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ライバル同士の決闘
しおりを挟む「君が、リンゼン=ユウナギ=ウォルトバッハ君ですね?」
また来た。
ウォルトバッハという名に釣られ、擦り寄ってくる者達。
夕凪 凛然から、リンゼン=ユウナギ=ウォルトバッハという名前に変わっただけで、掌を返すように取り巻く環境も一転した。
鬱陶しいと思いながら、声のした方へ視線を向けると、信じられないほど美しい男がいた。
肩で切りそろえられた銀髪に星が散りばめられたようなオパール色の瞳。人形のような完璧な顔立ちだが柔らかい微笑みを浮かべていて冷たく感じない。
一瞬目が奪われてしまった。しかも何なんだ。周りに聞こえないようにする為だろうが、いちいち耳に囁くな。
耐えるようにじっと窓を見続ける。
「君と私、どちらが強いのか、勝負しましょう」
パッと顔を向ける。
美しい男は目をきらりと光らせ、不敵な笑みを浮かべていた。勝負と言われ己の血が騒ぐ。
物心ついたときからジジイに拾われるまで、ずっと戦いの中で生きてきたのだ。
「要求を考えておいて下さいね」
負ける気など毛頭ない。普通の生活をしろとジジイに言われて学院に入ってから、味気なかった毎日だったが、これからは楽しくなりそうだと思った。
胸がジワジワと内側から燃えるようだった。
◇
───放課後
「ちゃんと来ましたね」
「当たり前だ」
裏庭には、ひと足早くシヴァンが待ち構えていた。
「二丁拳銃か。」
「ええ。そちらは刀ですね。」
「ああ」
この国では、刀は珍しい。シヴァンは刀を興味深そうに見やった。
「お互い手加減は一切なしです。勝敗はどちらかが倒れるまで。」
「望むところだ。」
もう、戦いは始まっていた。お互い距離を取りながら相手の出方を伺っている。
使う武器によって自ずと間合いがわかってくるのだ。魔法銃は中遠距離で優位に働くし、魔法刀は近接に特化した武器のため、今の距離ではリンゼンが不利と言えよう。
───でも俺には関係ない。
黒い翼を広げ、一気に間合いを詰める。
黒羽族の移動速度は、普通の人間では目視で追えないほど早い。
『取った』
そのまま素早く刀身を抜くと、勢いに任せて振り切った。
しかし確実に間合いに相手を捉えたはずが、刀は空振りを切った。
「幻影か」
全く分からなかった。エルフ族は魔法に長けているというが、それでもシヴァンの実力は本物だろう。
「っ!」
身の危険を感じ、体を翻してその場を離れる。
ギリギリで交したが、服の裾が焦げて無くなっていた。
ギョッとして振り返ると、リンゼンが立っていた一面のグラウンドの砂が、炎で黒く焼き焦げていた。
「おや、外しましたか。」
遥か遠くにシヴァンの輪郭が見える。
「おいおい、あの距離から当ててくんのかよ」
エルフの視力がずば抜けているのは有名だ。
さらにこの正確性は、魔法の威力だけではなく魔力制御にも長けているとわかる。
───化け物かよ
呆れている間もなく、間髪入れずにまた銃弾の嵐が飛んでくる。座標を特定しようにも頻繁に転移するせいか、弾幕を躱すことしか出来ない。
全くイかれた魔力量と精度だ。
「くそっ、ちょこまかとめんどくせぇ」
いくつか銃弾が掠り出血している。頬から流れる血を舐めると、リンゼンが楽しげに口角を上げた。
黒く大きな翼を翻すと、一気に空へ上昇する。
黒羽族が最もその能力を発揮するのは、空だ。
「はあ?」
それでも正確に銃弾が飛んでくる。
かなり上昇したはずだが、まだ見えるのかよ。
ほんと、おもしれえ。
リンゼンは急下降しながら、空中で魔法刀を振りかざす。
大きなかまいたちが空から降り注ぎ、どんどんグラウンドを削っていく。
シヴァンは自ずと移動できる範囲が狭まり、着実にリンゼンの間合いに持って行かれていた。
お互いがお互いをしっかり捉えていた。リンゼンは速度を緩めず、シヴァンに向かって急降下した。
◇
「「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、」」
息を吐く音だけが聞こえる。
2人は地面に覆い被さるようにして倒れ伏していた。
正しくは、シヴァンは下からリンゼンの額に銃口をあて、リンゼンは跨るように首の脇に剣を突き立てていた。
互いに瞳孔が開き、ギラギラと睨み合っている。
「この勝負は───」
「俺の勝ちだ」
「は?!私でしょう!」
「あ゛?」
「貴方の剣が私の首をはねるより、私が引き金を引く方が早い」
「いや俺の方が早い」
「いや私です」
「お前...!」
「まだやる気ですか?」
シヴァンの目がスっと細められる。その表情に心臓が激しく動き、また血が騒ぎ始める。
「上等だ」
リンゼンが発するより早くお互いが武器を捨て、取っ組み合いの喧嘩を始めた。お互いを組み敷こうと上下がゴロゴロと入れ替わり砂まみれになる。
しかし、なかなか決着のつかない勝負は突然の終わりを迎えた。
リンゼンがシヴァンを組み敷いた時、ガクンと意識を失い覆いかぶさった。
「こら!!いい加減にしろクソガキ共!!」
雷に打たれたような衝撃の拳骨がリンゼンの頭に降り、気絶したのだった。
「全く、駆けつけてみればこれはなんだ」
将軍の問いかけに、教師が咽び泣きながら説明する。
「ウォ、ウォルトバッハ将軍!!!あああありがとうございますううう!!!!!うっうっうぅ、、、。
どうも、ヴァイツェンノルト君が、ウォルトバッハ君に決闘を申し込んだようで、わ、我々ではとても止められず、将軍に応援を要請する他無かったのです!!ありがとうございます!ありがとうございます!!!」
教師陣が万歳三唱をしている。
少し大袈裟とも思えなくはないが、確かに2人が戦った裏庭跡地は、それは酷い惨状だった。
そんな状況とは裏腹に当人は安らかな表情で眠っている。
「ガッハッハッ!!!シヴァン、まさか体で教育するとは!!!」
「これが一番効果的な方法だと判断したまでです。」
「嘘つけ。こいつと戦いたかっただけだろう、瞳孔が開いてるぞ。」
「……」
「はぁ、まあいい。
2人は一旦俺の館で預かろう、持っていくぞ」
「よ、よろしくお願いいたします!!!」
将軍はリンゼンを肩に担ぐと、シヴァンに声掛けする。
「シヴァン、お前も来い」
「……」
「そうむくれるな。それとも運んでやろうか?」
「結構です!!」
「ガッハッハッ、全く、可愛くねえ奴だな!」
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