90 / 121
四章 呪いと反乱
88.去り際のひと時
しおりを挟む
さて、改めてチャンドラさんの籠絡も完了したところで、次はサンプルの準備を考えないといけません。
言い方はあまり良くありませんが、これはある種の『人体実験』というやつなのです。
どの食べ物がどれくらい効果があるのか、
どのくらいの効果継続すればいいのか、
それを判断するためにはそれなりの数を用意する必要があります。
それは料理人さんであるチャンドラさんの領分ではありません。
料理人さんの仕事は、料理を作ること。
人を攫うことではありません。
適材適所、ということですね。
「では、私は別の用事があるのでこれにて失礼します。また時を見て伺いますので、その頃までに美味しく栄養のある料理、考えておいてくださいね」
私は彼に笑顔を振りまきつつ、一礼します。
そして、くるりと反転して背中を向けます。
状況を終了したならば、長居は必要ありません。
「あ、あのーー」
だけれど、チャンドラさんは違うようです。
私の背中に、たどたどしく声をかけました。
「どうされましたか?」
「い、いえ。大したことはないのです……ないのですが」
歯切れの悪い言葉で、彼は言葉を紡ぎます。
不器用で、不恰好な所作で、
それでして人の、ヒトモドキのような私の心にも触れるような所作でーー
「用がなくても、またいらしてくださると嬉しいです。自身にできることなんて、料理くらいしかありませんが、こうして貴女様とお話できる時間はとても楽しかったです」
「そう思っていただけたなら、重畳です」
「昔から、こうしてお話ができればと思っておりました」
その言葉に、私はどきりとしました。
どきりというか、なんというか。
表現が難しいのですが、体が硬直するのを感じました。
昔、から。
「あの頃、貴女様に何もしてあげることができませんでした。オルコット様ーー前のオルコット様に、虐められている時もただ見ていることしかできませんでした。せいぜい、届けられる料理の量や栄養や味を、周囲に悟られない程度で良くするのが限度でした」
彼は続けます。
私の言葉を待たずに。
ただ、自身の思いを続けます。
言い方はあまり良くありませんが、これはある種の『人体実験』というやつなのです。
どの食べ物がどれくらい効果があるのか、
どのくらいの効果継続すればいいのか、
それを判断するためにはそれなりの数を用意する必要があります。
それは料理人さんであるチャンドラさんの領分ではありません。
料理人さんの仕事は、料理を作ること。
人を攫うことではありません。
適材適所、ということですね。
「では、私は別の用事があるのでこれにて失礼します。また時を見て伺いますので、その頃までに美味しく栄養のある料理、考えておいてくださいね」
私は彼に笑顔を振りまきつつ、一礼します。
そして、くるりと反転して背中を向けます。
状況を終了したならば、長居は必要ありません。
「あ、あのーー」
だけれど、チャンドラさんは違うようです。
私の背中に、たどたどしく声をかけました。
「どうされましたか?」
「い、いえ。大したことはないのです……ないのですが」
歯切れの悪い言葉で、彼は言葉を紡ぎます。
不器用で、不恰好な所作で、
それでして人の、ヒトモドキのような私の心にも触れるような所作でーー
「用がなくても、またいらしてくださると嬉しいです。自身にできることなんて、料理くらいしかありませんが、こうして貴女様とお話できる時間はとても楽しかったです」
「そう思っていただけたなら、重畳です」
「昔から、こうしてお話ができればと思っておりました」
その言葉に、私はどきりとしました。
どきりというか、なんというか。
表現が難しいのですが、体が硬直するのを感じました。
昔、から。
「あの頃、貴女様に何もしてあげることができませんでした。オルコット様ーー前のオルコット様に、虐められている時もただ見ていることしかできませんでした。せいぜい、届けられる料理の量や栄養や味を、周囲に悟られない程度で良くするのが限度でした」
彼は続けます。
私の言葉を待たずに。
ただ、自身の思いを続けます。
0
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、
冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまう
リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、
悪役令嬢として断罪された少女が、
「誰かの物語の脇役」ではなく、
自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、
彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
【完結】結婚して12年一度も会った事ありませんけど? それでも旦那様は全てが欲しいそうです
との
恋愛
結婚して12年目のシエナは白い結婚継続中。
白い結婚を理由に離婚したら、全てを失うシエナは漸く離婚に向けて動けるチャンスを見つけ・・
沈黙を続けていたルカが、
「新しく商会を作って、その先は?」
ーーーーーー
題名 少し改変しました
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
婚約破棄されたので、前世の知識で無双しますね?
ほーみ
恋愛
「……よって、君との婚約は破棄させてもらう!」
華やかな舞踏会の最中、婚約者である王太子アルベルト様が高らかに宣言した。
目の前には、涙ぐみながら私を見つめる金髪碧眼の美しい令嬢。確か侯爵家の三女、リリア・フォン・クラウゼルだったかしら。
──あら、デジャヴ?
「……なるほど」
【完結】お父様の再婚相手は美人様
すみ 小桜(sumitan)
恋愛
シャルルの父親が子連れと再婚した!
二人は美人親子で、当主であるシャルルをあざ笑う。
でもこの国では、美人だけではどうにもなりませんよ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる