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2章:1週間、ルードと一緒です!

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 荷物を纏めて、気が付いたら昼過ぎになっていた。食堂で昼食と、デザートとして苺のケーキを食べた。おれの言ったことを覚えていてくれたんだな、とちょっと照れる。前に話した誕生日のこと……てっきり朝のアレで終わりかと思っていたから、驚いた。
 ケーキを頬張るおれを、ルードはなぜか自分のことように嬉しそうにニコニコしながら見ていた。
 お腹いっぱいになったところで、寝室へ向かう。部屋に入ってソファに座り、ルードと今後のことについて話し合う。行きたい場所がいっぱいあるけど、一週間でどこまで見て回れるかわからないから、とにかく重要なところを見てみたい。

「――しかし、なぜ聖騎士団のところに行きたいんだい?」
「一回どんなところか見てみたくて。あと、ルードがどんな人たちと働いているのかなって」
「気になるものか?」

 こくりとうなずくと、ルードは不思議そうに首を傾げた。だってさ、みんなに聞いたルードと実際おれが接しているルードってかなり違うみたいだから、その差が気にならないわけがないじゃないか!
 一体どんな態度をとっているんだろう……。
 おれがそんなことを考えていると、ルードはなにかを思い出したようにソファから立ち上がり、ルードの衣服が入っているクローゼットから色々な種類のものを取り出した。それを持って再びソファに座っておれにそれを見せる。

「ところで、なんでそんなにリボンを集めているんですか?」

 ルードが手にしているリボンの色は様々だ。赤、青、黄、白、黒の原色から紫や水色、橙、黄緑などの間色まである。

「ヒビキの好きな色が気になってな。王都ではその服の袖を捲ってもらうから、どの色のリボンで止めたい?」
「騎士団長さんが来た時もそうでしたけど、袖を捲るのに意味があるんですか?」
「……説明していなかったな、そういえば」

 おれにリボンを見せつつ、そんなことを言うから疑問を口にする。すると、一瞬目を瞬かせてから記憶を思い出すかのように目を伏せて、それからすぐにハッとしたように顔を上げてリボンを置いてからおれの袖を捲った。

「刺繍がしてあるだろう? これは貴族の習わしなのだが……家紋と、自身の花を刺繍することにより、誰の愛し子であるかを周りに知らせるためのものだ。まぁ、要するに、ヒビキは私の愛し子だから手出しはするな、と牽制のためだな」
「……屋敷では捲ってませんでしたが……」
「ここは私の屋敷だぞ? 捲る必要がない」

 全員、おれがルードの愛し子って知っていたから? それに、自身の花ってどういうことだろう。確かに良く見るとおれがルードに渡したハンカチに刺繍した花がある。そういえばこの花ルードの花って聞いたけど、どういうことだ?

「えっと、この花、前にルードの花って聞いたんですけれど……」
「私が生まれたときに母が品種改良に成功してな。それから、この花は私の花ということになった。なので花の名前も私の名なのだ」
「……あっ! それで思い出した! おれ、ルードの本名を知らないままで良いのでしょうか」
「……構わない。ヒビキに本名で呼ばれるのはイヤだ」
「理由を聞いても?」
「今更他人行儀な呼び方をされるのは、イヤだ」

 ……まぁ、確かに愛称のほうが親密さはあるけれど。他人行儀な呼び方をされるのがイヤだからって、理由が可愛すぎないか!?
 どこか拗ねたように顔を逸らす彼を見て、なんか和んでしまう。
 ルードが知らないままで良いって言うんだから、それで良いのかな……?

「それで、リボンはどの色にする?」

 置いていたリボンを再び手にしておれに見せる。おれはその中から水色のリボンを手に取った。

「じゃあ、この色で」
「水色で良いのか?」
「ルードの目の色でしょう?」

 ルードはリボンとおれの顔を交互に見て、それからふっと優しく微笑んだ。紺色のリボンはなかったから、水色を選んだのだ。どうせなら、彼の色を身に纏いたい。
 彼はおれの選んだリボン以外を置いて、捲った袖が落ちないようにさっとリボンで結ぶ。それからおれの手を取って、きゅっと指の指の間を絡めて握る。

「ルード?」
「……似合っている」

 蕩けるような甘さを含んだ言葉を聞いて、なんだか気恥ずかしくなってきた。
 顔が赤くなってきた気がして、思わず俯く。ちゅっと軽いリップ音を立てておれの指先にキスをするものだから、余計に恥ずかしい。

「ふふ、まだ全然慣れていないな。私の唇を奪った大胆さはどこへ行った?」
「それを言われると……」

 おずおずと視線をルードに向けると、楽し気に目元を細めている彼の表情に心臓が跳ねる。そりゃあ恰好良いと思うし、可愛いと思う。そしてなにより、その眼が愛しさを隠していないことに、ルードは気付いているのだろうか……。

「まぁ、そのうち慣れるかもしれんが……。それまではヒビキの反応を楽しむことにしよう」
「いや、ちょっと待ってください。楽しまなくて良いですからね!?」

 ルードはただ微笑んだ。あ、これ完璧に楽しむつもり満々なやつだ!
 掴んでいた手を離して、代わりにおれの顎に手を添えてくいっと上を向かせる。そのまま顔が近付いてきて、慌てて目を閉じた。クスリと笑う声が聞こえて頬に口付けられた。
 目を開けると、悪戯が成功したような顔で笑っているルードが居て、おれは口付けられたところに手を添える。

「……楽しんでいるでしょう、ルード」
「ヒビキの反応が可愛くてな」

 顎から手を外し、代わりにおれの頭を撫でる。髪の手触りを確かめるかのように、さらさらと梳くように撫でられて、ちょっとくすぐったい。
 触れる手は優しくて、こういう時にも大切にされているなってわかる。撫でられているのが気持ち良くて目を細めると、今度こそ唇が重なった。びっくりして肩が跳ねる。フェイント混ぜるのやめてもらえませんか!?
 でも、触れる唇が気持ち良くて目を閉じる。頭に置いていた手をするりと下げて背に回し、ぎゅっと抱き締められる。だからおれもルードの背中に手を回して抱き着く。ぴったりとくっついて、体温を感じた。
 触れるだけの優しいキス。ふたりの体温が溶けあうような、そんな感覚がたまらなく好きだ。――ただ、問題があるとすれば……。

「……別に息を止める必要はないんだぞ?」
「……わかって、は、いるん、ですけど……」

 ゼイゼイと肩で息をすると、困ったようにルードが微笑む。キスをするようになってから、どうしてもその最中に息を止めてしまう。鼻で息をすれば良いって言うけど、中々難しい。舌が絡むキスだとさらに難しい。
 だからなのか、ルードがおれに仕掛けるキスは短いキスを繰り返すようなものだ。たまに深いキスもするけれど、大体おれの息が苦しくなってそこでルードが名残惜しそうに唇を離す。

「慣れるまで時間が掛かりそうだな」
「……ソウデスネ」

 なんとか息を整えて、可笑しげに声色を明るくするルードにがくりと肩を落とすおれ。そんなおれの様子になにを思ったのか、もう一度頭を撫でてそれから鼻先にちゅっと軽くキスをしてからこつんと額を当てる。

「慣れる日を楽しみにしている」
「……うう、頑張ります」
「ふふ、どう頑張るつもりなんだい?」

 やっぱりルードの口調が柔らかい気がするな。もしかしたら、柔らかい口調のほうがルードの素なのかもしれない。

「そりゃあ……、やっぱり、いっぱいキスをして?」
「積極的なのは大歓迎だ」

 ほら、と言うようにルードが顔を近付けて目を閉じる。だから、そっと自分の唇を重ねてみる。おれからキスをするのは中々なくて……こういう顔が近付いた時とか、ベッドの上でなら出来るのに。この身長差が割ともどかしい。おれの成長期まだ終わってないと思うから、いつかルードに背伸びだけでキスが出来るような身長になりたいところ。
 ――そしてやっぱり、自分からしても息を止めてしまうから、この癖早くなんとかしたい。
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