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1章:十八禁BLゲームの中に迷い込みました!

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 スープを頂いてお腹も落ち着いたところで刺繍を再開した。何枚かワンポイントの刺繍を繰り返して、リアが一枚ずつラッピングをしてくれた。あとはこれをルードに渡すだけ、になったわけだけど……。
 午前中からずっと刺繍をしていたからか、なんだか躰が固くなった気がする。解すように肩をぐるぐると回す。

「ふふ、お疲れさまでした、ヒビキさま」
「リアもね。付き合ってくれてありがとう」

 お礼を言うとリアはただ微笑んだ。ここの屋敷の人たちは本当にいい人ばかりだなぁ……。しみじみとそれを感じつつ、おれはリアがラッピングをしてくれたハンカチをクローゼットに隠した。

「さて、これからどうしますか?」
「あー……、ちょっと躰を動かしたいんだけど、良い場所ある?」
「運動ですね。……それでしたら、庭をぐるりと一周するのも良いと思いますよ」
「庭を?」
「花壇をぐるりと一周するんです。そこそこ広いので、良い運動になるかと」

 なるほど……。おれがうなずくとリアは庭まで一緒に来てくれた。今日の庭当番は誰だろう……。昨日はニコロだったけど。
 庭にはじいやさんが居た。今日は彼が当番だったようだ。

「お疲れさまです」
「おや、リア。ヒビキさまも」
「今日はじいやさんが庭当番ですか?」
「ええ。少し休憩していたところです。ところで、花を見にいらしたのでしょうか?」
「あ、ううん。ちょっと躰を動かしたくて。庭をぐるりと一周すると良いってリアが教えてくれたんだ」

 そうでしたか、と優しく微笑むじいやさんに、うなずくリア。さっそく一周しようとするおれを微笑ましく見守るふたり。……ここの屋敷の人たちもおれに甘いよな……。
 とりあえず庭を一周。久しぶりに躰を動かす――……、あ、動く前に準備運動! 危ない危ない、忘れるところだった。しっかりと準備運動をしてから歩き出す。
 ウォーキング、かな。姉に教わった通りに体を動かす。少し歩いただけでも息が切れそう。体力落ちてるなぁ! そりゃそうだ……一週間以上屋敷の中に居たんだから。これからはもっと運動しないとまずいよな……。
 十分くらいも動いていると躰がポカポカしてきた。なんだか懐かしい。
 ぐるりと一周……体感二十分くらいだったけど……広いなこの庭!
 もう一周しようとまた歩き出す。今度は花に目を向けながら。色とりどりの花々は見ていて楽しい。きれいだなぁっていつも感心してしまう。
 久しぶりに躰を動かしたからか、二周しただけなのに心拍数がヤバい。これはもう日課にしよう……。せめて元の体力に戻りたい……。

「お疲れさまです、ヒビキさま」

 リアがおれにタオルを渡してくれたので、それを受け取って滲んできた汗を拭う。

「ありがとう。なんか久々に動いたなー」
「仕方ありませんよ、まだ一週間くらいしか経っていませんもの。この屋敷には慣れましたか?」
「それはもう。みんなよくしてくれるし……」
「ヒビキさま、これをどうぞ」

 じいやさんが渡してくれたお茶を飲む。水分が躰に染み込んでいくのがわかる。一気に飲み干すと、すかさずもう一杯空いたグラスにお茶を注いでくれた。それを今度はちびちびと飲む。

「どうしますか、今日はこのままお風呂に向かいますか?」
「あ、そうだね。汗流したいや」

 そのままにしておくと風邪引きそうだし。ルードが帰ってくるのは明後日のハズだ。体調は万全にしておきたい。

「それでは私たちはこれで失礼しますね」
「仕事を中断させちゃってごめん!」
「いいえ、お気になさらず。ヒビキさま」

 風呂場へ向かおうとしたおれを、じいやさんが呼び止めた。おれが首を傾げると、彼は人懐っこそうな笑みを浮かべてこう尋ねた。

「自分の心に、もう迷いはありませんかな?」
「――うん、大丈夫。ありがとう、じいやさん!」

 おれは自分の胸元に手を置いて目を閉じて、それからすぐに瞼を上げてじいやさんに弾んだ声を返した。じいやさんはそれに一瞬目を大きく見開き、それから大きくうなずいてくれた。
 そんなおれらを、リアが首を傾げて眺めていた。
 軽く手を振ってじいやさんと別れ、リアと一緒に風呂場へ向かう。リアがすぐに用意しますね、と風呂場へ向かい、本当にすぐに戻ってきて驚いた。生活魔法を使っているのはわかるけれど、どんな風に用意してくれているのかはやっぱり見せてもらえなかった。

「バスローブとタオルを準備しますので、少々お待ちください」
「うん」

 五分もしないうちにリアがバスローブとタオルを持ってきてくれた。おれはそれを受け取って脱衣所に入る。服を脱いで浴室に足を踏み入れ、シャワーを出すと髪を濡らして頭を洗い始める。
 ルードが明後日帰ってくるってことは、また彼に頭を洗ってもらえるのかもしれない。ルードって髪の洗い方うまいんだよなぁ……。気持ちよくて寝そうになるくらい。
 一緒に風呂に入っていた時はおれもルードの髪を洗わせてもらったけれど、彼の髪は案外固くて、絡まりづらい。まっすぐきれいなストレートの髪だ。……なんであんなに長くしているんだろう?
 わしゃわしゃと頭を洗いながらそんなことを考えていた。
 ……っていうか、おれ、ルードが居ない間、ほぼ彼のことを考えない日はなかったよな……。なんていうか、うん。……恋愛経験ゼロだからか、ただ単におれが鈍いからか、自覚するのが怖かったからなのか……多分、その全部。
 シャワーでシャンプーの泡をきれいに落として、トリートメントをつける。タオルを濡らして絞り、髪を包み込むようにして巻く。トリートメントを浸透させる間に躰を洗って、石鹸の泡を落とす時に一緒にトリートメントも流す。
 それからお風呂に入って躰を温める。少しぬるめのお湯は心地よく、全身に温かさがじんわりと広がっていく感覚。お風呂ってやっぱりいいなぁ……。
 しっかりと躰を温め、お風呂から出た。バスローブに身を包んでから精霊さんにお願いして躰と髪を乾かす。一瞬で乾いて本当に便利だ。
 ……さて、今日はこれからどうしよう。寝室に戻ってルードの手紙を読みなおそうか。それとも書庫で文字の練習?
 その前に着替えよう。さすがにまだ寝る時間じゃない……。
 とりあえず寝室に向かい、クローゼットから服を取り出して着替える。バスローブはチュニックの掛かっていたハンガーに掛けて、違うところに吊るしておく。
 それからルードからもらった手紙二通を持ってソファに座り、一通目から読み直した。
 ルードは昔からこういう丸い文字を書いていたのかな?
 昔のルードってどういう姿だったんだろうか。髪は今より短い? おれと同じくらいの年のルードが見てみたい。だって気になるじゃないか、ルードが服を作り出したのは、おれと同じくらい年だって聞いたら。
 それになにより気になるのは、『今はまだ、ヒビキが知る時期ではない』っていうルードの言葉だ。
 ルードが遠征に行ってからみんなに教えてもらった彼の過去。
 そっと手紙の文字をなぞって、小さく息を吐く。
 すべてがわかる時が、いつか来るのかな――?
 今はただ、ルードが無事に戻ってきてくれるのを祈る。……そういえば、この世界って精霊さんはいるみたいだけど、神さまっているのかな。むしろ精霊さんが神さま的な……? 教会はあるんだから、信仰しているなにかがありそうなんだけど……。
 あ、それとスキル。スキルも気になる。
 もしかしたらおれにもスキルがなにかあるかも。魔力が全然なさそうなおれにさえ、生活魔法が使えたんだし。そこら辺も気になるから、ルードが帰ってきたら教会で検査を受けられるか聞いてみよう。
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