【本編完結】十八禁BLゲームの中に迷い込んだら、攻略キャラのひとりに溺愛されました! ~連載版!~

海里

文字の大きさ
上 下
62 / 222
2章:1週間、ルードと一緒です!

21

しおりを挟む

 そして夜が明けて朝になり、おれが起きると隣に居たはずのルードの姿がなくて、辺りを見渡す。もう起きたのかとベッドから降りて服を着替えてルードが居そうな場所へ向かう。ふんわりと良い香りが漂っているから、多分朝食を作ってくれているんだろうな。

「おはようございます、ルード」
「おはよう、ヒビキ。良く眠れたかい?」
「はい、それはもうばっちりです!」

 目覚めたタイミングが良かったからか、ものすごくすっきりとした気持ちだ。窓から外を見るととてもいい天気で、歩くのには最適な天気に見える。

「椅子に座って、もう出来るから」
「はい」

 椅子に座って、すぐにルードが朝食を運んでくれた。ふわふわのロールパンにスクランブルエッグ、サラダにトマトスープ。……これだけ作れるのだから、ルードって本当に家庭的な人だよなぁとしみじみ思う。

「パンはマルセルが焼いたものだ。彼はパン職人をしていたから、パンへのこだわりが強い」
「ああ、通りで美味しいわけですね……!」

 いただきます、と手を合わせてパンを手に持つとルードがそう言った。マルセルさん、ええと料理長だったな。パン職人さんだったのか。そんな人がどうしてルードの屋敷に雇われるようになったんだろう?

「パンへの愛が凄まじ過ぎて、働き過ぎて倒れたらクビになったそうでな。路頭に迷っていたところを拾った。十年前に」
「それってルードが王都に来てすぐじゃないですか?」
「ああ、驚いたぞ。なんせ道端でパンへの愛を呟いていたからな」

 ……それって下手すれば通報案件では……?
 それにしても、マルセルさんそんなにパンが好きだったのか。通りでどのパンも美味しいわけだ。納得!

「マルセルは料理人と言うより研究者だな、特にパンに対する。もちろん、他の料理も美味だが、パンが一番美味しい」
「……屋敷の人たちって本当、個性的ですよね……?」
「なぜかそんな者たちばかりが集まったな」

 パンを一口サイズにちぎって口に運ぶルード。うーん、何度見ても様になっていて格好いい。真似してみても、あんなに格好良く食べられないのはなぜなのか。イケメンと普通顔の差かな……、自分で思ってちょっと悲しい。

「今日は図書館だったね」
「あ、はい。楽しみです」
「色々な本があるから、ヒビキは圧倒されてしまうかもしれない」

 そんなに本の数が多いのか……? 読める本がありますように、そして願わくはおれが求めている本がありますように。美味しく朝食を頂いて、食器はおれが洗うと宣言して片付けた。
 おれが食器を洗い終わるのと同時に、ルードがそっと背後からおれに抱き着いてびっくりした。

「ルード?」
「世の中の新婚家庭とはこんな感じなんだろうか……と」
「新婚家庭より甘い気がしますけど……」

 いや、見たことないから知らないけどね? でも、確実にルードとふたりきりで居るって言うこの状況。新婚家庭よりも甘い雰囲気が漂っている、ような気がする……。元々ルードっておれには甘かったし、おれもそれに甘えているし。

「もうちょっとしたら出掛けようか」
「はい」

 今はもう少しだけ、この胸の中に居ても良いかな、なんて。甘えるようにすり寄れば、ルードが抱きしめる力を少しだけ強くした。
 小さい頃はスキンシップ苦手だったみたいだけど、おれにこうやって触れるのは平気なんだなぁ……。そのことに関してちょっと疑問に思ったりもするけど、ルードがこうやっておれに触れてくるのはルードの愛情表現だろうし……。おれがルードに触れる時は、すごく嬉しそうに笑うんだよなぁ。子どもの頃と大人になった今じゃ、スキンシップに関する考えも変わったのかもしれないけど……。

「考え事?」
「んーと……おれがルードに触れるのは良いのかなって」

 上から覗き込むように尋ねられ、隠すことでもないかとルードを見上げてそう言う。するとルードは意外そうに目を丸くして、それからふっと微笑みを浮かべる。くるりとおれの躰を反転させて、軽々と抱き上げた。いきなりのことにびっくりしてルードを見ると、彼はそのままおれをリビングまで運んで、テーブルの上に座らせた。

「あ、あの、ルード?」
「私が言ったことを気にしていたのかい?」

 こつんと額を当てて瞼を閉じるルードに、おれは無言で肯定した。すると、ルードはおれの頬に手を添えるとやっぱりむにむにと揉む。
 彼が目を開けて、空色の瞳でおれを見る。おれも見つめ返して、そっとルードの手に自分の手を重ねた。

「私はね、ヒビキ。ヒビキに触れられるのはとても好きなんだ」
「ルード……」
「だからね、ヒビキには私にたくさん触れてほしいし、たくさんヒビキに触れたい。イヤかい?」
「いいえっ」

 おれの声量にルードは少し驚いたようだったが、嬉しそうに目元を細めてそのまま唇が重なった。触れるだけのキス。もっと、とねだるようにルードの唇を舐めた。ルードは薄く唇を開いて舌先を絡める。鼻で呼吸するように意識をして、段々と深くなっていくキスにうっとりと頬を染める。
 息苦しさを感じると、すっとルードが唇を離した。それから、優しい瞳でおれを見て頬に手を添えて、もう一度、今度は唇が触れるだけのキスを交わす。

「名残惜しいけれど、そろそろ行かないと」
「……そうですね」

 ちょっと残念だったりするおれに気付いたルードは、ぽんぽんとおれの頭を撫でてテーブルから降ろした。そして耳元で囁くように背を屈めて「続きは夜に、ね」と甘い声でそう言われて、背筋にぞくりとしたものが走った。――知っている、感覚だ。
 ――嘘だろ、おれ。
 ……ルードの声にも感じるの……?

「ヒビキ?」
「あっ、いえっ。図書館楽しみです!」

 はっとして慌てて顔をルードに向けてぐっと拳を握った。おれの様子にルードは首を傾げていたけれど、服の袖を捲ってこの前のようにリボンで結ぶ。

「……ルードって十五歳の時から刺繍を始めたんですよね?」
「ああ」
「……どうして刺繍を始めたんですか?」

 服を作り始めたのもそうだけど、ルードのことが気になってそう尋ねる。ルードはただ、優しく微笑むだけだった。理由を教えてはくれないようだ。おれの手を握って、そのままワープポイントのある部屋に向かう。

「今日は図書館だから、違う場所に出るよ」
「一体どれくらいの場所に設置しているんですか……」

 ルードは「……そう言えば数えたことがないな」とぽつりと呟いた。もしかして数えきれないくらいたくさんあったりするのかな? でも、そうだとしたらなんのために……? ワープポイントを使うのって大体ルードの屋敷の人だし、買い物とかが便利になるように? あれ、でももしかして魔力があれば屋敷の人じゃなくても使えたりするのかな。
 ――うーん、王都の謎。いや、メルクーシン家の謎?
 ルードが場所を設定して、一昨日と同じようにワープする。どうやら、小屋のようだ。物置? なのかな。色んな道具が置いてある。

「ここは?」
「メルクーシン家が使っていた畑道具をしまっている小屋だ」
「……畑道具?」

 きょろきょろと見渡すと、確かに農作業用の道具が見える。……え、畑やっていたの? 貴族が畑? んんん? 頭が混乱してきてルードを見上げると、おれの反応にクスクスと笑って手を引っ張り外に出る。

「じいやの趣味だ。あまり広い場所ではないが、土地を買い上げて野菜を作っている」
「……趣味で、畑仕事……?」
「元々じいやは多趣味だからな。さ、こっちだヒビキ」

 ルードが歩き出したので、おれも歩き出す。ちらっと見えた畑には、美味しそうなトマトやきゅうりが実っていた。……そう言えば、この世界ってもしかしたら四季がないのかもしれない。一定の温度っぽい……。過ごしやすくては良いけれど、四季折々の様々なことが出来ないのはちょっと残念だ。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話

gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、 立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。 タイトルそのままですみません。

転生したら同性から性的な目で見られている俺の冒険紀行

BL
ある日突然トラックに跳ねられ死んだと思ったら知らない森の中にいた神崎満(かんざきみちる)。異世界への暮らしに心踊らされるも同性から言い寄られるばかりで・・・ 主人公チートの総受けストリーです。

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる

彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。 国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。 王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。 (誤字脱字報告は不要)

異世界で騎士団寮長になりまして

円山ゆに
BL
⭐︎ 書籍発売‼︎2023年1月16日頃から順次出荷予定⭐︎溺愛系異世界ファンタジーB L⭐︎ 天涯孤独の20歳、蒼太(そうた)は大の貧乏で節約の鬼。ある日、転がる500円玉を追いかけて迷い込んだ先は異世界・ライン王国だった。 王立第二騎士団団長レオナードと副団長のリアに助けられた蒼太は、彼らの提案で騎士団寮の寮長として雇われることに。 異世界で一から節約生活をしようと意気込む蒼太だったが、なんと寮長は騎士団団長と婚姻関係を結ぶ決まりがあるという。さらにレオナードとリアは同じ一人を生涯の伴侶とする契りを結んでいた。 「つ、つまり僕は二人と結婚するってこと?」 「「そういうこと」」 グイグイ迫ってくる二人のイケメン騎士に振り回されながらも寮長の仕事をこなす蒼太だったが、次第に二人に惹かれていく。 一方、王国の首都では不穏な空気が流れていた。 やがて明かされる寮長のもう一つの役割と、蒼太が異世界にきた理由とは。 二人の騎士に溺愛される節約男子の異世界ファンタジーB Lです!

胸キュンシチュの相手はおれじゃないだろ?

一ノ瀬麻紀
BL
今まで好きな人どころか、女の子にも興味をしめさなかった幼馴染の東雲律 (しののめりつ)から、恋愛相談を受けた月島湊 (つきしま みなと)と弟の月島湧 (つきしまゆう) 湊が提案したのは「少女漫画みたいな胸キュンシチュで、あの子のハートをGETしちゃおう作戦!」 なのに、なぜか律は湊の前にばかり現れる。 そして湊のまわりに起こるのは、湊の提案した「胸キュンシチュエーション」 え?ちょっとまって?実践する相手、間違ってないか? 戸惑う湊に打ち明けられた真実とは……。 DKの青春BL✨️ 2万弱の短編です。よろしくお願いします。 ノベマさん、エブリスタさんにも投稿しています。

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

中華マフィア若頭の寵愛が重すぎて頭を抱えています

橋本しら子
BL
あの時、あの場所に近づかなければ、変わらない日常の中にいることができたのかもしれない。居酒屋でアルバイトをしながら学費を稼ぐ苦学生の桃瀬朱兎(ももせあやと)は、バイト終わりに自宅近くの裏路地で怪我をしていた一人の男を助けた。その男こそ、朱龍会日本支部を取り仕切っている中華マフィアの若頭【鼬瓏(ゆうろん)】その人。彼に関わったことから事件に巻き込まれてしまい、気づけば闇オークションで人身売買に掛けられていた。偶然居合わせた鼬瓏に買われたことにより普通の日常から一変、非日常へ身を置くことになってしまったが…… 想像していたような酷い扱いなどなく、ただ鼬瓏に甘やかされながら何時も通りの生活を送っていた。 ※付きのお話は18指定になります。ご注意ください。 更新は不定期です。

処理中です...