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2章:1週間、ルードと一緒です!
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しおりを挟む言葉の意味がわからなくて、ルードとソニアさんを交互に見ると、ソニアさんは美味しそうに食事をしているし、ルードは呆れたようにソニアさんを見ているしで、首を傾げるとルードは重々しく息を吐いた。そして、お茶を飲んでから困ったように眉を下げて微笑む。
「……?」
「こういう格好をしているが、こいつは男だ」
「……はい?」
男? え? ソニアさんが? 思わずソニアさんに視線を向けると、速攻で食べ終わったのか皿が空になっていた。ちょっと待って早い。早食いにもほどがある! 早食い大会があれば優勝できるんじゃ? ってくらい速攻で食事が消えている! あ、二回も速攻って思っちゃった。
「やだぁ、坊ちゃん。そんなにあっさりばらさないでよ~」
「え……!?」
にこにこと笑いながらお茶を飲むソニアさんに、ルードは冷たい視線を彼女……いや、彼に向けて額に手を添えて小さく息を吐く。本当に男性なんだろうかと思わず見つめてしまうと、ソニアさんは両手を組んで優しく微笑んだ。
「ソニアと言うのもこいつが勝手に名付けたものだ」
「え、本名じゃないんですか!?」
「だぁって、あたしあの名前嫌いだもーん」
「昔から女装趣味があるようでな……。私もここに来た時は騙されたものだ」
物凄く嫌そうに眉間に皺を刻むルード。ってことは、ルードが王都に来た時には既にソニアさんは女装していた……?
騙されたってことは、女性だと思っていた時期があったんだな……。
「小さい頃の坊ちゃん、懐かしいわぁ……」
「そう言えば、ソニアさんもルードのことを『坊ちゃん』って呼ぶんですね」
「ああ、だって名前で呼ばれたくないって言うから。坊ちゃんのことを名前や愛称で呼ぶのって、屋敷の使用人や聖騎士団の仲間たち、あとヒビキさまくらいじゃないかしら?」
「割と限られていませんか、それ……」
「特に不便はないから構わない」
「……ソウデスカ……」
ルードってなんで自分の名前好きじゃないんだろう? そもそも本名知らないしな……。まぁ、確かに不便はないからいいんだけど。でも成人男性を坊ちゃんと呼ぶのも中々不思議な感じがあるような……。
「あれ、そう言えばこの国の成人っていくつですか?」
「え、ヒビキさま知らなかったの? 十八歳からよ。結婚が許されるのも男女共に十八歳」
「男女共に?」
「ええ。婚約は年齢関係ないんだけどね。現に今の陛下の婚約者は十歳くらいじゃなかったかしら?」
「十歳!? ……陛下の年齢は……?」
「六歳」
……んんん?
六歳の子が陛下ってどういうこと……?
「確か先月お披露目式典があったばっかりじゃなかった?」
「あ、もしかしてルードが護衛していたのって……!」
「……言っていなかったか?」
こくりとうなずく。言っていません。式典があるとだけしか。ルードは時々言葉が足りなくなるようだ。
「じゃあ、六歳で即位したってことですか?」
「いや、即位したのは去年だから、五歳だな」
「一時期すっごく話題になったのよ~。って言うか、全然知らないのね、ヒビキさま」
「えっと、おれそういう話題に疎くて……」
そう言うことにしておこう。知らないことは事実だし。おれもお茶を飲んでほう、と息を吐く。それにしても六歳の子が……。こういう場合って確か摂政が政務をするんだよな。どんな人なんだろう。
「なんというか、大変そうですね……」
「城の人たちは大変かも。今はアデルさまも居るから」
「……えーっと、アデルは小国の王子、なんですよね。どうしてこの王都に?」
まさかハーレムを作るためじゃないだろうし……。って言うかおれもアデルに『さま』って付けたほうがいいのかなぁ?
「さぁ?」
「えっ」
「だってアデルさまとお会いしたことないし~。噂話なんて当てにならないし~」
……アデルの噂ってどんなのなんだろう。おれがちょっと興味を抱いたのがわかったのか、ソニアさんは「気になる?」と目で問う。小さくうなずくと、ソニアさんが考えるように目を閉じて、それからすぐに瞼を上げてウインクをひとつ。
「本当に当てにしちゃダメよ?」
「は、はい」
男性だとわかっていても、ちょっとドキッとした。サディアスさんも女顔だと思ったけれど、ソニアさんの場合はなんというか、女性アイドルですか? ってくらいのオーラがある。……でも、日本でもそういうアイドルやモデルの人もいたし、居ても可笑しくない……のか?
「元々は婚約者候補だったみたいなんだけど、まぁ、政略結婚みたいな? ただ、アデルさまのスキルが問題でね。陛下のスキルとは相容れないのよ」
「えーと、魔物使い、でしたっけ」
「そうそう。この国と魔物の相性は最悪だからね。婚約者候補は外れたわけ。んでもって、自国に帰りたくないアデルさまはこの国で仕事を探している……らしいわよ?」
「陛下が六歳でしたよね。アデルの年齢って?」
「あたしは十八歳って聞いたけど」
年上だったのか!
てっきり同じくらいの年齢だと思っていた……。あ、でも十八禁だから十八歳未満が居たらダメなのかも……? そこら辺ちょっとあやふやだ。なんせ姉に感想を聞いたのも一日だけだし。ストーリーなんて聞いてないから、今がゲームでどのくらいのところかって言うのもさっぱりだ。
「年齢と言えば、シリウスって何歳なのかしら」
「シリウスさんともお知り合いなんですか?」
「彼、ここの常連だもの。坊ちゃんとも割と仲が良いと思うんだけど……」
そのルードは「そうか?」と首を傾げていた。ルードって本当、あんまり人に興味がないんだって一日でわかる。おれに対しては結構過保護気味な感じがするから、人に興味がないルードって新鮮だ。
「仲が良いわけではないが……、まぁ、あいつの仕事ぶりは評価できる」
「あら、あらあらぁ? こーんなかわいい子になにをするおつもりで?」
「……さて、な」
にやりと口元に弧を描くルードに、笑顔を硬直させるソニアさん。……そう言えば、ソニアさんの本名聞いてないけど……まぁいいか。
「ヒビキさま、坊ちゃんにされて嫌なことがあったら、ちゃんと言わないとダメよ!」
「え?」」
ばっとおれを見て真剣な表情でそう言うもんだから、驚いて目が丸くなった。ルードにされて嫌なことってなんだろう……?
「あ、だめだ、この子わかってないわ……」
どこか呆れたようにそう呟かれて、おれは首を傾げてルードを見る。ルードは優しく微笑んで、
「気にしなくていいよ、ヒビキ」
と柔らかい声色で囁くように言った。そんな様子を見て、ソニアさんは「はぁ~~」と重々しくため息を吐く。今のやり取りにため息を吐くところが合ったのだろうか……?
「ねえ、坊ちゃん。思い切り楽しんでいるでしょ……?」
「否定はせんが」
「だよねー! ほんっと、この人無理だと思ったら、遠慮なくうちに逃げてきてくれて良いからねっ、ヒビキさま!」
「あ、ありがとうございます……?」
ソニアさんの勢いに思わずお礼を伝えたけれど、どういう意味……?
ルードをちらりと見ると、彼は可笑しそうに目元を細めてお茶を飲み、それから一言。
「逃げ場がバレバレになっているぞ」
「あっ!」
「まぁ、そうやすやすと逃がすつもりはないが……」
「……聖騎士団長と坊ちゃんって似た者同士よね……」
おれがルードから逃げるってどういう状況を想定しているのか。そしてソニアさん、おれもそれ思った。ん? ソニアさんもサディアスさんのことを知っているのか?
「サディアスさんも有名人?」
「聖騎士団長は超! 有名人よ。なんせ二十歳で騎士団長の座に!」
「二十歳!?」
それは有名になりそうだ。サディアスさんのビジュアルも含めて、きっと色々なことがあったんだろうなぁ。サディアスさん、今三十一歳だっけ。ってことは騎士団長になってから十一年? ……すごいなぁ。
「ニコロへの執着はもっと長いけど」
「……? ニコロのことも知っているんですか?」
「だって、もともとニコロはこの辺に住んでいたもの」
「えっ、ニコロの実家ってこの近く!?」
「実家って言うか……うーん、まぁ、本人もあんまり隠しているつもりはないようだから言ってもいいかしら。どう思う、坊ちゃん?」
「口止めはされていないな」
「そのうち知るだろうから、今でも良いわよね」
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