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3章:その出会いはきっと必然
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しおりを挟む「うわぁ……」
と、ニコロが顔を引きつらせていた。そして、なんとかルード似の彼の傍に近付く。彼は剣を構えたまま「誰だ、お前ら」と聞いてきた。いや、それを聞くのはこの場を切り抜けてからにしようよ!? と彼を見ると、肩で息をしていた。ところどころ怪我もして血を流しているし……周りには魔物の屍骸が数えきれないほどあって、きっと彼ひとりでここまで戦ってきたのだろう。
「他の聖騎士団員は?」
「逃げた」
「はぁ!?」
「新人の初舞台だったが、まさかの魔物が大量でなッ!」
ニコロと彼が背中越しに会話をする。そう言えば……ルードが言っていたっけ。二年間の訓練の後に残るかどうか決めるって。まさか、それが今日だったんだろうか。
「ともかく、こいつらを蹴散らさないと……」
「あ、あの。スキルは使えますか、攻撃系の。使えるのなら、一気に倒せると思います」
「……なぜだ?」
「おれのスキルはあなたの力をブースト出来るからです。どのくらいブーストされるのかわかりませんけど……」
「そしたら俺が浄化しますよ。一応【浄化の力】持ちなんでね!」
迷っている暇がないと判断したのか、彼はうなずいた。おれはほっと息を吐いて、彼の背中に手を当てた。ニコロはナイフを使って時間を稼いでくれている。
「スキルをお願いします」
「ああ」
彼がスキルを使うのに合わせて、おれのスキルも使う。精霊の祝福――。彼は驚いたようにおれを見た。おれはにこりと微笑んで目を閉じる。精霊さんへ魔物を倒せるくらいの力を彼へとお願いする。目を開けると、彼がぐっと拳を上げるのが見えた。ルードと同じスカイブルーの目の色。それでも紺色の髪は肩までしかなく、結んでもいない。身長もおれと同じくらいだ。……だけど、おれはなぜか確信していた。この人が、ルードだってことを。
ブーストされたからか、氷の剣は何百本も出ていて、そのすべてがとても鋭利に見えた。彼がパチンと指を鳴らすのと同時に、氷の剣は魔物の心臓を狙ってすごい勢いで飛んでいく。その光景はあまりにもむごく言葉に出来ない。ただ、彼がとても痛そうな顔をしていたのが印象に残った。
最後の一体を倒すと、彼がぐらりと倒れ込んだ。慌てて抱き寄せるも、おれの力じゃ支えきれなくてふたりでどさっと土の上に倒れ込んだ。ニコロは辺りを見渡して、【浄化の力】を使い魔物を天へと還す。周りにはこちらの様子を見ていた聖騎士団員も数人居たようで、ビクビクとしていた。どうやら怪我をして動けなかったようだ。おれは彼をニコロに任せて、聖騎士団員たちに治癒魔法を掛けた。動けるようになった人たちは一目散に逃げていった……。怖がらせてしまったのだろうか。
「……ところで、この子……メルクーシン隊長、ですよね……?」
「……だと思う。ここは危険みたいだし、あの湖の場所まで戻ろうか」
「じゃあ、俺が運びますよ」
ひょいとルードを肩に担いでニコロが歩き出す。ルードはどうしてフェンリルを呼ばなかったんだろう? 湖までつくと、ルードが気を失っている間にニコロと話し合う。この場所が王都の近くであることや、湖の近くにはなぜか魔物が来ないこと、それとおれたちの呼び名をどうしようかってこと。
「おれはホシナって名乗るよ。だから、ニコロはおれのこと呼び捨てにしてくれないかな」
「ホシナ、と?」
こくりとうなずく。ニコロのことはどう呼ぼうかと悩んでいると、ニコロはそのままで良いって言った。どうやらニコロの名前はこの世界ではメジャーのようで、探せばいくらでもいるようだ。
それじゃあ、彼を治療しよう。スキルを使いすぎて倒れたみたいだから、このまま寝ていれば回復するらしいけど、怪我の治療はしないとね。おれはそっと彼の躰に手を翳して精霊さんにお願いする。彼の躰を癒して欲しい――と。
見る見るうちにルードの傷が癒えていく。全ての傷を塞ぎ、ほっと安堵すると今度はおれの躰がぐらっとした。スキルと魔法、両方を使いすぎたんだろうか。意識がブラックアウトして――次に目が覚めたら朝だった。おれの躰にはマントが掛けられていて、辺りを見渡すと彼の姿が見えた。
おれが起きたことに気付いたのか、彼はおれに近付いてそのまま隣に座った。
「あ、えっと。マントありがとうございました」
「……いや。こちらこそ、正直助かった。オレはルードリィフ・K・メルクーシンだ」
「おれはホシナって言います。あの、歳を聞いても良いですか……?」
「十五だが……?」
「十五歳!?」
……ってことは、ここは八年前の世界!? そしてルードの本名初めて知った!
「……そういうホシナは?」
「十六歳です」
「そっちのほうが年上じゃないか!」
ルードは目を丸くした。……年下だと思われていたな、これは。そして、ルードがこれからどうするのかを聞いてきたから、おれは人を探していることを伝えた。おれと似た髪と目の色をしていて、おれよりも何倍も綺麗な人を探しているって。ルードに心当たりがあるかどうか聞いたけど、残念ながらないようだ。
「あ、ホシナ。目が覚めたんですね。メルクーシンさまも、ホシナのために残っていてくれて助かりました」
ひょいとニコロが顔を出した。どうやら色々採って来たみたいで、良くわからない果物や山菜を大量に持ってきていた。それ食えるの……? って言うのもあったりして、ドキドキしながら見守っていると、彼は慣れた手つきで色々やり始めた。鞄から色々取り出して、ちゃちゃっとなにかを作っていく。
「お腹空いたでしょ?」
と。山菜ってあく抜きしなきゃいけないんじゃ? って思ったけど、もしかして生活魔法で省略できるんだろうか。だとしたら生活魔法便利過ぎて……。そして、ニコロの持っている鞄からは本当に色んな物が出て来た。その小さい鞄にどうやって入れているんだろう……って思ったらこれも魔道具らしい。
「いやぁ、色々入れてみるもんですね」
「魔道具って便利だなぁ……」
しみじみと呟いてしまう。そう言えば、このふたりは既に言葉を交わしていたようで名前を聞くこともなかった。おれ、かなり長い間眠っていたもんな……。ニコロ曰くごった煮を頂きながら(なんと食材まで持参していたようだ。果物を拾ったのはデザートにするつもりらしい)、今後のことを話し合う。おれとニコロはアデルを探しに来たから……。
「えっと、メルクーシンさまはどうしますか。王都に戻りますか?」
「……その呼び方はイヤだ」
そんなことを言いだした彼に、おれとニコロは顔を見合わせた。それじゃあなんて呼べば良いのかなって考えていると、「オレをルードと呼んだだろう?」と。ああ、ルードって呼んで欲しいのか。
「じゃあ、ルードって呼んでも良いですか?」
おれがそう聞くと、ルードは小さくうなずいた。二十三歳のルードを知っているから、一人称が違ったり言葉の雰囲気が違う十五歳のルードを見るのはなんだか新鮮だ。ニコロの作ったごった煮を食べ終えて、生活魔法で使った道具を洗って鞄に戻す。……あの鞄便利だなぁ。
「ニコロ、そんな鞄持ってたんだ?」
「ああ、それは……」
「聖騎士団にいたのか? それ、聖騎士団の紋章だろう」
紋章? と鞄に視線を向けると、葉っぱが見えた。なんの葉っぱなのかさっぱりわからなかったけど、ライオンみたいな獣の頭に葉っぱの冠が……。これどういう意味がある紋章なのか……。
「あー、引退する時に餞別でもらったんですよ。しばらく使ってなかったけど……」
……そりゃあ、三年も外出しなければ鞄を使うこともなかっただろうし……。
「聖騎士団って便利な鞄が配布されるんですね」
「人数が少ないから出来ることとも言える」
「そっかー」
あれ、でも二十三歳のルードがそんなのを持っている記憶ないぞ。ルードは使わないのかな? と十五歳のルードに視線を向ける。しっかりと彼は持っていた。隊長になると使わなくなるのかな?
「えっと、それでこれからどうします?」
「調査が終わっていないから、調査する」
「ひとりで? 危険ではないですか?」
「……誰かがやらねばならん」
「んー、じゃあ少しの間一緒に行動しましょう。そのうち誰かと合流するかもしれないし」
ね、とニコロがウインクした。ここの世界の人たちってウインクうまいな、なんて変なことを考えたりしたけど……。とりあえず、ここを拠点と考えてルードは調査を、おれらは人探しをすることになった。
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