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2章:1週間、ルードと一緒です!

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 ――翌朝。ルードがおれの額にキスをしたところで目が覚めた。彼はにこりと微笑んでおれの髪を撫でる。



「おはよう、ヒビキ。今日はゆっくりお休み」

「おはようございます、ルード。……そうさせてもらいます……」



 起き上がれる気がしない。昨夜のことを思い出して顔に熱が集まるのを感じて、顔を隠すように両手で覆うと、ルードがクスッと笑う。



「なにかあればニコロを呼べばいい。それじゃあ、行ってきます。――行きたくないけど」

「……行ってらっしゃい。お仕事、がんばってくださいね……。待って、ますから……」



 思っていた以上に躰は疲れていたみたいで、すぐに睡魔が襲ってくる。そんなおれに、ルードはちゅっと軽くリップ音を響かせてから頭を撫で、そっとおれの手になにかを握らせてから部屋から出て行った。おれはそれを見送って、目を閉じる。すぐに、眠りに落ちた。

 それから何時間眠っただろうか。次に目が覚めた時には太陽が高く昇っていてお昼くらいかなって思った。ぐぅ、とお腹も鳴ったし。ゆっくりと起き上がると、やっぱり昨日の行為でだるくて、それでも気持ち良かったことを思い出して「ああああっ」と頭を抱える。

 あ、あんなッ、あんなに乱れるなんて……! 穴があったら入りたい。とりあえずベッドに潜る。ともかく気持ちを落ち着かせようと深呼吸を繰り返した。



「あのー、ヒビキさま? 起きてますかー?」



 ニコロの声にびくっと肩を震わせる。どこから声が? とベッドから顔を出してキョロキョロと見渡す。手に違和感を覚えて開くと、いつの間にか緑色の鈴を握っていたようでそれから声が聞こえたのだと理解し、慌てて言葉を返す。もしかして、ルードが握らせてくれたのかな。



「起きてるよ!」

「昼食はどうしますか? 食堂で食べます? 部屋で食べます?」

「部屋で……。動けそうにない、から……」

「……。わかりました、じゃあ部屋に持っていきますね」



 一瞬ニコロが沈黙したのはなぜだろう。そして、五分もしないうちにニコロが昼食を持ってきてくれた。ベッドの中にいるおれを見て、ナイトテーブルへと昼食を置く。マルセル特性のミルク粥らしい。昨日ごちそうだったから、胃を休めるためにって。



「いただきます」



 両手を合わせてスプーンに手を伸ばし、ミルク粥を食べる。あ、これパン粥だ。甘くておいしい。ニコロはそんなおれの様子を黙って見ていた。あっという間に食べ終えると、ニコロが今日は部屋から出るかと尋ねて来たので、首を横に振る。



「それじゃあ持ってきた本でも読みます?」

「うん、そうしようかな。あ、それとニコロに部屋にいて欲しいんだけど……」

「俺に? えーっと、じゃあこの食器を下げたらお茶の用意して戻りますね」

「ありがとう」



 ニコロは空になった食器を持って部屋から出て行き、すぐに戻ってきてくれた。お茶と茶菓子を用意して。紅茶をナイトテーブルに置くと、おれに本を差し出した。この前借りた本。後二冊あるからサクサク読み終わらないと。



「ニコロも読む?」

「いや、俺は良いです。この茶菓子食べても良いですか?」

「もちろん」



 さっきからちょっとソワソワしていたのは、お菓子が食べたかったから? 年上だけど、こういうところは可愛いよね。と、心の中でひっそりと思い紅茶を飲む。うーん、やっぱりじいやさんのこだわりだからかここの紅茶が一番美味しい気がする……。ニコロに視線を向けると嬉々としてお菓子を食べていた。



「ニコロっていつから甘い物好きなの?」

「んー……。自分の金で買えるようになってから、ですかね? 食堂でバイトし始めて、初めて自分の金でクッキー買ったんですよ。それがうまかったから、かな」



 なるほど……。



「ここに来て良かったのは、甘い物がたくさん食べられることでしたし」

「サディアスさんの屋敷でも出そうな気はするけど」

「庶民の舌が肥えるようなたっかいモンを用意するんですよ、団長は……」



 ああ、食べたことがあるのか。しかし、それってどんな甘い物なんだろう。んー……高いお菓子……。わからない。ケーキ? うーん。



「それで、俺をここに呼んだの、なにか理由があるんじゃないんですか?」

「…………バレてた?」

「なにか話したそうにしていたので」



 おれは本をベッドの上に置くと、自分の膝を抱いてニコロに顔を向ける。ニコロは立ったままおれを見ていて、一体どんな話題が出てくるのかと紅茶を飲んでいた。おれは恐る恐るニコロに尋ねる。



「ニコロは、その……。サディアスさんとえっちする時、乱れたことある?」



 ぶはっとニコロが紅茶を吹き出した。気管に入ったのかゲホゴホとむせている……。そして、涙目で「なにいってるんですか!」とばかりにおれを睨む。気を取り直したようにニコロがごほんっと咳ばらいをして、それから訝しむように腕を組んで壁に背をついた。



「なんだってそんな話題に……」

「だって! ルードに抱かれるたびにおれの躰変になるから……」



 最初の勢いはどこへやら……。後半は消え入りそうな声になっていった。こういう話を出来るのがニコロくらいしかいない。彼もまぁ、抱かれるほうだし。サディアスさんがどんな風に抱いているかは知らないけど。



「……なんかあったんですか?」

「あったというか……ううう」



 どこまで話して良いものか。ちらりとニコロを見て、とりあえずあの一週間で覚えた性的なことを顔を赤くしながら話す。ニコロはとても遠い目をした……。そして、はぁ、と小さくため息を吐いてぐしゃりと自分の髪を掻き上げる。



「えーっと。ルードさまにされて嫌だったんですか?」

「そういうわけじゃないけど……。どうしよう、乱れ過ぎてルードに呆れられたら」

「いや、その心配は絶対ないです。断言します。つーか、うん……。あの隊長がねぇ……。順調に調教されてません、ソレ?」

「ちょ、調教……」



 快楽に溺れる調教って……。ニコロが淡々と言葉を続ける。



「だって、もう自分だけじゃ満足できない躰にされてませんか?」

「えっ」

「隊長がいないとダメな躰に、調教されているようにしか聞こえないんですけど……」



 そ、そうなんだろうか……。ルードがおれに与える快感に、そんな意図があるんだろうか……。考え込むおれの頭に手を伸ばして、多少乱暴にわしゃわしゃ撫でるとニコロは肩をすくめて見せた。



「……ニコロはサディアスさんがいないとダメになる?」

「なりません。恐ろしいこと言わないでください……」

「でも、抱かれてはいるんでしょ?」



 ニコロに前、サディアスのことをどう思っているのか聞いた時に嫌いではないって言っていたのを覚えている。嫌いではないって理由だけで、サディアスさんを拒まない理由にはならないんじゃないかな……。



「……拒んだ後のほうが大変なんですよ……」



 ぽつり、とニコロが言葉を零す。どういう意味だろう? と首を傾げると、おれの頭から手を離して紅茶を一気に飲み干した。



「とにかく焦らすというか、言葉で責めるというか……。アレなら素直に身を任せていたほうが楽。羞恥で殺される」



 ぶつぶつと独り言のように呟いているニコロ。サディアスさん、ねちっこいのかな……? 知らないほうが良いことも世の中にはたくさんあるし、ここら辺で聞くのやめたほうが良いのかな……。



「って言うかなんで俺、騎士団に居た頃より抱かれる頻度が増しているんだ……?」

「……騎士団ではどのくらいの頻度だったのさ?」

「月イチが主だったのに……」



 おれの言葉が届いているのかいないのか。考え込むように口元に指を掛けて心底わけがわからないと言うように呟くニコロ。へえ、月イチで抱かれていたんだ。と多分知られたくないであろう情報を得てしまった。でも好奇心が勝ってもうちょっと突っ込んだことを聞いていく。



「今は?」

「四日に一回くらい……?」



 割と頻繁だ。サディアスさん、どうやってこの屋敷に通っているんだろうと思うくらいには頻繁だ。ワープポイント使ってたりするのかな。あり得る話だ、サディアスさんなら。
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