喧嘩するほどお前がいい

白河夜船

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犬猿の仲

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───ドカンッ!!

 第三騎士団長室の扉が勢いよく蹴破られる。
 

「また貴方ですか!!!」


 デスクにドンっと請求書の山が盛られる。
 

「器物破損は今月で何回目です!!問題ばかり起こして。はっ、これだから野蛮な集団は。」

「は?今月は5回くらいだろ。こっちは実戦を想定して訓練してんだ。大体この建物が脆いんだよ。」

「月に5回も建物を半壊させているのが問題でしょう!一体いくら修繕費がかかると!!国庫は無限じゃないんですよ?!!」

「ったく、ちくちく細けぇんだよ。まあ宰相補佐殿のそのお堅い石頭では、訓練の重要性がわからないだろうがな。」

「ほう?私に楯突くとは。これ以上経費を削られて困るのは貴方がたでは?」
「クソっ、とことん性根が腐ってるな。」


───ああ、またか。
 

 第三騎士団長室に控える補佐官や騎士団員達は、見慣れた光景に溜息を吐いた。


 1人は、シヴァン=フォン=ヴァイツェンノルト様。

 長い銀髪に、エルフ族特有の長い耳とオパールのような瞳を持つ麗人だ。

 由緒正しき侯爵家の出で、若干25歳にして宰相補佐の任に着いている。既にかなりの切れ者だという噂は絶えない。


 対して、我らがリンゼン=ユウナギ=ウォルトバッハ第三騎士団長。

 ウォルトバッハ総騎士団長の養子にして、実力は騎士団1といわれ、こちらも若干25歳で実戦の多い第三騎士団長職を務める。

 短い黒髪に夕焼け色の切れ長な目を持ち、纏う空気は刀のように鋭い。黒羽族特有の戦闘に長けた俊敏性と身体能力で敵を圧倒する姿は、騎士団の憧れの的だ。
 

「おい、ツラ貸せ」
「ふん、望むところです。」


 2人が部屋を退出する。

 犬猿の仲で有名な2人だ。きっとどこか邪魔の入らないところで罵りあいの喧嘩を繰り広げるのだろう。


「はぁ、いい加減素直にならないですかね~」

「難しいだろう。学生時代から2人の不仲は有名だからな」

「全く、団長の恋も報われませんね」

「「「全くだ」」」



 
 ◇

 


───部下たちが呆れ返っている頃。

 空き部屋に入った2人は……。
 

 
 ……めちゃくちゃセックスしていた。

 
「あっ、あんっ、あっ、あぁっ、はげ、しぃ!」

「シヴァン、はぁ、気持ちい、イク、イク!」

「んんっ、ああぁぁぁぁっ、!!!」

「クっ、、はぁ、はぁ、シヴァン、」

「ぁっ、、リン、、ゼン、、んっ」


 同時に達した2人は見つめ合いながら、舌を絡め合う濃厚なキスをし、正常位のまま指を絡ませ合う。

 そのままシヴァンはリンゼンを見上げ、ニンマリと笑った。


「では交代してください」


 それに対し、リンゼンは上から甘く微笑む。
 

「まだ足りない」

「はぁ?ちょっと話が、ァ、あぁ!このっ止まれ!ああああぁぁっ!」


 犬猿の仲で有名な2人は、
 実は超ラブラブケンカップルだった。

 
 そんな2人の出会いはちょうど10年前の学生時代まで遡る。
  
 


 ◇

 


 ヴァイスヴァルト魔法学院に首席入学したシヴァンは、筆記実技共に満点という歴代最高点を叩きだし、学院の注目の的であった。

 しかしもう1人、自分の他に実技満点を出しながら、最下位クラスに所属している馬鹿がいた。
 

 リンゼン=ユウナギ=ウォルトバッハだ。

 
 国の重鎮で総騎士団長であるウォルトバッハ将軍の養子でありながら、ろくに授業に出ないらしい。

 ここ1ヶ月誰とも口を聞かず、教師の言葉にも耳をかさない問題児だが、毎日遅刻もせず登校だけはする。


 そんなちぐはぐな噂は、すぐにシヴァンの耳に届いた。


 自分以外に実技で満点をとる同級生が気になっていたし、ライバル視もしていた。

 しかし、シヴァンはSクラス、あちらはEクラスと学級も異なるし、特に関わることもないだろうと思っていたのだが……。

 

 シヴァンは、Eクラスへと続く廊下を歩く。
 

 主席で歴史のある侯爵家の出、さらに教師からの信頼も厚いことから、方に問題児の世話係を任されたのだ。
 

 Eクラスからちょうど出てきた男子生徒に声をかける。
 

「失礼、少しいいですか?」

 
 シヴァンは有名人だ。ギリギリで入学したEクラスの生徒にとって関わることもないと思っていた天上の人に突然話しかけられてしまった。

 さらに眼前には、エルフの美貌を誇る端正な顔が、微笑みを浮かべている。昇天してしまいそうになりながら瓶底メガネの男子生徒は、顔を真っ赤にして何とか答えた。
 

「は、はい!!も、勿論でふ!!」

「ありがとう。リンゼン=ユウナギ=ウォルトバッハ君は教室にいますか」

「うぉ、ウォルトバッハですか?!」
 

 戸惑った反応を見せるが、シヴァンから問題児の名が出て珍しかったのだろう。
 

「い、いますけど……」

「どの生徒です?」

「あの窓際の1番後ろの席です。で、でも、彼は誰が話しかけても答えないことで有名ですよ?」

「…忠告ありがとう」

「い、いえ!!」
 

 シヴァンは一瞬片眉をあげたが、すぐに微笑んだ。さらに真っ赤になる男子生徒を尻目に真っ直ぐ席へ向かう。


 彼は、気怠げに肘をついて窓の外を眺めていた。

 
「君がリンゼン=ユウナギ=ウォルトバッハ君ですね?」
 

 努めてにこやかに話しかけると、視線だけこちらに向けた。一瞬目を見張ったが、また窓に視線を戻してしまった。
 

「初めまして、私はシヴァン=フォン=ヴァイツェンノルトです。今日から君の教育係を任命されましたのでよろしく。」
 

「───は?」
 

「君は、実技で素晴らしい成績を残しながらも、筆記試験では無記名だったそうですね?さらに入学早々授業もサボりがちだと問題になっているのですよ。」
 

「知るか、俺には必要ない」
 

「困りました。にどうしても、と頼まれたのですが、残念です。将軍のご依頼を断らねばなりません。」
 

「チッ、あのジジイ余計なことを」
 

 総騎士団長をあのジジイ呼ばわりとは。
 

「私も1度引き受けてしまった事です。そう簡単には引けません。ですから、こうしましょう。」
 

「この学院で、実技満点者は君と私だけなのですよ。」
 

 窓に視線を向けたままのリンゼンの耳元に囁く。


「君と私、どちらが強いのか、勝負しましょう」
 

 視線がかち合う。
 

「私が勝てば教育係の私に従ってもらいます。
 ですが君が勝てば君の要求通りにしましょう。
 お望みでしたら今後一切学院で君に関わらないとお約束しますよ?」
 

 リンゼンの目に闘志が燃える。
 シヴァンは、そう来なければと口角を上げた。
 

「...良いだろう」

 
 周りに聞こえぬよう耳元に囁く。

 
「では放課後裏庭にて。それまでに要求を考えてお
いて下さいね」
 

 リンゼンに背を向け教室を出る。


 もっと苦労するかと思ったが、何だ結構話すじゃないか。

 黒髪から覗くギラギラとした鋭い目つきを思い出しゾクゾクする。放課後が楽しみで、目を細めた。

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