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3章:その出会いはきっと必然
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しおりを挟むルードと王都観光の一週間が終わり、おれの日常は観光が終わる前と後で多少違くなった。そうと言うのも、おれが持つスキル……精霊の祝福をじいやさんたちが知ったから。じいやさんたちは魔法の使い方から護身術まで色々教えてくれるようになった。
その合間に文字の練習もしているから、なんだか学校に通っている気分。外出したい時はニコロについて来てもらう。図書館の本を返却したり、刺繍糸をシャノンさんのお店で買ったり、ニコロとクレープを食べたり。ニコロがチョコバナナクレープを食べた時はとても目を輝かせていて、教えて良かったと心から思った。
結局、サディアスさんとニコロは平行線のままみたいだけど……。
「あー……。本読みたいなぁ……」
「お疲れですね、ヒビキさま」
文字の練習を終えて、ぐたりと机に突っ伏すとニコロが声を掛けて来た。そりゃあこの二週間、延々と魔法・護身術・文字の練習・たまに刺繍の繰り返しだったからね。夜は夜でルードに抱かれ……いや、それは置いておこう。
「とはいえ、スキルがスキルだから魔法の上達スピードもかなり……」
精霊の祝福――例の部屋で色々試した結果、基本の属性の攻撃魔法が発動した。生活魔法と攻撃魔法が使えるようになり、さらに治癒の魔法も使えるからゲームで言えば賢者みたいな感じか? リーフェのスキル、鋼の檻やニコロのスキルである突風もおれが彼らの躰の一部に触れることでブーストされることがわかった。リーフェは『鋼と言うかオリハルコン並みになってませんか?』と目を輝かせ、ニコロの突風はかまいたちのように鋭くなっていて『攻撃スキルになってしまう……』と頬を引きつらせていた。
「それにしても、ニコロ。ちゃんと休んでる? ほぼ毎日おれの傍にいない?」
「休む時はちゃんと休んでますよ。はい、紅茶」
「ありがとう」
紅茶を受け取って一口飲む。あー……疲れた脳に染み渡る……。今日のおやつはあまーいケーキだ。ミルクレープ美味しい……。
「大分体力ついたかなー……」
「筋肉が欲しいんですか?」
「欲しい。体力も欲しい。欲を言えばもっと字も読めるようになりたいし、サラサラ書けるようになりたい。――って、欲張り過ぎかな?」
「良いんじゃないですか? それに、ヒビキさまの年齢ならまだまだ先はありますし、未来のためにもそう言うのを身につけていくのは大事だと思います」
未来のため、か。
おれが選ぶ未来がどんなものになるかはまだわからないけど……確かにここで習ったことをちゃんと自分のモノにしていけたら……。テーブルマナーはもう大丈夫だと思えるくらいには頑張ったし。じいやさんのスパルタ具合はマナー系がもっとも厳しく、護身術は一番優しい。それでもおれが仕掛ける攻撃全てを避けていってしまうじいやさん。毎回負けてるとも……。
「もうちょっと護身術の仕方教わろうかな」
「それなら俺が相手しますよ」
おやつも食べ終わり、紅茶も全部飲んだし、早速と場所を移動する。魔法の練習をする部屋は護身術の練習にも使っているんだ。軽くストレッチをして、ニコロに護身術を習う。とはいえ、おれが出来ることと言えば口を塞がれた時に頭突きをするとか、腕を掴まれた時に捻るとか、そんな練習ばっかりなんだけど。
「一番大事なのは逃げることですからね」
と、屋敷の人全員に言われた。幻想の魔法も使えるようになったから、ルード以外には効くこの魔法でいざとなったら逃げよう。命あっての物種ってことだろうし。……まぁ、おれが狙われることってないと思うんだけど……。
「っと、今日はここまでにしましょう。そろそろ隊長が帰って来る時間ですし」
いつの間にかそんな時間になったのか。部屋から出て行き、廊下を歩いているとちょうどルードが屋敷に帰って来たみたいだ。
「ルード、おかえりなさい!」
「おかえりなさい、隊長」
「ああ、ただいま。護身術の練習でもしていたのかい? 髪が乱れているよ、ヒビキ」
ルードに駆け寄ると彼は大きな手のひらをおれの頭に置いて、髪の乱れを手櫛で直した。ニコロは微笑ましそうにそれを見ていた。そこからは「ごゆっくりどうぞ」とニコロが踵を返してひらりと手を振った。「お邪魔はしませんよー」って言われた気がした。
ルードはそのまま寝室へ向かって行くのでおれも付いていく。
「ちゃんと身につけているね?」
「ブレスレットですか? はい、もちろん」
「これからも外さないように」
「わかりました」
一体このブレスレットにどんな効果があるんだろうか……。と思いつつ、寝室までついたのでおれはソファに座る。ルードが聖騎士団の服から私服へと着替えていくのを見て、思わずほう、と息を吐く。
「明日、ヒビキは暇かい?」
「暇ですけど……」
ちょうど明日はゆっくりしようと思っていたし。ルードは少し言葉を迷うように声のトーンを落としつつ、おれに用件を伝えた。
「教会まで一緒に来て欲しい」
「教会に?」
「ああ。ちょっと厄介なことになってね……」
厄介なことってなんだろう? と首を傾げると、服の着替えを終えたルードがおれの隣に座ってそっと肩を抱いた。どうしたんだろう、ルード。ああ、でもこうやって抱きしめられているの落ち着くなぁ。
「教会でなにかあったんですか?」
「教会と言うか……。詳しい話は明日するよ」
なにかあったのかな? でも、なにかあったとして、おれが教会に行く意味はなんだろう……? 考えてもわからないことは考えないようにして、おれは今日やったことをルードに話した。ルードは楽しそうに聞いてくれた。
その後、夕食の準備が出来たと呼ばれるまでずっと話していた。夕食を食べて、お風呂に入ってベッドに横になる。明日は早いからとえっちはしないみたいだ。
そんなに早く教会に行くのか……。
ルードとえっちすると一度で終わらないもんな……。普通なんだろうか、ルードが絶倫なんだろうか。思い出してちょっと顔が赤くなった気がしたけど、暗いからきっと大丈夫、バレていないはず。
「おやすみなさい、ルード」
「おやすみ、ヒビキ。明日は……きっと疲れるだろうから、今のうちにゆっくりお休み」
どういう意味だ……? と思ったけれどぎゅっと抱きしめられてそのまま眠りに落ちた。ルードの様子がなんだか変な気がしたけど……。明日、一体どんなことを伝えられるんだろうか。一抹の不安を持ちつつ、おれは眠りに落ちた。
『待ってるよ、ヒビキ。ルーちゃんを助けてあげてね』
夢の中で、シリウスさんがそう言った気がした。……シリウスさんと会ったのなんて一度しかないのに、どうして彼の声が聞こえたんだろう――?
翌朝、そんなことをさっぱりと忘れたおれは、ただルードとニコロと一緒に教会へと向かうことになった。
「ニコロも一緒なんですね」
「護衛ですから」
「……ルードと一緒に居る時は離れるのに?」
「屋敷の中じゃないからね。念には念をって良く言うだろう?」
教会に行くのに護衛が必要なんだろうか、と肩をすくめる。ともあれ、三人でワープポイントを抜けて教会へ歩く。教会内にワープポイントがあったら便利なのに。……いや、流石にそれはまずいか。食堂内にワープポイントがあるってのも良いのか悪いのか……。あれ、あそこ食堂じゃなくて宿だっけ?
「ついたよ、ヒビキ」
「あの日以来ですね」
教会内に入って、ルード、おれ、ニコロの順で歩く。すると、神父さまがおれらに気付いて頭を下げた。そして、ニコロを見ると懐かしそうに目元を細める。
「足の具合は大丈夫なのかい?」
「その節はお世話になりました。ご覧のとおりです」
教会は神さまに祈りを捧げる場所だと思っていたけど、スキルを調べたり、怪我や病人を治療したりするらしい。なので教会の聖騎士団は治療が主な仕事らしい。教会と城で聖騎士団があるって結構ややこしい。
「完治したようでなにより。それでは、皆さまこちらへどうぞ。陛下がお待ちです」
「へ、陛下!?」
ちょっと待って、心の準備なんて全然していないんだけど!?
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