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1章:十八禁BLゲームの中に迷い込みました!

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 それからはただ、絵本を読むのに集中した。わからないところはルードに聞けばその都度教えてくれて、なんとか最後まで読むことが出来た。昨日読んだのはこの国の歴史だったけど、今回は物語だった。シンデレラとか白雪姫とか、そういう系の。
 王子さまとお姫さまのラブストーリーはなんだか心が和む。ハッピーエンドだったから余計にそう思うのかもしれないけれど。

「……ん?」
「ヒビキ、なにかわからないところがあったか?」
「あ、いいえ。ただ、この国の文字ってどこでも使えるのかなって」
「言葉と文字はどの国も共通だったはずだが……」
「へぇ……便利ですね」

 世界共通語なのか。おれは文字をじっと見つめて静かに息を吐いた。すらすら読めるようになるまで時間がかかりそうだ。ルードはおれの頭に手を置いて髪を梳く。苦々しい表情をしていたのが気になったのかもしれない。

「ゆっくり学んでいけばいい。時間はたっぷりあるのだから」
「……そうですね」

 ともかく文字の読み書きをマスターしないと本を調べることも出来ない。帰りたいか、と聞かれると帰りたいとは思うけれども、この場所が居心地良すぎて帰り難いとも思ってしまう。そう、居心地が良すぎるんだ、ルードの屋敷って。これだけ良い待遇をされているのだから、当たり前と言えば当たり前なんだけど……。

「ああ、それから伝えなくてはいけないことがあった」
「なんでしょうか」
「私は明日から一週間、遠征に向かう。いい子で待っているんだよ?」
「遠征!? 明日から!?」

 あまりにも唐突すぎて思わず大きい声を出してしまった。そして腰の痛みが割と引いていることにもびっくりした。驚いて腰を摩ると、ルードは「薬が効いたようだね」とおれの腰に視線を向ける。薬なんて飲んだっけ?
 ……えーと、あ、もしかしてスープの中に溶かしてあったのか!? え、でも全然苦くなかったぞ……!? ああもうこの世界全然わからない!

「隣街でちょっとした式典があってね。それの護衛なんだ」
「式典?」
「ああ……、出来るなら、行きたくはないのだが……」
「仕事でしょう……」

 おれが肩をすくめるとルードはおれを抱き寄せて首筋に額を押し付けるようにすると、はぁ、と小さく息を吐いた。本当に行くの嫌なんだな……。ルードがここまでイヤがる仕事なんだろうか?

「せっかくヒビキを抱けたのに、すぐに離れてしまうなんて……」
「それが理由!? いや、ちょっと前から思っていたけれど、ルードはなんでそこまでおれを、えーっと、大事にしてくれているんですか……?」

 後半の言葉が小さくなっていく。仕方ない、自分で言いながら恥ずかしい。ルードは首筋から顔を離して、きょとんと目を丸くした。イケメンがこんな表情するのは中々に新鮮だ。それから、眉を下げて、おれの額に自分の額をこつんと当てた。

「今はまだ、ヒビキが知る時期ではない」

 ルードは優しくそう言う。知る時期ではないってどういうことだろう? おれが眉間に皺を刻むと、ちゅっとそこに唇が落とされた。そう言えば、唇以外の場所にはキスされる。なぜか唇には触れない。――いや待て、おれ。それじゃあなんか、唇にキスして欲しいって思っているみたいじゃないか!

「ヒビキ?」
「な、なんでも、ないです!」

 どもってしまった。彼の空色の瞳が不思議そうにおれを見ている。だって、さぁ……。キスして欲しいと思うなんて、それじゃあまるでおれが、ルードに恋をしているみたいじゃないか――……?
 いや、うん、ない。ないよな!?
 そりゃあ好きか嫌いか聞かれたら嫌いではないと思う。そもそも嫌いだったら触れられるのもイヤだろうし……。
 ますます不思議そうにルードがおれを見る。その瞳はすごく優しくて、愛しさを隠していない。自惚れかもしれないけれど。
 おれは数回深呼吸を繰り返して、話題を変えようとあちこち視線を泳がせた。

「あ、そ、そうだ。この国のカレンダーはありますか!?」
「あるぞ。これだ」

 卓上カレンダーを手渡され、視線を落とす。どうやらカレンダーは元の世界と変わらないようだ。ってことは、この日にこの世界に来て……四日目だからこれが今日の日付か。土日の概念もあるみたいだな。今日日曜日でルードの仕事が休み。

「ルードの休みは定休なんですか?」
「いや? 聖騎士団に定休はない。その代わりたまに纏まった休みが取れるんだ。……まぁ、休みといっても書類は目を通すが」
「休みとは一体」

 ルードが仕事しすぎているのか、それともこれがこの世界の標準なのか。ま、まぁ、世界が違えば色々違うこともあるよな……。

「そう言えば、ルードの誕生日はいつですか?」
「私の? 私は四月二十二日生まれだ。ヒビキは?」
「来月の十三日」
「ふむ」

 おれは卓上カレンダーをルードに戻すと、ルードはナイトテーブルの引き出しからペンを取り出して一枚めくり、十三日になにかを書き込んだ。おれの誕生日を書いたんだろうか。それにしても四月二十二日がルードの誕生日なのか。もう過ぎてしまってるんだな。

「来月の十三日は休みを取ることにしよう」
「え?」
「ヒビキの誕生日だ、盛大に祝わなければな」
「ええっ」

 ウキウキとした表情を浮かべるルードに、おれはなにも言えなかった。あと一ヶ月くらいだけど、その時おれはこの世界に居るんだろうか……。
 なんて、そんなことを考えていても仕方ない。とにかく今は文字を覚えて、調べたいことをきちんと調べられるようにしなければ。

「誕生日、ヒビキの居たところではどうやって祝うんだ?」
「え? えーっと、ご馳走やケーキ食べたり、プレゼントをもらったりしてました」
「なるほど、ならば私からもなにか物を贈るとしよう」

 なにがいいだろうか、と口元に指を掛けて考えるルードの姿を見つつ、おれは持ってきてもらった本の二冊目の表紙をぱらりとめくる。文字を読みすすめて行くうちに、うとうとしてそのまま寝落ちてしまった……。
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