【本編完結】十八禁BLゲームの中に迷い込んだら、攻略キャラのひとりに溺愛されました! ~連載版!~

海里

文字の大きさ
上 下
6 / 222
1章:十八禁BLゲームの中に迷い込みました!

5

しおりを挟む

 翌朝――いや、昼だ。どう見ても朝はとっくの昔に過ぎ去っている。だって太陽があんなにも高いところにある……。
 っていうか、おれはまた意識を失ったのか! 昨日のことを思い出してベッドに潜り込んで悶えていると、扉がノックされた。

「うわ、はいっ!」
「ヒビキさま、昼食の用意が出来ていますが、食べられますか?」

 部屋へは入らずに扉の外から声を掛けられる。おれは「いただきますっ」とベッドの上から返事をした。
 いつまでもベッドの上にはいられない。そろそろと降りて昨日と同じようにクローゼットの中から服を選んで着替える。そう言えば、昨日も今日も躰がベタベタしていないな……なんて、今更なことを思った。
 ――っていうか、やっぱりチュニックなんだな、おれの服装は。そして下着がないからスースーするのも昨日と同じだ。

「では、食堂でお待ちしております」
「はいっ!」

 今日はじいやさんじゃないんだな、と考えながらも姿見の前で髪を適当に整えてから部屋を出る。昨日連れて行ってもらった食堂まで、なんとか迷わずに行けた。メイドさんに「こちらの席へどうぞ」と案内された場所に座るとすぐに食事が出てきた。
 手を合わせていただきます、と呟いてからナイフとフォークを手に取る。昨日教えてもらった通りに使うことが出来た。
 まだちょっとぎこちないけど! それは仕方ないよな、うん。
 しっかりと味わって、食器を下げるメイドさんにじいやさんのことを聞くと、彼は今日ルードの指示で街まで行っているらしい。

「ヒビキさま、午後のご予定は?」
「あ、えっと。書庫で文字の練習をしても良いですか?」
「もちろんです。では、僭越ですが私がお教えしても?」
「え、いいんですか!?」
「はい」

 にこりと微笑む推定二十代前半の女性に、ちょっとだけ胸が高鳴った。キレイな人を見るのはいいことだ。キレイって言うなら、ルードもキレイだけど、イケメンと美女は違う部類だし!
 メイドさんは食器を下げるとおれを書庫まで連れて行ってくれた。それから昨日どのように文字を習ったのかを伝えると、メイドさんは文字を覚えるのにはこういう本を読むのもいいですよ、と絵本っぽいものを持ってきてくれた。

「これは?」
「我が国の歴史を絵本にしたもの、ですね。絵本なのでちょっと大雑把なのですが、大体は合っているので、文字を覚えるのには向いていると思います」
「ありがとうございます。がんばって読んでみます」

 メイドさんは「はい」とにこやかに返事をすると、おれから少し離れたところに立って、おれが本を読むことを促した。表紙をめくって、文字を見てみる。確かに昨日習った文字ばかりだ。
 この国の成り立ちがわかる絵本のようだ。
 えーっと……?
 それからずっとその絵本を解読するのに時間を使った。時折わからない単語が出てきて、その度にメイドさんに教えてもらった。
 要するに、この国はずーっと昔に精霊と契約して、精霊の願いを叶える代わりに結界で魔物から守ってもらっている、って内容だった。
 初代の陛下が精霊王と契約を交わし、その契約の内容が森から魔物を減らすこと。だから聖騎士団が出来た。

「……どうされましたか?」
「……いや、えっと、ルードの職業って……」
「あら、ご存知ではなかったのですか? ルードさまの職業」

 こくり、とうなずくと彼女の目が丸くなる。そういや全然そう言う話をしていない。
 いや、勝手に知っているけどね! 姉のせいで!
 直接聞いたわけではないから、おれが知っていたらおかしい情報だろうし、後でちゃんと聞いておこう。
 メイドさんはなにを思ったのか両手を頬に添えてポッと赤らめた。

「お話をする体力もなくなるくらい求められているのですね」
「……!? げほっ」

 唾が変なところに入った! げほごほと咳をすると、慌てたようにメイドさんがおれの背中をさする。少し落ち着いたところで、おれは恐る恐る尋ねた。

「ルードって、一体おれのことをなんて……?」
「慣れない行為で疲れているだろうから、馴染むまで待っていて欲しい、と」
「…………色々居た堪れない!」

 机に突っ伏すと、メイドさんはクスクスと鈴を転がすように笑う。

「大丈夫ですよ、この国――いえ、この世界では珍しいことではないですから」
「なにがどう大丈夫なんですか……」
「男同士でも女同士でも、男女であったって、愛の形は様々ですから」

 ちなみに私の恋人は女性ですよ、とウインクされた。ちょっと待て、ここBLゲームの中だよな。百合要素もあったのかこのゲーム。我が姉ながらなんてゲームをしているんだ……!

「それに、今はアデルさまもいらっしゃいますしね」
「――アデル?」
「ええ、確か数ヶ月前にこの国にいらしたんです。金髪碧眼の美少年。ご存知ですか?」
「……ルードと会った時に、少しだけ話しました」
「まぁ、そうだったんですね。彼、すごいんですよ。小国の殿下なんですけど、その美貌で次々に男性を落としていって、アデル親衛隊みたいなものまで出来ているんですって」

 アデル親衛隊……。一体どんなものなんだろう。ちょっと気になるようなならないような。っていうか、総受け主人公って聞いていたけど……。そこまで男を落としていってどうするんだ、ハーレムでも作るのか。男が、男のハーレムを作ってどうするんだ。
 この場合なにハーレムになるんだろう……。男しかいないハーレム……。

「ルードさまにも声を掛けていたんですね……。最近ルードさまがやたら早く帰ってくるのは、アデルさまに会いたくないからかもしれません」
「あー、なんか、ルードはアデルのことあんまり好きじゃないみたい……?」

 そうじゃなきゃあんなに冷たい声を出せないだろう。メイドさんはおれの言葉に「やっぱりですか」と声を返した。どういう意味だろうと首を傾げると同時に、書庫の扉がノックされた。

「はい」

 メイドさんが答えて、扉を開ける。昨日と多分、同じくらいの時間だ。ってことは扉の外に居るのはやっぱり――うん、ルードだった。

「おかえりなさいませ、ルードさま」
「おかえりなさい、ルード」
「……ああ、ただいま」
「では、私はこれで失礼します」

 ぺこりと頭を下げてメイドさんは書庫から出て行った。そう言えば、昨日と違いルードが「ただいま」と口にしたことに気付いて、おれはじっと彼を見る。

「私の顔になにかついているか?」

 緩やかに首を横に振る。ルードは首を傾げた。それからおれの近くまで来て、読んでいた本に視線を落として「懐かしい」と微笑む。

「ルードも読んだことが?」
「子どもの頃にな。ざっくりとした内容の絵本だ」

 ……否定はしない。確かにざっくりとした内容だったし。あ、そうだ。ちゃんと聞こうと思っていたことを言葉にしなくては!

「ルード」
「なんだい、ヒビキ」
「おれ、もう少しルードのことが詳しく知りたいです」

 彼の空色の瞳を見ながら、はっきりと口にすると、ルードは一瞬目を瞠る。それから心底嬉しそうに口角を上げた。ルードはおれの隣に座り、優しく声を掛ける。

「なにが知りたい?」
「えーっと、じゃあまず、職業!」
「聖騎士団、一番隊隊長だ」

 姉から聞いた職業と同じだな、聖騎士団までは。でも、一番隊隊長って、偉い人ってことだよな……!?

「一番隊隊長って、どういう仕事なんですか?」
「まぁ、簡単に言えば魔物退治で先頭に立つ仕事だな」
「後方支援部隊もあるんです?」
「ああ、魔法だったり弓だったり」

 そうなのか……。姉が興奮気味に言っていたのはどんな内容だったっけ。

『スチルで魔物退治の時の聖騎士団があるんだけどね! ルードのいつも纏められている髪が舞ってすっごい綺麗なの! でもギラギラと闘志が宿った目をしていてね! めっちゃ格好いいの!!』

 ――って言っていたような。おれはルードの髪に手を伸ばして触れてみる。サラサラとした髪がおれの手から滑り落ちていった。

「危険な仕事なんですね」
「魔物が出なければ書類に追われるだけだ」
「……それもそれで大変なのでは……」

 書類に追われるって、おれだと課題に追われてるようなもんか?

「そう言えばおれ、ルードの年齢も知らない」
「気になるか?」
「そりゃあ、まぁ」
「二十三だが」
「……二十三歳で一番隊隊長!?」

 どういう基準で選ばれているのかわからないけれど、それはすごく早くないか!?

「ああ、それはただ単に私が貴族だからだな」
「貴族だから、一番隊隊長?」

 ええ、どうなってるのこの世界。全然わからない……。成人しているとは思っていたけれど、ルードは二十三歳だったのか。年齢までは姉も言ってなかったもんな。
 ……この世界では未成年に手を出していいんだろうか。

「ヒビキの年齢は?」
「十五歳です」
「……十五?」

 首を縦に振る。そんなに意外な年齢だったんだろうか。ルードはなにかを考えるように顎に指を掛けて「ふむ」と呟いた。そしてすぐにおれの頬に手を添えてじーっとおれを見る。な、なんだ……?

「……あ、の?」
「いや、なんでもない」
「……さっきチラッと聞いたんですけど、おれが前に会った金髪碧眼の少年――」
「……アデルのことか?」
「彼の年齢はいくつですか?」

 おれと変わらないくらいの年齢だと思うけど、念のため。

「知らん」
「えっ?」
「アデルと会話することなどないからな。ヒビキはアデルが気になるのか?」
「むしろルードがアデルにそこまで興味がないほうに驚いています」
「私が? なぜ?」

 だってルードルートでは後半めっちゃ甘いらしいし。もちろんこれも姉の感想だ。
 最初は邪魔者扱いするのに、親睦を深めるうちにどんどんどんどんデロデロに甘やかすようになる、らしい。
 ――最初から甘やかされているような気がするおれは、一体ルードの中でどの位置に居るんだろうか。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

異世界で騎士団寮長になりまして

円山ゆに
BL
⭐︎ 書籍発売‼︎2023年1月16日頃から順次出荷予定⭐︎溺愛系異世界ファンタジーB L⭐︎ 天涯孤独の20歳、蒼太(そうた)は大の貧乏で節約の鬼。ある日、転がる500円玉を追いかけて迷い込んだ先は異世界・ライン王国だった。 王立第二騎士団団長レオナードと副団長のリアに助けられた蒼太は、彼らの提案で騎士団寮の寮長として雇われることに。 異世界で一から節約生活をしようと意気込む蒼太だったが、なんと寮長は騎士団団長と婚姻関係を結ぶ決まりがあるという。さらにレオナードとリアは同じ一人を生涯の伴侶とする契りを結んでいた。 「つ、つまり僕は二人と結婚するってこと?」 「「そういうこと」」 グイグイ迫ってくる二人のイケメン騎士に振り回されながらも寮長の仕事をこなす蒼太だったが、次第に二人に惹かれていく。 一方、王国の首都では不穏な空気が流れていた。 やがて明かされる寮長のもう一つの役割と、蒼太が異世界にきた理由とは。 二人の騎士に溺愛される節約男子の異世界ファンタジーB Lです!

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話

gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、 立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。 タイトルそのままですみません。

異世界に転移したら運命の人の膝の上でした!

鳴海
BL
ある日、異世界に転移した天音(あまね)は、そこでハインツという名のカイネルシア帝国の皇帝に出会った。 この世界では異世界転移者は”界渡り人”と呼ばれる神からの預かり子で、界渡り人の幸せがこの国の繁栄に大きく関与すると言われている。 界渡り人に幸せになってもらいたいハインツのおかげで離宮に住むことになった天音は、日本にいた頃の何倍も贅沢な暮らしをさせてもらえることになった。 そんな天音がやっと異世界での生活に慣れた頃、なぜか危険な目に遭い始めて……。

異世界で王子様な先輩に溺愛されちゃってます

野良猫のらん
BL
手違いで異世界に召喚されてしまったマコトは、元の世界に戻ることもできず異世界で就職した。 得た職は冒険者ギルドの職員だった。 金髪翠眼でチャラい先輩フェリックスに苦手意識を抱くが、元の世界でマコトを散々に扱ったブラック企業の上司とは違い、彼は優しく接してくれた。 マコトはフェリックスを先輩と呼び慕うようになり、お昼を食べるにも何をするにも一緒に行動するようになった。 夜はオススメの飲食店を紹介してもらって一緒に食べにいき、お祭りにも一緒にいき、秋になったらハイキングを……ってあれ、これデートじゃない!? しかもしかも先輩は、実は王子様で……。 以前投稿した『冒険者ギルドで働いてたら親切な先輩に恋しちゃいました』の長編バージョンです。

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる

彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。 国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。 王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。 (誤字脱字報告は不要)

大魔法使いに生まれ変わったので森に引きこもります

かとらり。
BL
 前世でやっていたRPGの中ボスの大魔法使いに生まれ変わった僕。  勇者に倒されるのは嫌なので、大人しくアイテムを渡して帰ってもらい、塔に引きこもってセカンドライフを楽しむことにした。  風の噂で勇者が魔王を倒したことを聞いて安心していたら、森の中に小さな男の子が転がり込んでくる。  どうやらその子どもは勇者の子供らしく…

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

処理中です...