから、と。どうやら画面のロックはされていないようだ。すっすっ、と指を動かしてどんなアプリが入っているのかを確認していく。



「なんて書かれているのかわからないな」

「え、本当になんですか、コレ?」

「――おれの故郷に、似たようなのあるよ」



 へぇ、と感心したように呟くニコロ。とりあえずどれかアプリを見てみよう。最初から入っているであろうメモアプリをタップして開くと、どうやら日記のようだ。勝手に見ても良いのかなぁと思いつつ、適当に選んでメモをタップする。



『アデルの魂がこの世界にはないみたい。ボクがアデルになったから?』



 うん!? 日本語だからルードとニコロには読めないみたいだ。ふたりで首を傾げている。おれは黙々と読み進めていく。



『どうやらゲームの内容とかなり違くなっているみたいだ。ボクのスキルが魔物使いって……。ゲームとは正反対のスキルじゃん。まぁ、悪くはないけど。いや、むしろラッキー? 触手使い放題だし、これって媚薬も使い放題ってことだよね。よし、まずはボクを変な目で見る兄から堕としていこうか』 



 ――多分、アデルの日記なんだろうけど……。おれはなにからツッコミを入れたら良いんだ!? アデルがこの世界をゲームだと理解していること? 魔物使いでラッキーとか媚薬使い放題とかほんっとツッコミを入れ始めたらきりがないぞ!?
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