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3章:その出会いはきっと必然
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しおりを挟むおれはルードを見上げた。すると、彼はバツが悪そうに顔を逸らす。陛下ってあの、六歳だっていう子だよな!? ニコロも呆気に取られたように目を瞬かせる。教会の奥の応接室に案内されて、神父さまが扉をノックするとすかさず「入れ」と低い声が聞こえた。
「早かったですね、メルクーシン。そちらの方が、あなたの愛し子ですか?」
「はい」
中に入ると、とびきりの美少年が笑顔で迎えてくれた。ふわふわと柔らかそうなスカイグレーの髪。天然パーマなのかな? 鳶色の瞳をキラキラと輝かせておれを見る。それから、ニコロへと視線を向けた。ニコロは元聖騎士団らしくその場で跪く。おれもしたほうが良いのだろうか……。
「お噂はかねがね。僕はこのアルスター王国の王です。名前はフェリクス。気軽に呼んで下さいね。こっちは僕の護衛の……」
「ユーグと申します」
この国の名前初めて知った! そう言えばこの国の名前まで調べていなかった。アルスター王国って言うのか、ここ。そしてこの小さい子がフェリクス……陛下。と、護衛のユーグさん。黒に近い灰色の長い髪をひとつに結んで、鮮やかなオレンジ色の瞳をこっちに向けている。ルードよりも背が高いみたいだ。
「ヒビキです。それで、あの……」
「……あなたに、手伝って欲しいことがあるのです」
「え?」
おれに手伝って欲しいこと? おれが手伝えることなんてあるんだろうか……。それからフェリクス陛下はおれらをソファに座らせて、口を開いた。
「アデル殿下をご存じですよね?」
「え、あ、はい」
「――彼が、絵画に捕らわれたようなのです」
アデルが絵画に捕らわれた? え、なにそれ、どういうこと? 混乱しているおれに、ユーグさんがすっと手紙のようなものを取り出しておれに差し出した。おれはルードを見る。彼がこくりとうなずいたのを見てから受け取り、中身を確認した。
『アデルはある絵画に捕らえたよ。返して欲しかったら、ルーちゃんの愛し子を呼んで来てね。でも、絵画に入れるのはルーちゃんの愛し子とルーちゃん以外のふたりだけだから、人選はしっかりしときなよ!』
…………。シリウスさん、なにを考えているんだ!? おれが呆然としていると、フェリクス陛下が非常に申し訳なさそうな顔をして「そういうわけなんです」と苦笑を浮かべた。
「アデル殿下は賓客……。一刻も早く救助に向かいたいのです」
国際問題になりかねないもんな……。フェリクス陛下は「本当に申し訳ないのですが……」と絵画を取り出した。どうやらこの中にアデルが捕らわれているらしい。……絵画に閉じ込めるってどうやって、なんてファンタジーの世界に突っ込んじゃいけないよな……。
「念のため、ユーグも絵画に触れてみたのですが、反応はありませんでした。僕が触れてもこの通り反応がありません。もうあなたに頼むしかなくて……。勝手な願いだとわかってはいます。ですが、どうか力を貸して下さい……!」
……こんな小さい子が……。ルードを見上げると、彼は「ヒビキの好きにして良いよ」と言った。好きにしてって……。アデルを助けるのも放置するのもおれの自由にってこと? いや、国際問題はダメだろ……。
「……助けられるかわかりませんが、おれに出来ることなら」
「ありがとうございます!」
ぱぁっとフェリクス陛下の表情が明るくなった。ユーグさんはおれの言葉にピクっと眉を動かした。こそりとルードがおれに「あれでも心配してるんだよ」と教えてくれた。あんまり表情に出ない人なのだろう。
「ルードは一緒に行けないんですね……」
「私も昨日試してみたがダメだった。シリウスがどんな術を掛けたのかわからないが……。そこで、ニコロにも一緒に行って欲しい。彼なら大抵のことはこなせるからね」
ニコロは自分が呼ばれた理由を理解してだろうか、頭を抱えてしまった。つまり、おれとニコロでアデルを助けるってこと……だよな。
「……この絵画、入ったら最後出られないとか……?」
「……入った者が居ないのでわからない」
ユーグさんが重々しく呟いた。なるほど、だから好きにしていいって言ったのか。それでも、行かなきゃいけない気がした。こういう時は直感に従ったほうがいいって姉が言っていた。
「ちなみにこの絵画ってどこに繋がれているのかってわかりますか?」
「それもわからない。すまない、絵画に捕らわれた者が居ること自体初めてなのだ」
……そりゃわからないな。絵画に入ったとしてもどこにアデルが居るのかもわからないってことか……。準備、したほうが良いのかな。あ、でもその前に……。おれは袖のリボンを解いてルードに渡した。
「ルード、これを持っていて下さい」
「ヒビキ?」
「ルードが持っていてくれたら、ちゃんと帰れる気がするから」
おれがそう言うと、ルードはこくりとうなずいて大事そうにリボンを握る。その直後に、絵画が光った。え、と思う間もなく、絵画に吸い込まれる! ルードがおれに手を伸ばしたのが見えたけれど、絵画がルードを拒むようにばちっとルードをふるい落とし、代わりにニコロがおれの手を掴んでそのまま絵画に吸い込まれた。下へと落ちていくような感覚にぎゅっと目をつむる。――衝撃は、いつまで経っても来なかった。
「――さま、ヒビキさま、大丈夫ですか?」
「……………………、誰?」
目の前に広がった柔らかな赤色の髪に心配そうな緑色の瞳。顔はニコロだと思うけど、あまりにも普段見ている彼の髪と目の色じゃなく、思わず首を傾げてしまう。
「……ニコロですよ。ちなみにヒビキさまもびっくりするくらい髪と目の色違いますからね」
「え」
そう言えば、あの時ブレスレットが光ったような……。もしかしてそれの影響? どんな髪と目の色になっているのか気になって、辺りを見渡して湖を見つけた。おれはそこに駆け寄ってひょいと水面を覗き込む。そこに居たのは――アデルカラーのおれだった。金髪碧眼似合わねぇ!
「なにこれ!?」
「色合いを変える魔法に掛かったようですね。って言うか、ここ隊長の隠れ家じゃないですか? なんか、ぼろいけど」
「え? あ、本当だ!」
家らしい家の感じじゃない。あまりにもおんぼろになってしまったルードの隠れ家に近寄ると、なんとなく懐かしい気持ちになった。ここにもワープポイントがあるはずだけど、中に入っても良いものか。
おれが迷っていると、キシャァアアアアって言うよくわからない叫び声が聞こえた。な、なんだ!? しかもその声はひとつじゃない。
「誰かが魔物と交戦中のようですね……」
「助けに行かなきゃ!」
「ですが……」
「おれだって攻撃魔法使えるようになったよ! お願いだ、ニコロ!」
「……絶対に俺から離れないでくださいね」
おれは力強くうなずいた。それと同時にニコロが声のしたほうへと走り出す。おれも走ってニコロを追いかける。十にも二十にも重なって聞こえる声に、無事で居て欲しいと願いながら走る。
どのくらい走っただろうか。五分のようにも十分のようにも感じた。ようやく誰かが戦っているのが見えた時、おれは息を飲んだ。その後ろ姿に見覚えがあったから。紺色の髪を鮮やかに揺らしながら、剣を揮う彼の姿に――……。そして、彼の背後から魔物が狙っているのが見えて思わず叫ぶ。
「危ない、ルード!!」
おれがそう叫ぶの同時に、ニコロが投げナイフで彼の背後に居た魔物を倒した。だけど……これは非常にまずいのでないだろうか。何百体と言う魔物がおれらを囲んでいた――……。
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