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1章:十八禁BLゲームの中に迷い込みました!
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しおりを挟む次に目を開けるともうすっかりと暗くて驚いた。いつの間にこんなに眠っていたんだろう。緩やかに息を吐いて、ベッドから起き上がった。随分と熟睡していたみたいでぐるぐるしていた思考は消えていた。
――やっぱり疲れていたのかな。
一度深呼吸をしてから、起き上がる。ベッドから抜け出そうとして、心配そうなリーフェの顔が思い浮かんだ。今、どのくらいの時間帯なんだろう。呼んだら迷惑な時間なら鈴は使わないほうがいいよな……。
「……さて、と」
ベッドから抜け出してとりあえず食堂に向かってみる。……この時間に屋敷の中を歩くのは初めてだ。薄暗い屋敷の中は昼間にはない雰囲気を醸し出していて少し怖い。
目は暗闇に慣れてきたけれど、壁に手をついて恐る恐る歩いていると灯りが見えた。
「ヒビキさま?」
「じいやさん……」
びっくりして肩が跳ねた。ほのかに光るランプを持っておれに声を掛けてくれたみたいだ。じいやさんは心配そうに眉を下げて微笑んだ。
「具合はいかがですか?」
「大丈夫。心配かけたみたいでごめんなさい」
頭を下げるとぽんぽんと優しく肩を叩かれた。顔を上げると、じいやさんはゆるりと首を左右に振った。
「謝らないでください、ヒビキさま。我々が勝手に心配をしているのです」
優しい口調で言われて、おれはじっとじいやさんを見た。勝手に心配……? でも、心配かけちゃったことは本当だから……。えーと、じゃあ。
「おれの心配をしてくれて、ありがとう」
微笑んでそう伝えると、じいやさんは一瞬目を見開いてから目元に皺を刻みながら嬉しそうに笑ってうなずいた。
「そういえば、ヒビキさまはどこへ向かおうと?」
「あ、えーっと誰か起きていないかなって思って食堂へ。喉が渇いちゃって」
「それではハーブティーを淹れましょう。カモミールはいかがでしょうか」
「……おれ、ハーブティー飲んだことないのでお任せします」
「かしこまりました。……ヒビキさま、また敬語になっています」
「……難しい!」
なんだか前にもこんな会話をしたよな。数日前に。それを思い出してちらりと彼を見ると、目が合った。きっとじいやさんも同じことを考えていたのかもしれない。ふたりでちょっと笑いあって、すぐに食堂に向かった。
「今、灯りを点けますね」
パチン、と指を鳴らすとすぐに灯りが点いた。眩しくて思わず目を細める。
「では、こちらへどうぞ」
「灯りの点け方って人それぞれなの?」
じいやさんの引いてくれた椅子に座って、彼を見上げて問う。確か、灯りを点ける時にルードはなにかを呟いていた。
「そうですね。これも生活魔法ですから」
「生活魔法、幅広くない!?」
灯りを点ける魔法ってこと? でもそれと指を鳴らすことで灯りが点くことの関係性とは……?
「あれ? ルードは指を鳴らして点けてなかったよ?」
ちなみにおれが生活魔法を使えないことに気付いていたのかいないのか、ルードが遠征に向かってからは気付いたら部屋の灯りが点いていたし消えていた。きっと誰かがやってくれていたんだろう。
「ああ、それはただ単に灯りを点けることに条件を付けているか、いないかの差です」
「条件を付けて……?」
じいやさんはハーブティーを淹れながら説明をしてくれた。
「生活魔法を使う時、精霊にお願いする合図を作るのです」
「じいやさんの場合、それは指を鳴らすこと?」
「ええ。お願いを口にすることもありますが、指を鳴らすことのほうが多いですねぇ。はい、こちらをどうぞ」
「ありがとう」
カモミールティーを受け取って一口飲んでみる。初めてのハーブティーだ。案外飲みやすいんだな……。あったかい飲み物を飲んで、ほう、と息を吐く。夜も遅いだろうけど、なんだか頭がクリアになった気がする。
「ねえ、じいやさん。ちょっとお願いがあるんだけど……」
「お願い、ですか?」
「うん。書庫に行きたいんだけど、いいかな?」
じいやさんはにっこりと笑ってうなずいてくれた。
カモミールティーを飲み干して立ち上がる。書庫まで向かうおれに、じいやさんもついて来て書庫の鍵を開けて灯りも点けてもらう。この時間だから、鍵が掛かっていると思っていたから、それは正解だったようだ。
「なにか読みたい本がありましたか?」
「ううん、ちょっと文字の練習がしたくて。基本の文字をじいやさんに見てもらおうかなって」
「そうでしたか……。それでは紙とペンをこちらの机に用意しますね」
そう言ってじいやさんはてきぱきと紙とインクとペンを用意してくれた。……物がどこに入っているかをおれが覚えたほうがいいのでは……? と思いつつ、椅子に座りペンを持つ。
じいやさんとリーフェに習った基本の文字を紙に書いていく。うん、やっぱり前よりは上手に書けている気がする。習った文字を全部書いて、じいやさんに見せた。彼は紙を受け取ってざっと目を通し、それから目尻に皺を刻んで微笑む。
「良く書けています。ふふ、もしかしたらヒビキさまのほうが綺麗な字を書いているかもしれませんね」
誰と比べているのかすぐにわかった。
「ルードって昔からあの可愛い丸文字なの?」
「おや、坊ちゃんの字をご存じで?」
「一回手紙をもらったよ」
「ふふ、坊ちゃんが手紙を書くとは……。坊ちゃんは自分の文字があまりお好きではないようで、文字を書くのを嫌がることが多いのです。その坊ちゃんが自らペンを取るとは……。本当に、愛されていますね、ヒビキさま」
心底嬉しそうにそう言われて、おれは目を瞬いた。ま、まぁ……ギャップがあるとはおれも思ったし……。いやでもそこで愛されてるって言われてもどう反応していいのかわからない……!
「……ルードから告白されたわけじゃないのに、それ断言していいの……?」
困惑が勝った口調で尋ねると、じいやさんは一瞬目を大きく瞠って、それからぽんぽんとおれの頭を撫でた。
「口で言うだけが告白ではないのですよ、ヒビキさま。この国ではその服を着せていること自体が告白のようなものですから。坊ちゃんに関して言えば、口下手なところがありますから、行動で示していると思いますよ。――坊ちゃんに愛されているとは、感じませんか?」
じいやさんの問いに言葉が詰まった。この世界に来てからのルードの割と過保護ぶり……。おれを心配しているから、心配なのは、好きだから?
一体いつどこでおれに惚れる要素が……?
「考えてみれば最初から愛されてるような気が……」
「ええ、我々も驚きました」
一週間前を振り返って眉を下げる。あの時、最初に出会った時からルードの態度はあまり変わっていない。最初からおれのことを心配してくれていた、と思う……。なんせその前に見たのがアデルとルードの会話だったから、彼が普段他の人にどんな態度なのか知らないし……。街に行けば違う態度のルードも見られるのかも……?
「……お別れが来るかもしれないのに、好きになってもいいものなのかなぁ……」
「……故郷へ帰られるのですか?」
「帰る手段がわからないので、今すぐってわけじゃないけど……」
そう、帰る手段がわからない。ゲームに異世界転移した人ってどうやって帰っているんだろう……?
「……それでしたら、是非、愛してください。人の一生は短いものです。その中の何分の一かでいいのです。人を愛すること、愛されること、それはとても尊いものなのですから」
穏やかな口調で優しくおれに語り掛けるじいやさん。
「いつか来る別れの日にも、想い出があれば耐えられることもあるでしょう」
「……じいやさん……」
そう語る彼の表情はとても優しく、それと同時に悲しさを滲ませていた。
「……ところで、帰る手段がわからない、とは?」
「あー……。えーっと、気にしないでクダサイ」
おっと片言になってしまったぞ。目を逸らしてそう言うと、じいやさんは深く追求しないでくれた。おれがこの世界とは違う世界から来た、とはまだ誰にも言っていないし、もしも言うのだったら最初はルードがいい。
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