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1章:十八禁BLゲームの中に迷い込みました!

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「えーと、じゃあニコロから見たルードの話を、今度聞かせてくれるかな?」
「構いませんけど……。まぁ、それはともかく召し上がってください。せっかくの温かい料理ですから」
「うん、ありがとう。いただきます」

 両手を合わせてからナイフとフォークを手にして朝食を食べ始める。来たばかりの頃に比べれば、結構テーブルマナーも上達したんじゃないだろうか。上達したと思いたい。
 白身魚のソテーを一口大に切って口元に運び、ぱくりと食べる。…………美味しいけれど、この屋敷に来てからずっと洋食続きだから、そろそろ日本食が恋しい……。
 真っ白いご飯に焼き鮭、豆腐とワカメの味噌汁にだし巻き卵、それから漬物!
 サラダにキャベツ入ってるし、もしかしてキャベツの浅漬けは作れるんじゃ?
 卵もあるし味付けを変えたら……。茶碗蒸しもいいなぁ。
 もちろん、出てくる料理全部美味しいんだけどね。……ただ日本食が恋しいだけで。
 無言で食事を進めて、食べ終わってごちそうさまでしたと手を合わせる。食器を下げに来たのはリーフェだった。

「この片付けが終わりましたら、刺繍の練習を始めましょう。ヒビキさまは先に部屋へ向かってください。ニコロ、ヒビキさまをお願いします」
「え?」
「彼と話したかったのでしょう?」

 こそっと内緒話をするかのように耳打ちされて、おれはびっくりしてリーフェを見た。え、やっぱりおれってそんなに顔に出るの!? と頬を両手で包んでみたけれど、リーフェはクスクスと笑い、そばに来ていたニコロは眉を下げて微笑んだ。
 顔に出ないようにするにはどうしたらいいんだろう……。

「えーと、じゃあニコロ、行こっか」
「はい、ヒビキさま」

 一礼してからニコロと歩き出す。部屋につくまでの間に、少しだけニコロと話せた。

「ニコロはどうしてこの屋敷に?」
「オレは元々聖騎士団に所属していたのですが、足を怪我してしまい、前線から遠ざかることになったんです。その時に、隊長……いえ、ルードさまから屋敷に来ないかと誘われて。三年くらい前から住み込みで働かせてもらっています」
「……ん? ルードって三年前から隊長だったの?」
「ルードさまは十八歳から隊長でしたよ」
「若っ!」

 十八歳で一番隊隊長ってことだよな。自分より年下の人が隊長になるのってどんな気持ちになるのだろう。ちらりとニコロに視線を向けると、彼はおれの考えを読み取ったかのように言葉を続ける。

「正直少し複雑ではありましたが、ルードさまは貴族ですし、功績もありましたし納得の昇進でしたよ」
「功績?」
「ええ、まだ十五~六歳の時になるのですが、王都の近くに攻め入った魔物を討伐したのです。その数ざっと百余り。それをたったひとりで」
「ひとりで、百余りの魔物を討伐!? そんなこと出来るの!?」

 驚いて思わず大きな声が出てしまった。ニコロは少し考えるように上を向いて、それからおれに視線を向けて「まぁ、ルードさまですから」と一言。
 ルードだから出来たってことなのかな? いや、でも……ひとりで百余りの魔物って……。

「ちなみに聖騎士団長はもっとすごいですよ」
「うわぁ……」

 全然想像が出来ない。正直、ルードが戦っている姿も想像出来ないのに……。

「あれ? そう言えば聖騎士団ってどういう職業……?」
「知らなかったんですか、ヒビキさま……」

 驚いたように目を丸くするニコロに、もしかして聖騎士団って有名な職業なんだろうかと思わず彼を見た。
 ニコロは足を止めてこほんと咳払いをすると、ぴっと人差し指を立てて聖騎士団について語ってくれた。

「聖騎士団とは王家直属の騎士団です。所属するにはある【力】を持っていないといけませんので、人数自体はそんなに多くありません。仕事は魔物の討伐が主ですね」
「魔物ってそんなに頻繁に街を襲うの?」

 おれの質問に、ニコロは困ったように眉を下げた。それからゆっくりと息を吐いて、ぽんと肩に手を置いて緩やかに首を振る。真剣な表情でおれの目を見て、硬い口調で声を発する。

「ヒビキさま、知らないほうが良いこともあるのですよ」

 おれには知られたくないこと、なんだろうか。じっとニコロを見ても、彼は黙ったままだ。

「本当に知りたいのでしたら、ルードさまに聞いてくださいね」

 教えるつもりはありません、と言外に伝えてくるニコロに、おれは首を縦に動かした。そんなに言いづらいことなのかな、魔物のことって。見たことがないからなんとも言えないけれど、前にルードが魔物の行進があったとか言ってたような。

「あれ? じゃあニコロにもその【力】があったってことだよね」
「そうですね」
「その【力】を今も使ったりする?」
「……うーん、ここ結界内ですから、使うことのほうが稀ですよ」

 どんな【力】なのかさっぱりわからない……。けれど、多分教えてくれないだろうと思いおれは止めていた足を動かした。ニコロも部屋まで一緒に歩く。その間にもう少しだけルードについて話してくれた。

「俺は正直、今のルードさまのほうが人間味あって親しみやすい気がしますよ」
「……薄ら聞いてはいたけど、どんだけ表情筋が働いてなかったのさ……」

 おれは表情が豊かなルードしか見たことないから、なんか変な感じがする。みんなの見ているルードが本来の姿なんだろうか。なら、おれに対して無理している? そんな感じには見えなかったけど……。

「ありゃ鬼だって言われてましたからねぇ……」

 当時を思い出したのか苦々しく表情を歪めてぽそりと呟くニコロ。
 鬼と呼ばれるルードって一体なにをしたんだろう……?

「新米聖騎士の訓練……、一瞬で全滅させて素振り千本からって伝説が……」
「スポコンかよ!?」
「なんですか、それ」
「あー、ごめん、なんでもない。素振り千本ってきつそう……」
「終わるまでルードさまが見張っているんですよ、余計にきつい。主に精神的な意味で」

 ボコボコにした相手が見張っているのなら緊張もするだろうしなぁ、ニコロは遠い目で語っていた。しかし素振り千本って……。

「あれ、聖騎士団って武器色々じゃ?」
「基本は剣ですよ。魔法使えるヤツもね。騎士を名乗るからには剣を扱えなきゃね」

 確かに騎士団って剣を使うイメージがある。おれがなるほど、と呟くとニコロは頭を掻いた。それと同時に部屋までついたので、そこでニコロと別れて入れ替わりにリーフェがやってきた。

「さて、それでは始めましょうか、ヒビキさま」
「うん、お願い」

 部屋に入ってソファに腰掛け、昨日リアが置いてくれた練習用の布と刺繍糸に手を伸ばす。教わったことを思い出しながら刺繍の練習を始めると、リーフェはお茶を用意してくれた。

「あ、そうだヒビキさま。先に私は刺繍が苦手、と伝えておきますね」
「え!?」

 びっくりしてリーフェに顔を向けると、彼女は眉を下げ頬に手を添えて言葉を繋げる。

「……リアがなにを言ったかはわかりませんが、私は彼女のスパルタから逃げるために上達させたようなものですから……」
「あ~……」

 確かに昨日のリアはスパルタだった。リーフェは思い出すのも嫌だったのかブルリと身震いさせた。……どのくらいスパルタだったのかちょっと気になる。おれの時よりスパルタだったりするんだろうか。

「……えっと、でも刺繍は出来るんだよね」
「ええ、まぁ。積極的にやろうと思わないだけで……」
「そっか、なんか、ごめん……」

 フルフルと首を横に振るリーフェに、おれはとりあえず刺繍を練習しようと布に向き合う。思うように出来ないところをリーフェに教えてもらいながら。リーフェ、苦手って言うわりには教え方がうまくて驚いた。
 それを伝えると、「あら、そうですか?」とちょっとだけ嬉しそうに目元を細める。
 お茶を飲みながら刺繍の練習をして、ちょこちょこリーフェに助言をもらい、午前中はずっとそうやって過ごした。
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