【本編完結】十八禁BLゲームの中に迷い込んだら、攻略キャラのひとりに溺愛されました! ~連載版!~

海里

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2章:1週間、ルードと一緒です!

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「団長、ヒビキをお願いできますか」
「うん、こちらへおいで、ヒビキさん」

 ルードは名残惜しそうにおれから手を離し、ポケットからゴムを取り出すと髪をひとつに纏めた。サディアスさんの近くにいるようにおれに伝え、手の止まった模擬戦中の団員らに近付く。武器もなにも持っていないのに、大丈夫なんだろうか。

「ついでにきみたちも参加なさい。丁度いい機会だ」
「えっ!?」

 思わずサディアスさんを見上げる。彼はおれに向かい、「ルードなら大丈夫だよ」と微笑む。いや、でもこの人数をどうやって相手するんだ!?

「ルード、武器はどうする?」
「なくて構いません。――どうした、全員掛かってこい」

 挑発するような声に、ぎらりと光る眼差し。ひゅっと誰かが息を飲んだ。それが合図になったように、この場にいる団員が全員ルードに向かっていく。

「攻撃が大振りすぎる!」

 ターンするようにルードが避ける。避けた先には他の団員が居て、ルードに当てるはずだった攻撃が他の人に当たり、そのままドミノ倒しのように数人が倒れこんだ。

「視野が狭いぞ、それでは周りの状況が見えなかろう」

 攻撃を繰り返す団員たちに向かい、アドバイスをしながら攻撃を避け、相打ちさせていく。

「ね、気付いている、ヒビキさん」
「なにを、でしょうか」
「ルードがあの辺から動いていないことに」

 じっとよく観察すると、確かに向かってくる攻撃を避け、時に足を出して相手を転ばせているけれど、最初に居た位置から動いていない。周りの団員が互いを巻き込んで崩れていくのを、冷めた目で見ているルード。……もしかして背中にも目があるのでは? ってくらい避けていて、思わずほう、と息を吐いてしまう。

「すごい……」
「剣を持たせるともっとすごいよ」

 想像がつかないなぁ……。これ以上すごくなるのか、ルード。ひょいひょいと攻撃を交わしていく姿はとてもじゃないが模擬戦闘とは言えない。まるでダンスを踊っているかのようだ。

「もっと標的を見ろ、それでは倒れるだけだぞ!」

 攻撃を避けながら団員ひとりひとりに向かってアドバイスをしている。よく見ているなぁ。おれにはどうしてルードが攻撃を避けていられるのかがさっぱりわからない。そして団員さんたちはもの見事に相打ちしてドミノ倒しになっている。
 ルードってもしかしてめっちゃ視野が広い……? なんて考えていたらサディアスさんが「あ、終わるね」と呟いた。
 最後のひとりの攻撃を交わして、足を引っかけて他に倒れている人の上へと。十分もしないうちにこの場にいる団員さんたちの戦意を喪失させてしまった。三十人くらいはいたと思うんだけど……。

「……その程度か?」

 ルードの言葉に棘があるような気がするのは気のせい? 冷たい眼光を滲ませているのに気付いた団員さんたちがびくっと肩を跳ねさせた。

「いやぁ、相変わらず容赦がないねぇ」

 心底楽しそうにサディアスさんは声を弾ませ、おれはなんと言っていいのかわからなくて言葉が出ない。ほぼ最初の立ち位置から動いていないルードは、「全員素振り千本追加」と声を掛けてからこっちに戻って来た。

「戦意喪失してるみたいだけど、いいんですか?」
「ああ、多分素振り中に戻ってくるだろう」

 もしかしなくてもルードもスパルタ……? じいやさんもリアも教え方が割とスパルタだったから……あの屋敷にいる人たちは教え方スパルタな人たちなんだろうか……。

「塔の中にも入ってみるかい?」
「いいんですか?」
「ただの見学だからね、構わないさ」

 サディアスさんとルードの顔を交互に見て尋ねる。寮になっているって聞いたけど、どんな感じなんだろう。

「とは言え、案内出来るのはルードの執務室くらいかな?」
「……それって本当にいいんですか?」
「良いよね、ルード?」
「私は構いませんが……、ヒビキはそんなところが見たいのかい?」
「塔の中には興味あります。螺旋階段があるのかどうか。あと、普段のルードがどんなところでお仕事してるのかなってのは気になりますね」

 正直、気になるところだらけです。さっき案内してもらったところは訓練場なのかな。模擬戦中にお邪魔してしまって本当に良かったんだろうか。彼らにとって、ルードが休みの日はもしかしたら羽を伸ばせるチャンスだったのかもしれないのに……。
 ちらりとドミノ倒しの山になっている人たちに視線を向けて、心の中で「ごめんなさい」と謝罪した。

「? ヒビキさんが謝る必要はないと思うけど……」
「いや、お仕事の邪魔しちゃったかなって……。あれ、おれ口に出してました?」

 サディアスさんが不思議そうにそう言ったので、おれは頬を掻きながら言葉を出す。だけど、さっき心の中で謝ったことが、なぜわかったんだろう? と彼を見ると「おっと」と口元に手を当てるサディアスさんを睨むように、ルードが鋭い眼光を向けていた。

「……団長のスキルも含め、私の執務室で話そうか」
「あ、はい」

 ほら、と言うようにルードがおれに手を差し出す。迷わず握ってまた歩き出すと、復活した聖騎士団員さんたちがざわついた。……なぜそんなにざわめくのかがわからない。だが、サディアスさんの「素振り千本忘れないようにね」の一言に、それぞれ整列し始めた。そして彼も一緒に塔へと向かう。
 訓練場からはとても近いようだ。五分もしないうちに目的地についた。ルードが扉を開けて中へ招き入れる。

「お邪魔しまーす……」

 小声で呟きながら中へと入り、その高さと広さに言葉を失った。予想以上に広い! そして天井が見えないくらい高い!

「あ、螺旋階段!」

 思わず声を弾ませてしまった。ゲームに一度は出てくる気がする、螺旋階段。すごいな、これずっと上まであるのかな?

「ヒビキさんは螺旋階段に興味があったの?」
「大きい螺旋階段を見るのは初めてで……。でもこんなに高いと目的の部屋まで行くの大変そうですね」
「ああ、それは問題ない」

 ルードがおれの言葉に首を左右に振って肩をすくめた。問題ない? と小首を傾げてみると、螺旋階段の元までおれを誘導する。そして、螺旋階段に置いてあるなんかのパネルを指して、

「これで目的地を入力すれば、すぐにその階まで行ける仕組みだ」

 …………エレベータかよ!

「……ちなみに、この塔を設計したのって……」
「うちの先祖だな」

 なるほど、ルードの家系はこういう建物を作るのが好きなんだな。あの屋敷だってルードのお父さんが関わっているみたいだし。

「ちなみにルードもなにか設計したいものってありますか?」
「私が……? ふむ、そうだな、建物ではないが将来設計はしたいものだ、ヒビキと一緒に」

 にこりと微笑まれてなんだか居た堪れない気持ちになった。だっておれ、まだ話していないんだ、おれがこの世界の住人じゃないことを。

「……顔が真っ赤だよ、ヒビキさん」
「……ううう、イケメンスマイル半端ない……」

 それはそれとして、直視するには眩しい笑顔を向けられてじわじわと頬に熱が集まっていくのを感じていた。それをサディアスさんに指摘されて顔を隠すように空いている手で顔を隠す。

「……そういえば、他の団員の方々は?」
「この時間なら上のほうかな。今日の模擬戦は一番隊と二番隊の新人たちだったから……他の団員にも会えるかもしれないね」

 会いたいような、会いたくないような。……って言うか、さっきの人たち新人さんたちだったのか……。確かに結構若い人が多かったような……?

「め、メルクーシン隊長!? 今日は休みだったのでは……?」

 塔の中に誰か入って来た。アプリコット色の短髪、ラベンダー色の瞳。身長はおれより高いけれど、サディアスさんとルードよりは低い。心底驚いたように目を見開いて、彼らを交互に眺めた後、おれの存在に気付いたようでさらに目を丸くしていた。

「ヒビキが私の職場を見たいと言ってな。見学に連れてきた」
「ははぁ! この方が噂の……!」
「……一体どんな噂が……」
「それよりまずは自己紹介が先ではないかな、バビントン?」

 サディアスさんの言葉に、はっとしたようにおれへと視線を向けて、こほんと一回咳ばらいをしてから自分の胸にどんっと拳を置いた。

「王都聖騎士団、第一部隊副隊長、ヘクターと申します。以後お見知りおきを」
「覚えなくていいからね、ヒビキ」
「メルクーシン隊長、それ酷くないですか!?」

 第一部隊……しかも副隊長!? おれはルードとヘクターさんの顔を交互に見た。ルードがおれへとそう言って、ヘクターさんはぎょっとしたような表情を浮かべて声を荒げる。……うん、おれも酷いと思うよ、ルード。

「大体なぜお前がここに居る。今の時間はお前でも出来る書類を片付けている時間だろう」
「いやぁ、どっかの誰かさんが新人を潰したって耳に届いたので、様子を見に」
「……嘘をつくならもう少しまともにつけ」
「あ、バレてますね。すみません、ちょっと城のほうに書類を取りに。あと麗しの君の様子を見に」
「……来ているのか、城に」
「来ているんですよ、城に」
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