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2章:1週間、ルードと一緒です!

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 額に触れる柔らかい感触。目をぱちりと開けるとドアップで恋人の顔が視界に入って思わず変な声が出た。そんなおれの様子にルードは目を丸くしてからクスクスと笑う。そっと頭に手を伸ばして、くしゃくしゃと髪を撫でられた。

「――……あさ?」
「うん。おはよう、ヒビキ」
「おはようございます、ルード」

 ちゅ、と軽く唇が重なって、ルードはおれの躰を起こした。

「歩けそう?」
「……たぶん」

 床に足を下ろして立ち上がる。うん、最初にドライで達した時は動けそうになかったけれど、今日は大丈夫みたい。……うう、昨夜のことを思い出してその場にしゃがみこんだ。いくらなんでも乱れ過ぎだろう!

「ヒビキ?」
「あ、いえ。なんでもありません」

 立ち上がって赤くなっているだろう顔を隠すように俯く。そんなおれの反応に、もう一度頭を撫でた。

「朝食は用意してあるから、それを食べたら本を読もうか」
「はい」
「そのあと森の中を散歩しようか。折角ヒビキのスキルもわかったのだから、試しに使ってみよう」
「え?」
「ヒビキにスキルと魔法の使い方を教える。これは自分の魔力を把握するためでもあるから……」

 森の中で魔法って使っていいものなの? と首を傾げるとルードはおれの頬を両手で包んでにこりと微笑む。そしてフニフニと軽く頬を揉んで満足したのか部屋から出て行った。……おれにスキルと魔法の使い方を? ルードが自ら?

「……生活魔法と使い方違うのかな……?」

 とりあえず着替えて顔を洗おうとクローゼットから服を取り出す。手早く着替えて顔を洗って、ルードが待っているリビングに向かう。あまーい香りが広がっていて、ぐぅと腹の虫が鳴いた。
 椅子に座るとすぐにルードがすぐに皿を置いてくれた。色とりどりの果物が乗ったフレンチトースト。黄金色にキラキラと輝いてすっごく美味しそう!

「さぁ、召し上がれ」
「いただきます!」

 早速とばかりにナイフとフォークを手に取って一口サイズに切り取り口に運ぶ。思っていたよりは甘くない。上品な甘さ。甘さとバターの塩分が丁度良くて、思わず口元が緩む。

「美味しい?」
「とっても!」
「良かった。ニコロにレシピを聞いた甲斐があったよ」

 このフレンチトースト、ニコロのレシピだったのか……! パティシエになれそうだよな、ニコロって。
 ――おれのスキル。それを使えばもしかしたら――……ニコロの足は、治るのかな……? スキルで奇跡を起こせると聞いた時から、その可能性があるんじゃないかと考えていた。

「ルード。森に行く時、ニコロも誘ってはダメですか?」
「ああ、それは大丈夫。もう誘っているから」
「え」
「あの辺、結界を抜けるから念のためにね」

 それって魔物と出遭う可能性もあるってこと? 思わずじっとルードを見つめてしまった。ルードがなにを考えているのかさっぱりわからないや……。

「……もれなくサディアスさんも来たりしませんかね?」
「それは……わからないな。私が誘ったのはニコロだけだよ」
「もしも――おれがニコロに、スキルのことを話したいって言ったら、止めますか?」

 ニコロにはお世話になってるし、それを言うなら屋敷の人たちにはとてもお世話になっているから出来れば隠し事はしたくない。そう伝えると、ルードは少しだけ考えるように目を伏せて、それなら、と口を開く。

「屋敷の人たちには伝えようか」
「良いんですか?」
「屋敷の人たちだけ、ね」

 はい、と首を縦に動かした。良かった、と安堵の息を吐く。おれ、隠し事苦手だから……。そう言えば、スキルを公表している人としていない人ってわかるものなのかな?

「スキルって公表している人が多いんですか?」
「いや? 特に公表はされていない。聞かれたら答える人は多いかもしれないけれど」
「……それと、ニコロが走れないことを知っている人は多いんですか?」
「リハビリ中、と言うことになっている。それこそニコロが外に出たのは昨日が初めてだろうから、走れないことを知っている人は少ないだろうね」

 てっきり多くの人が知っているのかと思った。そっか、リハビリ中ってことになっているのか。

「――なら、おれのスキルを、ニコロに使っても良いですか?」
「それはニコロに聞いてみないとね」

 ……そりゃそうだ。ニコロの躰だからな。ルードは反対しないみたいだし……。

「ええと、ルードはおれがニコロにスキルを使うのは……」
「ニコロが良ければ止めないさ。多分、ニコロも止めないとは思うけど」

 そう言って自分のフレンチトーストを食べるルード。おれもそこで会話を止めてフレンチトーストにもぐもぐと食べた。……それにしても、いつの間にニコロを誘ったんだろう。

「ごちそうさまでした。食器はおれが洗いますね」
「……じゃあ、お願いしようかな」

 食べ終わった食器を下げて、生活魔法を使って片付ける。……なんて便利なんだ、生活魔法……!

「すっかり生活魔法をマスターしたね」
「あはは、そうだと良いんですけど」

 食器を棚に戻して、昨日借りてきた本を取りに行こうとしたら既にルードが取ってきてくれたみたいで、紙袋がちょこんとテーブルに置かれていた。

「私も本を読んでいるから、読めない文字やわからないところがあったら声を掛けて」
「はい」

 椅子に再び座り、借りてきた本を取り出す。スキル関係の本だ。じゃあこれから読んでみようかなと表紙をめくる。
 本の内容はどんなスキルがあるか、そのスキルがもたらす効果や、同じスキルを持っている人でもその効果は人それぞれと言うことがわかった。スキルは個性ってニコロが言っていたのを思い出す。これを見ると、本当にその人の個性なんだなぁ感じた。
 例えば、リーフェの鋼の檻。あれを維持できるのが短時間か長時間か、はたまたスキルを持っている人が意図的に消さなくてはいけないのか、少なくとも三種類の人たちがいるってことだ。
 おれのスキルを探して読んでみたら、神父さんの言っていた通りの説明が載っていた。これに関しては精霊さんが関わっているからか、どれだけの精霊さんに好かれているのかがスキルの強さと比例するようだ。……? たくさんの精霊さんに好かれているから精霊の祝福ってわけじゃないのか……?

「精霊の祝福って一体……」
「ん? ああ。精霊の祝福は確か三体以上の精霊に好かれるのが条件だったかな」
「三体以上の?」
「ヒビキは七色の光を見ただろう? あれはヒビキが七体の精霊に好かれているってことだよ」
「おれが?」

 そう、とルードは微笑んだまま首を縦に動かす。なんでそんなに精霊に好かれているんだろうと首を傾げると、ルードはすっと手を伸ばしておれの頭を撫でる。どんな精霊さんに好かれているのか、ちょっと気になった。だってこの世界、精霊さんの種類が多い気がする……。

「あの時見た光の感じだと、基本の精霊と治癒の精霊のように見えたな」
「基本の精霊?」
「火、水、風、土、光、闇。これが基本の精霊。後はそうだな、私なら氷の精霊に好かれているようだ」
「わかるんですか?」
「スキルを調べるための水晶でね」

 あの水晶そんなこともわかるのか……。もしかして、だから『氷鬼ヒョウキ』って呼ばれているとか? ……さすがにそれはない、よな?

「あ、そう言えばニコロがここに来るんですか?」
「そうだよ。昼食はマルセルにサンドウィッチを作ってもらって、それをニコロが持ってくるんだ」

 ……それって、ただ単にニコロは荷物持ち……?
 昨日の今日で大丈夫かな、ニコロ。いや、あの後どうなったかなんて知らないけれど、サディアスさんが大人しく眠るとも思えなくて。そんなことを考えながら、時間が来るまでもくもくと読書に勤しんだ。
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