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1章:十八禁BLゲームの中に迷い込みました!
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しおりを挟むゆさゆさと揺さぶられて、目を擦りながら起き上がる。ルードがおれの近くに座っていて、「おはよう、ヒビキ」と微笑んだ。その笑みのなんとキレイなことか。美形ってすごい、その微笑みを見て眠気は
吹っ飛んだ。
「おはようございます、ルード。そろそろ出発の時間ですか?」
「ああ。一週間留守にするが、きちんといい子にしているんだぞ」
「ルードの中でおれは一体どういう立ち位置にいるんですか……」
肩をすくめてみせると、ルードはぽんぽんとおれの頭を撫でた。遠征用なのか、いつも羽織っているマントよりも重そうだ。
「玄関までは見送らなくて良いからな。遠征に行きたくなくなってしまう」
冗談めいたように話しているけれど瞳は真剣だ。これはマジでそうなりそう。おれはベッドから出た。いつの間にかチュニックを着せられていたようで、裸じゃなかった。おれは彼のマントをちょっと引っ張ってみる。
「どうした?」
彼が首を傾げながら屈んだところを狙って、そっと頬にキスをした。恥ずかしくなってすぐに離れたけど、ちらりとルードを見るとおれがキスをしたところに手を添えて、驚いたように目を丸くしていたが、すぐにふっと表情を和らげておれを見た。
「その、行ってらっしゃい。気をつけてくださいね」
「……今ならどんな魔物にも勝てそうだ」
「無理や無茶はしないでくださいね!?」
空色の瞳が愛しげに細められる。その視線を受けて、おれは徐々に顔が赤くなっていくのを感じた。言葉にされたことはないけれど、愛されていると思う。おれが彼をどう思っているのかはまだわからないけれど、怪我をしないで帰ってきて欲しいと思うくらいには心を許している。
「善処はする。では、そろそろ向かうとしよう」
おれの額に唇を落として、ルードはベッドから立ち上がり部屋から出ようとする。おれは追いかけていって、扉の前まで来た。
「ヒビキ、前にも言ったが屋敷の外には出ないように。なにかあればじいやたちに聞くといい」
「はい、わかりました」
「――行ってくる」
「――行ってらっしゃい」
ルードはおれの手を引いてそのまま彼の腕の中に閉じ込められた。ふわりと彼の香りが鼻腔をくすぐる。名残惜しげに離れて、もう一度額に唇を落とすとどこか名残惜しそうに部屋から出て行く。
パタンと扉が閉まって、おれは知らず知らずのうちに息を大きく吐いた。――これから一週間もルードに会えないのが、なんだか寂しかった。
この部屋から正門のほうが見られるんじゃないかと慌てて窓へ近寄る。数分もしないうちにルードがじいやさんと一緒に正門に出てきた。じいやさんとなにか話しているみたいで、会話が終わるとじいやさんがルードに向かい恭しく頭を下げた。
おれの視線に気付いたのか、ルードと視線が合った、気がする。手を振ってみると、ルードは手を高く掲げてくれた。それから馬に乗って王都へ向かうようだ。
「……式典ってなんの式典なのか聞くの忘れた……」
こつりと窓に額を当てて呟く。ひんやりとしたガラス特有の冷たさを感じて、ゆっくり息を吐く。それから顔を上げてクローゼットへと向かった。服を着替えて髪を整え、扉を開けると書庫に向かう。早朝の空気に寒さを感じて身震いをしたが歩いているうちに温かくなった。
「おはようございます、ヒビキさま」
「おはようございます、じいやさん」
外でルードを見送っていたじいやさんが戻ってきていたようだ。おれの姿を見るとにこりと微笑んで挨拶をしてくれた。おれも挨拶を返すと、じいやさんは目尻の皺を刻んだ。
「書庫へ?」
「はい。本を読もうと思って」
「でしたら、温かい飲み物を差し入れましょう。その格好だとお寒いでしょうから、上着も持ってまいりますね」
「ありがとうございます」
ぺこりとお辞儀をするとじいやさんはただうなずいた。おれは書庫へ向かい、じいやさんは飲み物を用意しますと厨房へ向かう。書庫に着いて扉を開けて中へ入る。片手で扉を閉めて本棚に近付いて見上げる。おれが読める本はどこら辺だろう。
んーと……。ここら辺はどうかな? 一冊の本を引き出してみる。……絵本ではないな、これ。薄くもなく厚くもない、ちょうどいいサイズの本だった。
「読めるかな……?」
机に向かって椅子に座る。本の表紙をじっと眺めていると、数回書庫の扉をノックする音が聞こえた。おれが答えるとすぐに扉が開いた。じいやさんが飲み物を、メイドさんが上着を持ってきてくれたようだ。
「ホットレモネードでございます」
「お寒いでしょう? こちらをどうぞ」
椅子から立ち上がり差し出された上着に袖を通してみると、ぴったりだった。驚いてメイドさんを見ると、彼女は「ふふ」と笑う。
「ヒビキさまのお召し物は、すべてルードさまがお作りになられているのですよ」
「えっ!?」
初耳だ。っていうか、どうやって作っているんだ!? そしていつ作っていたんだ!? 驚いて思わず上着とチュニックを見る。どう見ても手作りには見えないんだけど……。
……そしてクローゼットのチュニックの数を思い出してさらに首を傾げる。あれだけの数を用意するのはかなり時間が掛かるのでは……?
「愛しい人に手作りの物を着せる。この国の伝統です」
「……それが、伝統?」
「ええ。もっともこの伝統は同性同士の伝統ですが」
おれはホットレモネードを一口飲んでほっと息を吐いた。思っていた以上に冷えていたようだ。内側からじんわりと温まっていく感覚。
「どうしてそれが伝統に?」
「わかりやすいから――でしょうか」
「わかりやすい?」
「ちょっと失礼しますね」
すっとメイドさんが上着の袖を捲る。裏地に刺繍がされていた。花? なんだろうか。
「この刺繍がヒビキさまの服にはすべて入っているはずです」
「すべて!?」
刺繍ってやったことないけど、結構時間掛かりそう。それをあの服全部に? 一体どれだけの時間を掛けてやったのだろう。……それに、おかしいだろう。おれとルードが会ったのはつい最近だ。
「……なんで、ルードは……」
ぽつりと溢れた言葉を拾ったのはじいやさんだった。彼は困ったように少し眉を下げておれの肩をぽんと叩く。
「我々も坊ちゃんの口からなにも言われてはおりません。ですが、坊ちゃんがヒビキさまのことを待っていらしたとは思うのです」
「おれを待っていた……?」
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