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2章:1週間、ルードと一緒です!
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しおりを挟む「誕生日おめでとう、ヒビキ」
朝、起きて躰を起こすのと同時にルードの手がおれの腕を掴んでぎゅっと抱き寄せられる。素肌が触れてどきりとした。耳元で囁くように言われて、耳まで赤くなったような気がする。これはルードの声が良いのが悪い……!
「あ、ありがとうございます」
上擦った声でお礼を伝えると、抱きしめていた力を緩めて代わりに蕩けるような微笑みを浮かべるルードに、胸の鼓動がどんどんと早鐘を打つ。
それから、額にひとつキスを落として、次は瞼、頬、鼻の先、最後に唇にキスを落とす。さらりと髪を梳かれて、とても心地良い。
唇にキスをするようになってから、事あるごとにキスをしている気がする。それがなんだかくすぐったい。
「起きるか?」
「はい」
昨日の夜もいっぱい愛された。身も心もドロドロになるまで愛されて、気が付いたら朝だった、なんてことはほぼいつもだ。ただ、昨日の夜は割とあっさりと……と言っても、何回イかされたか覚えてはいないけど! ルードにしては珍しく、早めに終わらせたような、気がする。
「今日は王都観光のための準備があるからな、体力はそれなりに残しておいたと思うが……大丈夫そうか?」
「ああ、そういうことだったんですね。大丈夫です、ちゃんと朝に起きることが出来ましたし」
ルードはクローゼットに向かって服を取り出すとおれに渡してくれた。その服に着替えて、ルードも着替えて、食堂に向かう。
食堂の扉を開けると、使用人さんたちがずらりと並んでいて驚いた。
その中から、じいやさんが前に出てきて、おれに向かって恭しく礼をした。
「お誕生日おめでとうございます、ヒビキさま。使用人一同を代表してお祝い申し上げます」
「ありがとうございます、じいやさん、皆さん」
顔を合わせたことのない使用人さんたちも居て、なんだかすごく不思議な気持ちになった。
ぺこりと頭を下げてもう一度お礼を伝える。……ルードが盛大に祝うって言ったから、こうなったのかもしれないけれど、祝ってくれたのが純粋に嬉しかった。
「私の我儘に付き合わせてすまない。この屋敷にヒビキのことを知らない者はいないだろうが、ヒビキは知らない人も多いだろう。一度顔を合わせて欲しかった」
そう言って周りを見渡すルード。その表情はとても柔らかくて、屋敷の使用人さんたちが息を飲むのがわかった。中にはなぜか泣いている人もいて、首を傾げる。
「あの坊ちゃんに春が……、わかっていたことですが、これ以上に嬉しいことはございませんわ……」
ハンカチを目元に当てて、多分メイド長さん、なのかな? リーフェやリアより幾分年上に見える女性がしみじみと呟いた。
「こんなに穏やかな坊ちゃんを見られて嬉しく思います。ヒビキさま、どうか末永く坊ちゃんのことをよろしくお願いいたします」
服の裾を掴んでお辞儀をする女性に、おれはどうすれば良いのかわからなくておろおろとしてしまった。
「えっと、あの、こちらこそ……?」
そもそも穏やかじゃないルードを見たことがない。ので、本当になんて返事をすれば良いのかわからなくて、とりあえずルードと女性を交互に見てそう言うと、女性は顔を上げて晴れやかに微笑んだ。
「メイド長のクレアと申します。中々お会いできず自己紹介が遅れてしまって申し訳ございません」
そう言ってすぐに下がってしまう。メイド長さんはクレアさんと言うのか。それから次々に挨拶をされていったけれど、ごめんなさい、とてもじゃないけど顔と名前が一致するのに時間が掛かりそうです、とは言えなかった。
「少しずつ覚えていけば良い。時間はたっぷりあるのだから」
「……はい」
人数が人数だからちょっと混乱しそう。よく会っているリーフェ、リア、ニコロ、じいやさんはわかるんだけど、他の人とは本当に会わないし……。特に厨房で働いている人たち。
「ささやかではございますが、ヒビキさまの生誕をこのような形で祝わせていただきたく料理を用意しました。ぜひ、お召し上がりください」
えーと、料理長さんのマルセルさんが次々に料理を運んでくる。配膳はいつもリーフェたちがやっていたから、料理長自らってのが新鮮だ。
「椅子に座ろうか」
ルードの言葉にうなずく。ホカホカの湯気が立っている料理はどれも美味しそうで、ちらりとルードに視線を向けるとうなずいた。おれは手を合わせて「いただきます」を口にして、スプーンを手に取る。
ポタージュを飲んで幸せに浸る。やっぱりここの料理は美味しい。おれの表情に気付いたマルセルさんが、嬉しそうにガッツポーズをしていた。
「ヒビキは本当に美味しそうに食べるな」
「そうですか?」
「ああ、とても幸せそうだ」
なぁ? と同意を求めるように後ろを振り返り、マルセルさんに視線を向けるルード。マルセルさんは一回身を硬直させてから、こほんと咳払いをして肯定のうなずきをルードに返した。
「ここの料理はとても美味しいと思いますけど……? ああ、でも」
「でも?」
「たまにはおれの故郷の料理も食べたいなー、なんて。贅沢ですけど」
「それは、ヒビキが料理をするということかい?」
「そうなりますかね。多分、見たことも聞いたこともない料理になると思うので……」
「ふむ、ヒビキの故郷の料理か。興味はあるな。……では、王都観光中に滞在する宿で料理の許可が得られるか交渉してみよう」
「え、良いんですか!?」
思わず大きな声を上げてしまった。じいやさんに叱られるかな、とは思ったけど彼はなにも言わないでただニコニコしているだけだった。誕生日だから……?
それにしても言ってみるものだ。なにを作ろうかちょっと悩む。そもそも材料はあるのだろうか。ああ、でもここゲームの世界だし、意外に色々あったりして。
「条件がひとつ。ヒビキの手料理を私に一番に食べさせること」
「……口に合わないかもしれませんよ?」
「構わない。食べてみたい」
「わかりました、多めに作ります」
それは楽しみだ、とルードが微笑む。朝食にしては豪華なメニューを平らげて、おれとルードは明日、いや、出発は今日の夕方らしいのでそれまでに荷造りをしないといけない。……とはいえ、おれの荷物なんて数えるほどなんだけど……。
そんなわけで食堂から寝室へ戻ってあれやこれやとカバンに詰め込んでいく。あ、そうそう、カバンと言えば……。
「あの、ルード。おれが持っていた鞄ってどこに置いてましたか?」
「ヒビキの? ああ、その鞄なら大事なものかもしれないと宝物庫に保管してある」
「ほうもつこ……、いやあの、あれ確かに大事ですけど宝物庫に入れるほどのものでは……」
宝物庫っていう言葉のパワーよ!
煌びやかな宝石とかが置いてある中で異彩を放っているであろうおれの鞄……。いや、宝物庫になにが入っているかは知らないけれど!
「一週間とは言え、屋敷に戻ろうと思えば戻れるのだから、荷物は多くなくても構わないと思うぞ」
「ええと、じゃあこれとこれと……、あとあの、出来れば下着が欲しいのですが」
さすがにノーパンのまま街を出歩くのは遠慮願いたい。
「下着ではないがちゃんと用意している。これを履くと良い」
そう言ってルードはおれに服を手渡してきた。半ズボン、と呼んで良いのか、それよりも短い丈になんと言えば良いのか。しっかりと刺繍も施されていていつの間に作っていたんだろうとルードを見つめる。
「言っただろう、準備があるから、と。ヒビキには私が作った服以外を着せる気はないからな」
……こういうのも独占欲っていうのかなぁ……?
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