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2章:1週間、ルードと一緒です!

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 それにしても、写真がないからかメニューには料理の絵が描かれていた。それの美味しそうなこと! って言うか普通にパスタやピザがあるんだなぁ。和食はどこを探せばあるんだろう。もしかしたら、国外には日本みたいなところがあったりして。だって日本の調味料もあったし……。



「どれで迷っているの?」

「えっと……こっちのパスタかこっちのピザかで……」



 ルードがひょいとメニューを覗き込んできたので、迷っているメニューを指す。ソニアさんのところは二種類だったから、割と迷わずに決められたけど……。



「なら、そのふたつを頼めばいい」

「え?」

「半分ずつ食べよう」



 ルードの提案におれは迷った。だってルードも食べたいのあるかもしれないし……。おれが迷っているのに気付いたのか、ルードはひょいとメニューを取り上げて店員さんを呼び、注文してしまった。良いのかなぁ……。



「飲み物は紅茶にしようか、ジュースにしようか?」

「じゃあ……ジュースで。ミックスジュース」

「私は紅茶を」

「かしこまりました。少々お待ちください」



 メニューを閉じて元の場所に戻すルード。さらりと彼の髪が流れて、それを耳に掛ける仕草にちょっとドキッとした。そういう仕草の美しさも貴族って感じがする。まぁ、おれが会ったことのある貴族って限られているから、全員が全員そうっていうわけではないだろうけど。

 しばらくすると店員さんが料理と飲み物を運んできてくれた。小皿も一緒に。結構なボリュームのボロネーゼとマルゲリータだ。でもすっごい美味しそう!



「ごゆっくりどうぞ」

「ありがとうございます」



 にこりと微笑んで軽く会釈する店員さん。おれが料理に目を輝かせていると、ルードは早速料理をわける。小皿にパスタをのせておれに渡す。それを受け取ってふたり揃っていただきます、を口にして早速パスタから食べた。フォークでくるくる巻いて一口。麺がぷりぷりしていて美味しい! おれ、あんまりボロネーゼってあんまり食べたことないんだよね……。ミートソースだったら何度も食べたことあるけど。姉の得意料理だ。姉はストレスがたまると野菜をみじん切りにしたくなるらしく、野菜をみじん切りにしている時に話しかけてはいけない……。ミートソースとはやっぱり味が違うんだなー。これはこれで好きな味だ。

 もぐもぐ食べていると、ルードがおれをじっと見ていた。首を傾げると、彼は心底楽しそうに目元を細めて、ナプキンでおれの口元を拭いた。



「本当、ヒビキは美味しそうに食べるね」

「めっちゃ美味しいですよ!」



 力説すると、ルードは目を丸くして、それから自分もパスタも食べた。ルードの感想がどんなものなのかが気になって、彼を見ると「うん、美味しいね」と笑った。彼の口にも合ったみたいで良かった。ミックスジュースを飲むと、色んな果物の味がした。濃厚なのに後味がさっぱりしていて不思議な感じ。一体何種類の果物が入っているんだろう……。

 次にピザに手を伸ばす。切られているからそのひとつを手に取って――ビヨーンと伸びるチーズに「わぁ」と声を上げると、ルードもピザを手に取ってチーズを伸ばしていた。良く伸びるチーズだなぁ。

 ピザはマルゲリータ。迷ったらこれ一択。トマトソースとチーズの相性抜群! ちょっと意外だったのは生地が薄めでカリカリしているところ。でもこのカリカリなのも好き。もちろんもちもちしている生地も大好物だ。

 マルセルさんはこういうの作らないのかな……? パンの生地とピザの生地ってやっぱり違うのかな……? パンやピザ生地を作ったことないから良くわからないや。

 ルードは黙って黙々と食べていた。おれが見ていることに気付いて首を傾げる。ピザを食べる姿も優雅なのがルードらしい……。



「これを食べたらどこに行く?」

「ええっと、おれの用事はもう済んでいるので……。あ、屋敷に帰る前に掃除がしたいです」

「掃除?」

「お世話になったので……」



 そう、とルードが呟いて、ふたりであの隠れ家を掃除することにした。良し、がんばってピカピカに磨こう。頼んだ料理を食べ終えてから隠れ家に戻る。ちょっと早めのランチだったけど、今から掃除をすれば屋敷に帰るのにちょうどいい時間帯になるだろう。

 ちなみに料金の支払いはルードがした……。自分の分を出そうとしたら断られた。今度なにかお礼を用意しよう……。

 隠れ家について、早速とばかりに掃除を始める。毎日軽くは掃除していたけど、フェンリルたちが戻るだろうし、お世話になった分も含めて心を込めて掃除をした。部屋の数が少ないから出来ることでもある。……広いけど。窓を拭いたり使った物全てをピッカピカに磨き上げた頃にはおれもルードも汗だくになっていてちょっと面白かった。



「それじゃあ、帰ろうか。屋敷に。忘れ物がないようにね」

「はい。フェンリルたちに伝えなくても良いんですか?」

「ああ、私の気配で帰ったことに気付くだろうし……。気になるならメモでも残していく?」



 その提案におれは乗った。まだまだぎこちない文字でフェンリルたちにお礼の言葉を伝える。家を貸してくれてありがとうって。あと一言。ルードのことをこれからもよろしくお願いしますって。……おれが言うことではないのかもしれないけど。

 施錠もしっかりしたことを確認して、おれらは荷物をまとめてワープポイントの部屋に入る。



「あれ、施錠してフェンリルたち入れるんですか?」

「精霊だから大丈夫だよ」



 そんなもんなのか……?

 ルードと手を繋ぐと彼がそこに手を翳して設定し、そのままワープポイントを抜ける。何度やっても不思議な感覚。屋敷のワープポイントに一瞬で到着し、手を引かれるままその部屋から出ると――……。



「おかえりなさいませ、ルード坊ちゃん、ヒビキさま」



 いきなり出迎えられた。びっくりした。扉を開けてすぐだったから余計に。今朝ぶりのじいやさんだ。じいやさんはにこりと微笑む。周りを見れば、なぜか使用人さんたちが集まっていた。休みはどうしたの? と困惑していると、ルードが肩をすくめた。



「別に合わせなくて良かったのだぞ?」

「我々はこの屋敷の使用人ですよ、坊ちゃん。坊ちゃんとヒビキさまの帰館に合わせなくてどうします」



 あ、ルードが帰って来る日に合わせてたのか。でも時間なんて伝えていなかったのに……。よくこの時間に帰るってわかったなぁ……。実はじいやさん情報通?



「あ、あの。ただいま、です……」

「はい、おかえりなさいませ。王都は楽しかったですか?」

「とっても! なんだかすごく新鮮でした」



 ルードの屋敷にずっと居たから、外の景色がすごく新鮮だったし、聖騎士団も見せてくれたし……聖騎士団員に対する態度と普段おれが見るルードが全然違うことがわかった。ニコロはきっとああいうルードもたくさん見てきたのだろう。



「それはようございました。坊ちゃん、ヒビキさま、お風呂の用意が出来ておりますので、先に汗を流して来てください」

「はい」

「わかった。ニコロ、夕食後に私の部屋に来てくれ」

「かしこまりました」



 じいやさんがいるからか、ニコロの言葉遣いが丁寧だ。それをにこにこと見ているじいやさん。リーフェと目が合って、彼女はぱちんとウインクした。後で色々聞かれそう。おれもリーフェがどうやって過ごしたか気になるから、丁度いいけど。

 おれらの持ってきた荷物はじいやさんたちが預かってくれて、そのまま風呂場に向かうことになった。

 お風呂に入ってさっぱりしたところで、夕食の準備が出来たと食堂に。……めっちゃ豪華なメニューで今日はなんかの記念日だっけ? と首を傾げてしまった。どうやらマルセルさんたちシェフが張り切って作ってくれたみたい。ありがたく美味しく頂いた。やっぱりここの料理美味しい……!

 日本食が恋しくなる時もあるけれど……。すっかりここの料理のファンになってしまった。ルードは黙々と食べている。美味しいから食べ過ぎないように気を付けなければ……。って思いつつ、ついつい食べちゃうのはおれが成長期だからか、それとも料理が美味しすぎるからか……どっちもだな、きっと。
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