19 / 222
1章:十八禁BLゲームの中に迷い込みました!
18
しおりを挟む「ヒビキさま?」
「ううん、なんでもない。少し気になって」
緩やかに首を左右に振ると、リーフェは不思議そうにおれを見たけれど、すぐに「それでは失礼しますね」と軽く会釈して廊下を歩いていく。おれは小さく息を吐いてから食事の乗ったトレイをテーブルに置いてソファに座る。
食事はサンドウィッチとサラダ、コーンスープだ。軽めのものにしてくれたことに感謝して手を合わせる。
「いただきます」
サンドウィッチに手を伸ばして頬張る。シャキシャキのレタスとハムの塩加減粒入りのマスタード入りマヨネーズがベストマッチしていて美味しい。サラダもさっぱりしていて、コーンスープはまろやかな塩味で整えられていて……食べ進める手が止まらない。すべて食べ終えて「ごちそうさまでした」と手を合わせる。
食器を下げてもらおうと鈴を鳴らしてすぐに扉がノックされた。どうしてこれだけの音でわかるのか謎だ。
「どうぞ」
おれがそう答えると扉が開いてじいやさんが入ってきた。手には紅茶を持っている。
「食後にいかがでしょうか」
「あ、ありがとうございます」
テーブルに紅茶を置いてじいやさんは食器を下げようとする。おれは紅茶の入ったカップを手に取って一口飲む。甘い……?
「甘い、ですね?」
「ええ。甘いものは心が和みますでしょう?」
ほう、と息を吐いた。確かに少し力が抜けたような気がする。じいやさんは食器を片付ける手を止めておれに微笑みかけた。それに気付いて首を傾げる。
「リーフェと仲が宜しくなったようですね」
「色々な話しを聞かせてもらいました」
じいやさんは「そうですか」と嬉しそうに声を弾ませた。なにがそんなに嬉しいのだろうかと彼を見上げると、じいやさんは深々とおれに頭を下げた。
「リーフェは私の孫娘なのです」
「え!?」
驚いて声が出た。リーフェがじいやさんの孫娘!?
じいやさんはひとつうなずき、ぽんぽんとおれの頭を撫でた。孫娘と仲良くなったのがそんなに嬉しいのだろうか。
「私がルードさまについて行くことを知ったリーフェが、王都の学園に入るのを理由に付いてきたのです」
「ん? 学園に通いながら働いていたの?」
「そうなりますね」
日本だとバイトしながら学校に通っているようなもんか? それで恋人も出来た、と。すごいなリーフェ。ちなみにおれはバイト経験ゼロだ。そのうちやってみたいとは思っていたけど。
「……あれ? でもじいやさんはどうしてルードについてこようと思ったんですか?」
「……心配だったから、ですな。あの頃のルードさまは不安定でしたから。それを旦那さまもご存知だったので、お目付け役としての意味もあったでしょう」
「へえ……」
不安定なルードとはどんな状態のルードなのだろう。でもまぁ、まだ小さい子がいきなり家族と離れて暮らすってのは不安だよな。
「そう言えば、ヒビキさまは生活魔法を使えないのですか?」
ドキッとして肩が跳ねた。その様子を見てじいやさんは眉を下げる。
「リーフェに聞いた?」
「はい」
「そっか……」
使えないことは本当だし……。おれが頬を掻いてなにを言おうかと考えていたらじいやさんはこう言い出した。
「明日から、練習をしてみますか?」
「え?」
「生活魔法が使えれば、便利ですから」
「そもそもおれ、魔力があるかどうかわからないけど……?」
「物は試しに」
ね、と微笑まれて思わずうなずく。おれにも使えるのなら便利なことは確かだし。
ルードの居ない間に覚えて驚かせてみるのもちょっと楽しそう、なんて悪戯心が。
「まずは、水をお湯に変えるところから始めましょうね」
「それも生活魔法?」
「応用すればすぐにお風呂に入れますからね。入浴はどうしますか?」
「あ、お願いします。……それと、水とタオルを寝室に持ってきてもいいですか?」
「構いませんが……。それでは、用意をしてきますね」
じいやさんは空になった食器の乗ったトレイを手にして部屋を出る。おれは残っていた紅茶を一気に飲み干す。すっかり冷めちゃったけれど、それでも美味しい紅茶だった。
水とタオルをお願いしたのは、これから行うことの後処理を考えて、だ。生活魔法が使えないおれだから、どうしても必要になる。
……それにしても、生活魔法ってどんな区分? 攻撃魔法や治癒魔法もあったりするのかな。そこら辺は明日生活魔法を習う時に聞いてみよう。
――そして、十分もしないうちに「用意が出来ました」と声が掛けられた。相変わらず早い。おれはソファから立ち上がって扉に向かう。
もうお風呂に入ってしまおう。そう思って扉を開けるとじいやさんが居て、浴室まで案内してくれた。いつもルードと一緒だった道をじいやさんと歩くのはなんとなく新鮮だ。
「バスローブとタオルは用意してあります。先程仰っていたタオルと水はいつお運びしましょうか」
「ええと、じゃあおれがお風呂から出たらお願いします」
「……ヒビキさま。私にも敬語を使う必要はないのですよ?」
「え」
意外な言葉に顔が固まった。だってじいやさんのほうがおれより年上だし、いやそれを言ったらリーフェも年上なんだけど、彼女の場合はじいやさんより年が近いと思ったし、でもじいやさんがそれを望むなら敬語をやめたほうがいいのか……?
「……ぜ、善処します」
今朝のルードがこんな言葉を言っていたような気がする。おれの返答にじいやさんはくすりと笑い声を上げ、「是非お願いします」と朗らかに笑う。
7
お気に入りに追加
2,345
あなたにおすすめの小説
気が付いたら異世界で奴隷になっていた。
海里
BL
ごく平凡のサラリーマンだったツカサは、残業帰りに異世界へと迷い込んでしまう。言葉のわからない異世界で、気が付けば奴隷商人にオークションに出され、落札された。
金髪の青年――アルトゥルに買われたツカサは、彼にイヤリングをつけられると、言葉がわかるようになり、彼に「今日から私が、お前の主人だ。――奴隷」と宣言されてしまうツカサの話。
短いのでさらっと読めると思います。
攻め視点(三人称)追加しました。
※ムーンライトノベルズ様にも投稿しています。
召喚された美人サラリーマンは性欲悪魔兄弟達にイカされる
KUMA
BL
朱刃音碧(あかばねあおい)30歳。
ある有名な大人の玩具の開発部門で、働くサラリーマン。
ある日暇をモテ余す悪魔達に、逆召喚され混乱する余裕もなく悪魔達にセックスされる。
性欲悪魔(8人攻め)×人間
エロいリーマンに悪魔達は釘付け…『お前は俺達のもの。』
魔王の最期の悪あがきで淫紋を刻まれた勇者の話。
海里
BL
長きに渡って行われた勇者と魔王の戦いは、勇者が魔王を倒すことによってようやく世界に平和が戻った。
――だが、魔王は最期の悪あがきに勇者の下腹部に淫紋を宿した。チリッとした痛みを感じた勇者だったが、あまり気にせずに国に戻り国王陛下に魔王討伐の報告をして、勇者は平和になった世界を見て回ろうと旅立った。
魔王討伐から数ヶ月――薄かった淫紋はいつの間にか濃くなり、とある村の森の奥で暮らしている勇者――アルトは、下腹部の甘い疼きに耐えながらひっそりと生活をしていた。
日課になっている薬草摘みでピンク色のスライムに襲われたことで、アルトの生活は淫らなものへと変わっていくことになった――……。
※不定期更新
※ムーンライトノベルズ様にも投稿しています。
異世界でチートをお願いしたら、代わりにショタ化しました!?
ミクリ21
BL
39歳の冴えないおっちゃんである相馬は、ある日上司に無理矢理苦手な酒を飲まされアル中で天に召されてしまった。
哀れに思った神様が、何か願いはあるかと聞くから「異世界でチートがほしい」と言った。
すると、神様は一つの条件付きで願いを叶えてくれた。
その条件とは………相馬のショタ化であった!
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
中華マフィア若頭の寵愛が重すぎて頭を抱えています
橋本しら子
BL
あの時、あの場所に近づかなければ、変わらない日常の中にいることができたのかもしれない。居酒屋でアルバイトをしながら学費を稼ぐ苦学生の桃瀬朱兎(ももせあやと)は、バイト終わりに自宅近くの裏路地で怪我をしていた一人の男を助けた。その男こそ、朱龍会日本支部を取り仕切っている中華マフィアの若頭【鼬瓏(ゆうろん)】その人。彼に関わったことから事件に巻き込まれてしまい、気づけば闇オークションで人身売買に掛けられていた。偶然居合わせた鼬瓏に買われたことにより普通の日常から一変、非日常へ身を置くことになってしまったが……
想像していたような酷い扱いなどなく、ただ鼬瓏に甘やかされながら何時も通りの生活を送っていた。
※付きのお話は18指定になります。ご注意ください。
更新は不定期です。
激レア能力の所持がバレたら監禁なので、バレないように生きたいと思います
森野いつき
BL
■BL大賞に応募中。よかったら投票お願いします。
突然異世界へ転移した20代社畜の鈴木晶馬(すずき しょうま)は、転移先でダンジョンの攻略を余儀なくされる。
戸惑いながらも、鈴木は無理ゲーダンジョンを運良く攻略し、報酬として能力をいくつか手に入れる。
しかし手に入れた能力のひとつは、世界が求めているとんでもない能力のひとつだった。
・総愛され気味
・誰endになるか言及できません。
・どんでん返し系かも
・甘いえろはない(後半)
聖女召喚!……って俺、男〜しかも兵士なんだけど?
バナナ男さん
BL
主人公の現在暮らす世界は化け物に蹂躙された地獄の様な世界であった。
嘘か誠かむかしむかしのお話、世界中を黒い雲が覆い赤い雨が降って生物を化け物に変えたのだとか。
そんな世界で兵士として暮らす大樹は突然見知らぬ場所に召喚され「 世界を救って下さい、聖女様 」と言われるが、俺男〜しかも兵士なんだけど??
異世界の王子様( 最初結構なクズ、後に溺愛、執着 )✕ 強化された平凡兵士( ノンケ、チート )
途中少々無理やり的な表現ありなので注意して下さいませm(。≧Д≦。)m
名前はどうか気にしないで下さい・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる