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2章:1週間、ルードと一緒です!
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しおりを挟むいっぱい食べて満腹になった。ルードと一緒に寝室に向かう。一週間ぶりのルードの寝室だ。扉を開けて中に入ると、ルードは灯りを点けてソファに座る。ぽんぽんと自分の隣を叩いて、おれにそこに座るように促すので、そこに座るとルードは白色の鈴を取り出してずい、と差し出す。
「これは?」
「鳴らしてごらん」
ちりん、と鈴を鳴らすとすぐに扉がノックされた。ルードが「入れ」と口にすると、ニコロが扉を開けて入って来た。そう言えばルードが夕食後にって言っていたっけ。ニコロは「失礼します」と部屋に入っておれらの傍に近付いた。
「ニコロ。ヒビキの護衛を頼む」
「……念のためにもう一度確認しますが、本当に護衛が俺でよろしいのでしょうか?」
「ニコロの実力は知っているつもりだ。それに、ヒビキもニコロに懐いているしな」
この屋敷でおれが話す男性と言ったらルード、じいやさん、ニコロくらいだもんな……。兄がいたらこんな感じなんだろうかって思う時がある。兄と言ってもニコロとは歳が離れているからこっそりそう思うだけ。
「ヒビキさまは本当によろしいのですか?」
「もちろん! あ、でもニコロがイヤなら断っても良いんだからね!」
強制はしたくないし……。ニコロはおれの言葉に目をぱちぱちと瞬かせて、それからふはっと吹き出した。ルードも驚いたように目を見開いているし、おれ、そんなに変なこと言ったのかな?
「――誠心誠意、お護り致します」
どうやら引き受けてくれるようだ。ほっと息を吐く。引き受けてくれて良かった。
「とりあえず、これからのことを話し合おうか」
「これからのこと?」
「そう。ニコロの仕事内容も含めて」
それから三人で色々取り決めた。結果、ニコロはこの寝室に近い部屋に引っ越すことが決定した。近いほうが便利だろうからって。ルードがそう決めたらニコロの顔は青ざめていた……。イヤだったんだろうかと首を傾げたら、彼は髪を掻き上げて「防音ってどうなってます?」とルードに尋ねた。
「緊急時以外には解除しないから安心して欲しい」
「それなら、まぁ……。部屋を替わるのは後日でいいですか?」
「構わない。この部屋の近くならどこでも好きに使うといい」
ニコロはこくりとうなずいた。ルードはおれに向かって微笑みかけると、手に持っている鈴に視線を落とす。
「ニコロ、この鈴に魔力を。この鈴はヒビキ用にするから」
ニコロに鈴を見せると、彼は一瞬呆れたようにルードを見た。そして、「過保護……」とぽつりと呟く。過保護? とルードとニコロを交互に見たけど、ニコロはおれが持っている鈴に手を翳して魔力を込めた。すると、鈴が緑色に変わった!
「この鈴の音はニコロにしか聞こえない。万が一のために出掛ける時は持っていること。良いね?」
「そんな便利な鈴なんですか……」
「魔道具ですから……」
「それと、ヒビキはこれとこれに魔力を込めてごらん」
そう言ってふたつの白色の鈴を取り出した。
「ニコロ、一個持って」
そのうちのひとつをニコロに持たせた。おれはルードとニコロの持っている鈴に魔力を込めた。ルードが持っている鈴は紺色に、ニコロが持っている鈴は緑色に変化した。
「これで連絡が取りやすくなるな」
「鈴で連絡?」
「あっ、もしかしてこれ……通信の魔道具ですか?」
「正解。これは私があらかじめ魔力を込めたものだ。鳴らせば通信が出来る」
どういう仕組み!? いや、魔道具だから魔法が掛かっているのか……。うーん。あれ、もしかしてかなり高いものなのでは……? 知りたいような知りたくないような……。心なしかニコロの顔が引きつっているような気がする……。
「それじゃあ、俺はこれで失礼しますね」
「ああ。私が居ない時はヒビキを頼む」
「かしこまりました。では……、あ、そうだ、ヒビキさま。足、前よりも調子が良いです。本当にありがとうございました」
「……そっか、良かった!」
軽く頭を下げてからニコロは部屋から出て行った。それにしても案外すんなりと色んなことが決まっていった。ルードとニコロはぽんぽんと意見を交換してすごいなーとしか思えなかった……。おれが護衛に対して望むことはあるかって聞かれた時は、そもそもなにを望めばいいのかわからなかったから、質問ばかりしてしまったし……。
それでも、おれの質問をひとつひとつ丁寧に答えてくれた。結局、おれがニコロに望んだのは無理をしないこと、休日はしっかり休むこと、自分の身も護ること、くらいだった。これから増えるかもしれないけれど……。
「……一週間、どうだった?」
「楽しかったです。王都も色々見られたし、ルードとずっと一緒にいるのも新鮮でしたしね。ルードはどうでした?」
「もちろん、楽しかった。ヒビキのことを色々知れたしな」
ふふ、と目元を細めるルードに、おれも笑みを返した。そして、おれは鈴の使い方をルードに教わる。鳴らす時に魔力を込めるらしい。試しにルード用の鈴に魔力を込めて鳴らしてみた、けど――……。あれ、音が鳴らない?
「震えている?」
「鈴の音だと気付かれる時もあるだろうからね。代わりに振動にしてみた」
「便利な機能ですね……。そしてルードの声が二重に聞こえる」
「鈴を持っているからね」
鈴……なんて便利な道具なんだ。小さいからなくさないようにしないと。この世界の人たちはこうやって連絡を取り合っているのかな。あれ、でも前は手紙をくれたよな……なんで今回は鈴なんだろう?
「鈴を持っていないと通話できない?」
「そう言うこと。後で鈴を繋ぐ紐を用意しよう」
「はい、お願いします。小さいからなくしそうで怖いですし……」
あ、前にもらった鈴も一緒に紐で繋ごう。後で糸を見繕ってくるとルードが言ったので任せることにした。どんな紐を持ってくるのかちょっと楽しみ。そう言えば、おれらが持ってきた荷物はどこに行ったんだろうと部屋を見渡すと、ナイトテーブルの上に置いてあった。
「明日、ヒビキはゆっくり休んでいて良いからね」
「へ?」
「多分、起き上がれないと思うから」
ルードはおれの手から鈴を取ると自分のと一緒にローテーブルの上に置いた。それからおれの手を取って立ち上がる。おれも立ち上がると、そのまま抱き上げられた。驚いてルードにしがみつくと、彼は「落とさないよ」と優しく言う。
わかってはいるけど、つい……。
とても丁寧にベッドに寝かせられた。ルードがおれの髪を丁寧に撫でて、それから唇を重ねる。触れるだけのキスから、何度も角度を変えて。つん、と唇に彼の舌先が触れた。おずおずと口を開くとルードの舌がおれの口内に入って味わうように口の中を舐められる。負けじと舌を絡めた。――あれ?
何度もキスをしてきたからか、大分息が出来るようになったような……? ぴちゃぴちゃと水音が聞こえる。飲み込み切れない唾液が口端から伝うのを感じながらも、キスに夢中になった。
「ん、ふぁ……」
鼻から抜けたような声が出た。ルードの背中に手を回して、もっととねだるように舌先を吸う。そのままキスを続けて――唇を離す頃にはおれの息は上がっていたけど、それでもこんなに長く深いキスを出来たのは初めてで。この一週間でコツを掴んだのだろうか。
「気持ち良かった? 目が蕩けているよ」
「ん……」
小さくうなずくと、ルードが優しくおれの頬に手を添えて微笑んだ。キスを繰り返すことで息継ぎが出来るようになったのかな。それでも、舌を絡めてするキスは頭の芯が痺れるような感覚がある……。……もしかして、口の中も性感帯……!?
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