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2章:1週間、ルードと一緒です!
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しおりを挟む「それじゃあ、行こうか」
「はい。ここから近いんですか?」
「歩いて十分くらい」
ワープポイントのおかげで移動に楽できるから本当便利だなぁ……。そう言えば、ギルドって他にもあるのかな。商業ギルドとくれば、冒険者ギルドもありそう。
「ギルドって他にもあるんですか?」
「あるよ、冒険者ギルド。活気はすごい。冒険者と言っても色んな人たちがいるから、あまりヒビキには近付いて欲しくないな」
「それはどういう……」
「気性の荒い人たちも多いってこと。ヒビキが巻き込まれたら……って思うと、とても怖いよ」
心配してくれているのか。優しいな、ルードは。それにしても、冒険者ギルドってそんなに怖いところなのか? ……リアも冒険してたって言っていたし、そんなに危険な感じはしないのだけど……。いや、ここはルードの言葉を信じよう。なにも知らないおれがのこのこ顔を出して騒動に巻き込まれるってのだけは避けなくては。
「リアは冒険していたみたいなんですけど、ルードは聞いたことがありますか?」
「軽く聞いたことがあるよ。結構お転婆だったみたいだね」
「軽く?」
「……興味がなかった」
……ルードって本当、ある意味清々しいほど人に興味を持たないよな……。しかしそんなルードに自分の冒険談を語るリアもすごい。
「あ、あそこだよ。商業ギルド」
「わ、結構な広さですね!」
「王都の商業ギルドだからね。連日賑わっているよ」
かなり広い建物だ。二階建てだというのに部屋がいくつあるのだろうと思うくらい。商業ギルドに入ってすぐに受付カウンターがあり、そこには――リアの言うように、クマみたいに大きな人が座っていた。
「――これは、メルクーシンさま。どのようなご用件で?」
「見学だ。この子の希望でね」
ぽん、とおれの頭を撫でるルード。おれとその人はばちっと目が合って、慌てて頭を下げた。
「あ、あの、初めまして。ヒビキです」
「ああ、妻から聞いています。リアがいつもお世話になっています」
「いいえっ、お世話になっているのはおれのほうで……!」
ふたりで頭を下げ合っていると、ルードがクスクスと笑う。ハッとして辺りを見渡せば、商業ギルドに来ている人たちが「なにがあったんだろ?」とこちらを見ていた。
「コーディ、折角だからその子と話してくれば?」
そう声を掛けたのは彼の隣に座っている受付の女性だった。めっちゃ綺麗な人。コーディ、と呼んでいたから、きっとこの人の名前なのだろう。
「え、でも……」
「大丈夫よ。この時間ならまだ余裕があるわ。でも二十分後には戻ってきてね」
「わかった、ありがとう」
受付から立ち上がり、おれらを奥の部屋へと案内してくれた。アポなしで来たのに……とおろおろしていると、ルードが優しくおれの手を引いて部屋へと入る。コーディさんがお茶を淹れて、茶菓子にとビスケットを出してくれた。
「改めまして、リアの夫のコーディです」
クマみたいな人、というだけあって、身長も体格も大きい。受付と言うか用心棒っぽい風貌の人で、頬に傷跡が残っている。茶色の短髪に焦げ茶色の瞳。それでも、にこりと微笑むその姿は優しげで、この人良い人っぽいなーっと感じた。
「リアにはいつもお世話になっています。特に刺繍で」
「妻は良い教え子が出来たと喜んでいましたよ」
驚いて目を瞬かせた。ちょっとくすぐったい気持ちになる。リアの教え方は結構なスパルタだけど、ちゃんと褒めてくれるしダメなところは一緒に直してくれるから、おれはめげずに刺繍が出来たと思う。
教えるのが苦手、と言っていたリアを思い出して、小さく笑みを浮かべた。
「それは……嬉しいな」
「一度お会いしてみたかったので、会えて光栄です」
「おれも会えて嬉しいです。えっと、コーディさんはリアと冒険していたって聞きました」
「ああ、懐かしい。今では大分大人しくなりましたが、若いころのリアは本当にお転婆で――」
懐かしむように目元を細めて笑うコーディさん。彼らの冒険談を熱心に聞いていたら、あっという間に二十分経ってしまった。もっと聞きたかった……!
特にリアが竜の逆鱗を狙って竜の里に行こうとするのを、必死で止めるコーディさんの話には思わず笑ってしまった。って言うかこの世界竜もいるの?
仕事に戻るコーディさんに、また今度リアとの冒険談を聞かせてくださいってお願いをしたら、「喜んで」と微笑んでくれた。
おれとルードはお茶を飲んでから部屋を出て行く。ルードはずっと無言だったけど……良かったのかな。
「……若いころのリアがとてもお転婆だったのがわかったな」
「竜の里って本当にあるんですか?」
「ある。だが、並大抵の人が行ける場所じゃないのは確かだ」
竜だもんねー……。ん? そう言えばこの世界ってどれだけの種族が暮らしているんだろう。人間、精霊、魔物、竜のほかにエルフやドワーフって住んでいたりするのかな?
「後は軽く商業ギルドを見て行こうか」
「はい!」
ルードと手を繋いで商業ギルドの中を探検する。とはいえ、一般に公開されているエリアは少ないらしく、数ヶ所見終わったら見学できるところは全て見た。色んな商品の登録をここでしているらしく、商業兼研究所って感じがする。
「ヒビキ、この後はどうする?」
「え? あー……。そうですね、おれが見たいところってここで最後か……。どうしましょう、考えていませんでした」
「なら、ちょっと私に付き合ってくれないか?」
「ルードの行きたい場所、ですか? もちろん良いですよ!」
商業ギルドを後にして、ルードの行きたい場所へ向かう。少し歩いた先になんだか高級そうなお店があって、ルードは躊躇うことなくそのお店に入っていった。――宝石店、かな? ここ。色んなアクセサリーを置いているみたいで、イヤリングやネックレス、ブレスレットに指輪。色とりどりの石で飾られたブローチなど、本当、色々なものが置いてある。
「あ、あの、ルード?」
どうしてこんなところにおれを連れてきたんだろうと思っていると、ルードがおれの手を離してからおれに向かい合った。愛しそうに目元を細めて、口を開く。すっとあるものを取り出して驚いた。それはあの日、おれがルードにあげたハンカチだったから。
「ハンカチのお礼がしたくてね」
「ハンカチって……、おれが刺繍をしたハンカチの、ですか? そんな、お礼をして欲しかったわけじゃないんです!」
「知っているよ。全てヒビキの好意からだって。だからこそ、私はヒビキにお返しをしたい。――ダメだろうか?」
ハンカチをポケットに戻して、ルードはじっとおれを見た。
う、そんな目で見られるとここで断るおれのほうが酷いヤツな気がしてくるじゃないか……。おれらの会話を聞いていた店員さんが、恐る恐る声を掛けてくる。
「いらっしゃいませ。どのような品をお探しでしょうか」
「この子に合うものを。出来ればいつも身に着けられるものが好ましい」
「でしたら、こちらのブレスレットはいかがでしょうか」
「カイヤナイト?」
おれとルードを交互に見てから店員さんがブレスレットを勧めてきた。視線を落とし、深い青色の石を見て、そこに記されている名前を口にすると、店員さんが小さくうなずく。
ルードの瞳より深い青色だ。石のことはよくわからないけど、店員さんが勧めるくらいだからなにか理由があるのかもしれない。
「では、それを頂こう」
「え!?」
「かしこまりました、少々お待ちください」
あっという間に決まった!
店員さんは鍵を開けてブレスレットを手にすると、おれの手を取って手首にブレスレットをはめて調整した。
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