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1章:十八禁BLゲームの中に迷い込みました!
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しおりを挟む……おれは椅子の背もたれに身を預けて目を伏せた。そっか、好きになってもいいのか。じいやさんの言葉がすとんと胸に落ちた。瞼を上げてじいやさんを見上げて口を開く。
「じいやさん、おれルードのことが……」
「だめですよ、ヒビキさま」
「え?」
「その言葉の続きは、是非坊ちゃんに直接お伝えください」
「そっか……うん、そうだね」
「さぁ、もう遅い時間です。ゆっくり休んでくださいね」
こくりとうなずいて椅子から立ち上がった。じいやさんは寝室までついてきてくれて、そこで別れる。その前に水とタオルをお願いして、持ってきてもらってからおやすみ、と挨拶をして水とタオルをナイトテーブルに置いて引き出しから小瓶を取り出して、いつものようにしてからベッドに潜り込む。
あと少し。あと少しでルードが帰ってくる。その時に、ちゃんと伝えよう。
カモミールティーのおかげか、直前までやっていた行為のせいかすぐに睡魔はやってきた。
小鳥のさえずりに目が覚めた。ベッドから起き上がってのろのろとクローゼットに向かう。服を引っ張りだして着替え――……そういえば、いつの間にか洗濯された服も戻っている……。いつの間に……?
おれが居ない間にやってくれているんだろうなぁ。
姿見で髪をちょいちょいと直し、窓に向かってカーテンを開ける。太陽の光が眩しいけれど、雲ひとつない晴天でなんだか気分まで上昇しそうだ。
ちりん、と鈴を鳴らすとすぐに扉がノックされた。
「どうぞ!」
元気よく返事をすると、ガチャっと軽い音を立てて扉が開く。中に入ってきたのはリーフェだった。おれの姿を見て安堵したように微笑む。
「おはよう、リーフェ」
「おはようございます、ヒビキさま。お身体の具合はいかがですか?」
「もうすっかり大丈夫。心配してくれてありがとう、リーフェ」
おれがそう言うと、リーフェはゆっくりと首を左右に振る。それからおれに視線を合わせて、胸元に手を置いた。
「ヒビキさまがお元気になられて本当に良かったです」
にこりと微笑む姿はじいやさんの面影がある。さすが孫娘……って、あれ、こっちの世界ではコウノトリが運んでくるんだから遺伝子ってどうなるんだろう?
いや、それはとりあえず置いておこう。
「お腹空いちゃった。今日の朝ごはんはなにかな?」
「ふふ、それは見てからのお楽しみと言うことで」
寝室を出て食堂に向かう。リーフェは水とタオルを持って洗濯場へと向かった。食堂ではじいやさんとリアが居て、おれに気付くと挨拶をしてくれた。
おれも挨拶をして、椅子に座る。食事はすぐに来た。
こんがりと焼けた一口サイズのトーストに、半熟のベーコンエッグ、たっぷりの温野菜(ドレッシング別添え)、それからポタージュ。
「いただきます」
手を合わせてさっそくとトーストを食べる。外はサクサク中はしっとりとしたパンは、とてもおいしくて……。ベーコンエッグも塩コショウの加減が絶妙で、温野菜はそのまま食べても野菜が甘い。ドレッシングをかけてもおいしいし、ほんっとここの料理っておいしいよなー。もちろんポタージュだって濃厚でおいしい。
……そういや昨日結局夕飯は食べてなかったもんな、そりゃ腹も減るわ……。
「ごちそうさまでした」
お腹いっぱいになるまで食べて手を合わせる。しかしそろそろ本格的に運動しないとまずいのでは……?
とはいえ、今日はこれからリアと刺繍をする予定だから刺繍が終わるまでそれは置いとこうか。
「ヒビキさま、刺繍はどうなさいますか? 昨日具合が悪くなったようだとリーフェから聞いて……」
「あ、それはもうすっかり大丈夫だから刺繍したいな」
リアは首を縦に振った。
「それでは用意をしますね。場所は寝室でよろしいですか?」
「うん、お願い」
椅子から立ち上がるとじいやさんがおれに近付いてきた。なんだろう、と思って彼を見上げると、すっと手紙を差し出した。
「坊ちゃんからの手紙が今朝届きましたよ」
「あ、ありがとう」
差し出された手紙を受け取って、そっと胸元に置く。それからリアと共に寝室へ向かって、リアはおれをソファに座らせてからペーパーナイフを取りに行った。
すぐに戻ってきて、ペーパーナイフをおれに渡し、今度は刺繍の準備を始める。
そっと封筒にペーパーナイフを滑らせて切る。封筒から手紙を取り出して広げた。まず目に飛び込んでくるのはやっぱり可愛らしい丸文字で、思わずふっと笑みが浮かぶ。
手紙の内容はこの前と似たような感じだった。おれの心配ばかり。最後まで読んで、手紙を封筒に戻す。
「刺繍を始めますか?」
「うん」
いつの間にか飲み物まで用意してくれていた。昨日と一昨日習ったように手を動かす。それを微笑ましそうにリアが見守る。
「あ、ヒビキさま……、そこはこうしたほうが……」
「そっか、ありがと!」
リアにアドバイスをもらいながら刺繍を進める。まだまだ下手だけれど、想いを込めて。彼が無事に帰ってきますように、そして――……。
黙々と刺繍を続け、時折リアの淹れてくれたお茶を飲みながら。ちょこっと休憩してまた刺繍を繰り返す。
「……こんな感じでどうかな?」
出来上がった刺繍をリアに見せる。リアはハンカチを受け取ってじっと採点するかのように真剣な目で刺繍を見る。そっと指でなぞり、ふむ、と独り言のように呟いておれへと顔を向けた。
「きっと坊ちゃんもお喜びになると思います」
にこっと笑ってそう言ったリア。うん、それは合格ラインと思っていいのか悪いのか。そこがすごく気になるけれど、リアの表情からして三日でここまで出来れば上出来とするべきか。
「それではヒビキさま、今度はこの糸で刺繍をしてみてくださいませんか?」
「え?」
「これは私が魔力を込めた糸です。ヒビキさまが坊ちゃんに無事でいて欲しいという願いを込めて刺繍をしてみてください。きっと精霊が力を貸してくれると思います」
ルードの髪の色を思い起こす紺色の糸を受け取って、おれはまた刺繍を始める。
リアが魔力を込めた糸なら、もしかしたらおれが刺繍をしても護符のような役割を持たせることが出来るかもしれない。
ルードが無事でありますように。そして、願わくばいつものように笑顔を見せて欲しい。……なんて、それはおれのわがままかもしれないけれど、それでも――願わずにはいられないんだ。
ルードの無事を。自分の気持ちが定まってからまだ一日も経っていないけれど、早く彼に会いたくて仕方ない。おれはちゃんと、ルードと話せるのか。
恋愛経験ゼロのおれが挑むには、中々難しい問題だ。
おれが真剣に刺繍をしていると、リアが「昼食の準備をしてきます」と寝室から出て行った。あれ、もうそんな時間? と顔を上げて窓へと視線を向ける。……確かに太陽が真上に昇っている……。
いつの間に……? 午前中ずっと刺繍をしていたのか、おれ!
……その集中力に驚いた。こういう作業、実は得意だったのかもしれない……。
……いや、おれの家庭科の成績は五段階中の三で真ん中もいいところだった。この世界に来て才能でも開花したんだろうか……。……そんなわけないか。
すっかり冷めてしまったお茶を口に含んで飲み込む。冷めてもおいしいのはやっぱりうれしい。
お茶を飲んでほっとしていると、リアが戻ってきた。
「軽めのものを用意しました」
「ありがとう、いただくね」
「はい、どうぞ」
あっさりとしたあさりの出汁がしみ込んだあったかいスープ。白菜と厚切りベーコン、ニンジン、じゃがいもが入っていてあっさりしているのにボリューム満点。それでも次々に食べられるのは黒コショウのおかげかな。ピリッとした辛味が食欲を刺激する。
「癒される味……」
「ふふ、お気に召したようで良かったです」
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