虐げられた黒髪令嬢は国を滅ぼすことに決めましたとさ

くわっと

文字の大きさ
上 下
109 / 121
終章

107.終わりに向けて

しおりを挟む
神さまの意向が伴っているどうか不明な錫杖が、私の頭蓋を破ることはありませんでした。
触れることもなく。

「この……悪魔……っがぁ」

ばたり、と。
からん、と。
彼は錫杖を自らの手から落とし、自身も地面に倒れ伏せました。

「お疲れ様でした」

私は彼に食らいついている犬さん達に言いました。
喉、
右足、
左手、
脇腹。
それぞれに犬さんの鋭い牙が食い込んでいます。
死亡を確認する必要もなく、彼に動き出す気配はありません。
ただの肉の塊です。

文字通り、彼の屍を踏み越えつつ、周囲を確認します。
動いている人の形は、最早ありません。
動くことのない、人の形は多数ありましたが。

だけれども、その多くは人の形、と表現するのは適切ではないのかもしれません。
だって、食べられる部分は、彼らの胃袋の中に収納されてしまったのですから。
美味しかったかどうかは、分かりませんが。

さて、これでひとまず私の安全は整いました。
あくまで、一時の、という限定ですが。
犬さん以外の動物さんたちは、闘争と食事を終えるとどこかへと足を進めていきました。
山の方へ行くもの、
川の方へ行くもの、
平地をひた歩くもの。
それぞれがそれぞの本能に従って、自分の未来へと歩んでいきました。
ーーこういうと、ほんの少し、格好いいですね。
ただ、自身のいるべき場所、あるいはかつて生きていた場所に戻っただけですけれど。

では、私はどうしましょう。
こうして、マーテルロ家の戦力にして財産である動物さん達を全て解放してしまいました。
屋敷も街もめちゃくちゃです。
朽ちかけた街が、朽ち果ててしまいました。
戻るべき場所は、ありません。

「ぐるぅぅぅう」

犬さんが私に額を擦り付けてきます。
優しく、敵意はありません。
もふもふの感触が、私の心を和ませす。

「そう、ですね」

私は呟くように、何かを悟ったような言葉を言いました。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

【完結】護衛騎士と令嬢の恋物語は美しい・・・傍から見ている分には

月白ヤトヒコ
恋愛
没落寸前の伯爵令嬢が、成金商人に金で買われるように望まぬ婚約させられ、悲嘆に暮れていたとき、商人が雇った護衛騎士と許されない恋に落ちた。 令嬢は屋敷のみんなに応援され、ある日恋する護衛騎士がさる高位貴族の息子だと判明した。 愛で結ばれた令嬢と護衛騎士は、商人に婚約を解消してほしいと告げ―――― 婚約は解消となった。 物語のような展開。されど、物語のようにめでたしめでたしとはならなかった話。 視点は、成金の商人視点。 設定はふわっと。

いつの間にかの王太子妃候補

しろねこ。
恋愛
婚約者のいる王太子に恋をしてしまった。 遠くから見つめるだけ――それだけで良かったのに。 王太子の従者から渡されたのは、彼とのやり取りを行うための通信石。 「エリック様があなたとの意見交換をしたいそうです。誤解なさらずに、これは成績上位者だけと渡されるものです。ですがこの事は内密に……」 話す内容は他国の情勢や文化についてなど勉強についてだ。 話せるだけで十分幸せだった。 それなのに、いつの間にか王太子妃候補に上がってる。 あれ? わたくしが王太子妃候補? 婚約者は? こちらで書かれているキャラは他作品でも出ています(*´ω`*) アナザーワールド的に見てもらえれば嬉しいです。 短編です、ハピエンです(強調) 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿してます。

完結 婚約破棄は都合が良すぎる戯言

音爽(ネソウ)
恋愛
王太子の心が離れたと気づいたのはいつだったか。 婚姻直前にも拘わらず、すっかり冷えた関係。いまでは王太子は堂々と愛人を侍らせていた。 愛人を側妃として置きたいと切望する、だがそれは継承権に抵触する事だと王に叱責され叶わない。 絶望した彼は「いっそのこと市井に下ってしまおうか」と思い悩む……

婚約破棄ですか?それは死ぬ覚悟あっての話ですか?

R.K.
恋愛
 結婚式まで数日という日──  それは、突然に起こった。 「婚約を破棄する」  急にそんなことを言われても困る。  そういった意味を込めて私は、 「それは、死ぬ覚悟があってのことなのかしら?」  相手を試すようにそう言った。 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆  この作品は登場人物の名前は出てきません。  短編の中の短編です。

悪女と呼ばれた王妃

アズやっこ
恋愛
私はこの国の王妃だった。悪女と呼ばれ処刑される。 処刑台へ向かうと先に処刑された私の幼馴染み、私の護衛騎士、私の従者達、胴体と頭が離れた状態で捨て置かれている。 まるで屑物のように足で蹴られぞんざいな扱いをされている。 私一人処刑すれば済む話なのに。 それでも仕方がないわね。私は心がない悪女、今までの行いの結果よね。 目の前には私の夫、この国の国王陛下が座っている。 私はただ、 貴方を愛して、貴方を護りたかっただけだったの。 貴方のこの国を、貴方の地位を、貴方の政務を…、 ただ護りたかっただけ…。 だから私は泣かない。悪女らしく最後は笑ってこの世を去るわ。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ ゆるい設定です。  ❈ 処刑エンドなのでバットエンドです。

令嬢だったディオンヌは溜め息をついて幼なじみの侯爵を見つめる

monaca
恋愛
大公爵と呼ばれていたブランドン家は滅びました。 母親は亡くなり、父親は行方知れず。 令嬢ディオンヌは、ライバルだった侯爵、ジョーデン家に引き取られました。 ひとりの使用人として。 ジョーデン家の嫡男ジョサイアは、ディオンヌの幼なじみです。 幼なじみの屋敷で働くこととなった彼女は、すっかり距離を置いて冷たい目で見下してくる彼のことを、憎みながら暮しました。 ブランドン家を陥れたのがジョーデン家だというのは、公然と語られる噂だったからです。 やがて、ジョサイアが当主となります。 先代の病死によって。 ジョサイアと、彼の婚約者であるエレノアは、ディオンヌに毒殺の嫌疑をかけました。 恨みと憎しみと……古い古い、結婚の約束。 今のふたりの間にあるのは、いったい何なのでしょう。 屋敷の廊下にある骨董品の仮面が、ディオンヌを見つめていました。 彼女の秘密を知っているとでも言わんばかりに。

婚約破棄、ありがとうございます

奈井
恋愛
小さい頃に婚約して10年がたち私たちはお互い16歳。来年、結婚する為の準備が着々と進む中、婚約破棄を言い渡されました。でも、私は安堵しております。嘘を突き通すのは辛いから。傷物になってしまったので、誰も寄って来ない事をこれ幸いに一生1人で、幼い恋心と一緒に過ごしてまいります。

モブ公爵令嬢は婚約破棄を抗えない

家紋武範
恋愛
公爵令嬢であるモブ・ギャラリーは、王太子クロード・フォーンより婚約破棄をされてしまった。 夜会の注目は一斉にモブ嬢へと向かうがモブ嬢には心当たりがない。 王太子の後ろに控えるのは美貌麗しいピンクブロンドの男爵令嬢。 モブ嬢は自分が陥れられたことに気づいた──。

処理中です...