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2章:1週間、ルードと一緒です!

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 この世界に来てから謎のことも多いし……。ちらりとルードの顔を見ると、ルードは「ん?」と首を傾げた。



「お風呂に入ろうか」

「そうですね。じゃあ、おれ準備してきます!」



 パタパタと足音を立てて風呂場へ向かう。もしも日本に帰るならこの生活魔法持って帰りたいくらい便利。……おれがこっちの世界に来れたなら、ルードも日本に来ること出来ないのかなぁ。日本で紺色の髪は珍しいかもしれないけど、色んなカラーを染めている人だっているんだし……。

 ……なんて、ね。よーし、さくっとお風呂の準備をしよう。生活魔法を使ってサクッと準備を終えた。終えた瞬間にルードがひょっこりと風呂場に来た。

 ルードはバスローブを持っていたから、そのままお風呂に入る。髪や躰を洗ってのんびりと湯船に浸かり明日のことを話し合った。



「あっという間の一週間でしたね」

「そうだな。もう明日で終わりか……」



 ちゃぷんと湯船のお湯が跳ねる。のんびりとした口調でそう言うと、ルードもしみじみと……どこか残念そうに息を吐いてぎゅっと後ろからおれを抱きしめた。そして、こつんとおれの肩に額を乗せる。



「あまり観光旅行らしい感じではなかったが……」

「楽しかったですよ? おれが行きたいところは全部案内してくれましたし……」



 聖騎士団の塔も見せてくれたし、教会でスキルもわかった。図書館の本の多さにはびっくりしたけど――……。あっ! 図書館で思い出した。ルードは確かあの図書館の本を全部読んだらしいけど……。



「そう言えば、図書館にはおれのような存在の本ってありましたか?」

「いや、あそこにある本にはなかったような……。閲覧禁止の本にあるかもしれないが……」

「迷子はおれだけなのかなぁ……」



 事例がないのであれば探しようがないような……。ただ、なんかアデルは知ってそうな気がするんだよな。おれの名前を聞いて『やっぱり日本人か』って呟いてたし……。あと、『シリウスに気を付けなよ』って言っていたし……。シリウスさんに気を付けろってどういうことなんだろう。



「……でも、今は残り一日をルードとどう過ごすかを考えないと!」

「私と?」

「そうですよ! だってもうあと一日じゃないですか! 明後日からルードは仕事だし、今のうちにルードとしたいことをしなくちゃ」



 ルードはおれの肩から額を離して、代わりに覗き込むようにおれを見た。おれはにかっと笑ってそう言う。遠い未来より、明日のことを考えないと!



「……仕事に行くのが億劫だと思えるようになっただけ、私も大分……」

「?」



 ルードがぽつりと零した言葉は聞こえなかったけど、その時に見えたルードの表情がとても…………なんて言うか、扇情的? だったからドキッとした。じっくりと温まってからざばっと上がり、バスローブに袖を通して生活魔法で一気に躰を髪を乾かす。ついでにバスローブも乾く。便利。

 生活魔法使うたびにそう思っている気がする……。



「どうした、ヒビキ?」

「生活魔法って便利だなぁってしみじみ思いまして」

「ああ、魔法がない国と言っていたな。どうやって乾かしていたんだ?」

「ドライヤーで……」



 聞きなれない言葉に首を傾げるルードに、おれは身振り手振りで説明した。ドライヤーの仕組みなんてよくわからないから、熱風を当てて髪を乾かすことを伝えたらルードは目を丸くして「熱くないのか?」と真剣な表情でおれに問う。

 そりゃ熱いよ。夏は地獄だよ。乾かしている途中で汗だくになるからな!

 と、もう少し丁寧な言葉で伝えると、ルードは一言「不便だな」とおれの頭を撫でながら言った。

 生活魔法が日本でも使えたらなー……。



「それで、明日はどうする?」

「……んー、行きたいところは全部回ったから……。あ、ルードはどこかありますか? 行きたい場所」

「ふむ……」



 寝室まで向かい、ベッドに腰を掛けながら明日のことを話す。明日でこの観光旅行も終わりかと思うとちょっと……いや、かなり寂しい。明後日からルードは仕事に戻るし、おれはおれで屋敷で文字の読み書きや魔法の練習をする生活になるだろう。



「そうだな……。うん、一ヶ所、行きたいところがある」

「どこですか?」

「明日のお楽しみ」



 もうお休み、とばかりにちゅっと額にキスをして、微笑むルード。……今日もしないらしい。いやっ、残念とかそう言うのではなく!

 ベッドに潜り込んで目を閉じると、おれの髪を優しく撫でるルードの手に、あっという間に眠りに落ちた。









 小鳥のさえずりが聞こえて目を覚ますと、ルードが着替えを終えたところだったようで、おれがもぞもぞと起き出すとベッドに腰掛けて「おはよう、ヒビキ」と笑みを浮かべた。



「おはようございます、ルード」



 目を擦りながら寝ぼけ眼で挨拶を返すと、ルードはふふっと笑ってそれからちゅっと軽く頬にキスをして立ち上がり、クローゼットから服を取り出しておれに渡す。服を受け取って着替えるとちょっとだけ目が覚めて来た気がする。



「今日はじいやが朝食を運んでくれるみたいだ」

「え? なんでわかるんですか?」

「昨日ヒビキが眠ってから、バスケットを屋敷に持っていったから。その時にね」



 いつの間に……。全然気が付かなかった。じいやさんに会うのも久しぶりな気がする。五日ぶりくらい? その前に顔を洗おうと洗面所に向かって水で顔を洗う。リビングまで行くとルードが既に座っていて本を読んでいた。



「三冊も借りたのに結局一冊しか読めませんでした……」

「ゆっくり読めばいいよ。本は逃げないのだから」



 ルードが読んでいる本はなんだろうと思って聞いてみると、冒険ものらしく、ひとりの少年が冒険者として生きていく物語らしい。らしいと言うのは、まだ少年が冒険に旅立っていないからだってさ。

 そのうちおれも読めるようになるかな? って思っていたら、玄関の扉がノックされる音に続いてじいやさんの声が聞こえた。



「ルード坊ちゃん、ヒビキさま。おはようございます」



 おれらが玄関を開けると、恭しく頭を下げるじいやさん。おれらも挨拶を返すと、じいやさんはにこりと微笑んだ。



「ヒビキさま。ヒビキさまの故郷の料理、大変美味しくいただきました」

「わ、本当? 口に合ったのなら良かった!」

「ルード坊ちゃん、こちらが朝食となります。本日はご帰宅予定でしたね。夕食の準備はいかがなさいますか?」

「夕食時には戻るから頼むとしよう。良いか? ヒビキ」

「もちろんです!」



 屋敷の料理は屋敷の料理として大好きだし。じいやさんはバスケットをルードに手渡すとそのまま戻っていった。



「…………ちょっとした疑問なんですけど」

「なんだい?」

「じいやさんもニコロも、どういう道を歩けば屋敷からこの隠れ家につくんですか?」



 屋敷から王都へは一瞬だけど……。でもこの隠れ家にあるワープポイントを使っていないから……。そこからここまでの距離って一体どのくらいあるんだろう……?



「……そう言えば、気にしたことなかったな」



 ……ある意味予想通りの返事を聞いて、遠かったらごめんなさい、と心の中で謝罪した。

 玄関の扉を閉め、施錠してからリビングに戻る。バスケットの中には美味しそうなパンが入っていた。



「美味しそうですね」

「ああ。早速いただこうか」



 おれらは手を合わせて「いただきます」と口にしてからパンを手に取って口に運んだ。あ、このパン角切りのチーズが入っていてめっちゃ美味しい!

 ルードの手にしているパンを見てみると、形が違うから多分味も違うのだと思う。それにしても、この種類のパンを焼いたって、何時起きなんだろう……。



「このパンはチーズが入っていました。ルードのパンはなにが入ってましたか?」

「バジルとオリーブが入っているようだ。これはこれで美味しいよ。……マルセルはちゃんと休んだのだろうか」

「あはは……、どうなんでしょうね……」



 休みだから大量にパンを焼いている可能性もあるのな……?
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