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四章 呪いと反乱
88.去り際のひと時
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さて、改めてチャンドラさんの籠絡も完了したところで、次はサンプルの準備を考えないといけません。
言い方はあまり良くありませんが、これはある種の『人体実験』というやつなのです。
どの食べ物がどれくらい効果があるのか、
どのくらいの効果継続すればいいのか、
それを判断するためにはそれなりの数を用意する必要があります。
それは料理人さんであるチャンドラさんの領分ではありません。
料理人さんの仕事は、料理を作ること。
人を攫うことではありません。
適材適所、ということですね。
「では、私は別の用事があるのでこれにて失礼します。また時を見て伺いますので、その頃までに美味しく栄養のある料理、考えておいてくださいね」
私は彼に笑顔を振りまきつつ、一礼します。
そして、くるりと反転して背中を向けます。
状況を終了したならば、長居は必要ありません。
「あ、あのーー」
だけれど、チャンドラさんは違うようです。
私の背中に、たどたどしく声をかけました。
「どうされましたか?」
「い、いえ。大したことはないのです……ないのですが」
歯切れの悪い言葉で、彼は言葉を紡ぎます。
不器用で、不恰好な所作で、
それでして人の、ヒトモドキのような私の心にも触れるような所作でーー
「用がなくても、またいらしてくださると嬉しいです。自身にできることなんて、料理くらいしかありませんが、こうして貴女様とお話できる時間はとても楽しかったです」
「そう思っていただけたなら、重畳です」
「昔から、こうしてお話ができればと思っておりました」
その言葉に、私はどきりとしました。
どきりというか、なんというか。
表現が難しいのですが、体が硬直するのを感じました。
昔、から。
「あの頃、貴女様に何もしてあげることができませんでした。オルコット様ーー前のオルコット様に、虐められている時もただ見ていることしかできませんでした。せいぜい、届けられる料理の量や栄養や味を、周囲に悟られない程度で良くするのが限度でした」
彼は続けます。
私の言葉を待たずに。
ただ、自身の思いを続けます。
言い方はあまり良くありませんが、これはある種の『人体実験』というやつなのです。
どの食べ物がどれくらい効果があるのか、
どのくらいの効果継続すればいいのか、
それを判断するためにはそれなりの数を用意する必要があります。
それは料理人さんであるチャンドラさんの領分ではありません。
料理人さんの仕事は、料理を作ること。
人を攫うことではありません。
適材適所、ということですね。
「では、私は別の用事があるのでこれにて失礼します。また時を見て伺いますので、その頃までに美味しく栄養のある料理、考えておいてくださいね」
私は彼に笑顔を振りまきつつ、一礼します。
そして、くるりと反転して背中を向けます。
状況を終了したならば、長居は必要ありません。
「あ、あのーー」
だけれど、チャンドラさんは違うようです。
私の背中に、たどたどしく声をかけました。
「どうされましたか?」
「い、いえ。大したことはないのです……ないのですが」
歯切れの悪い言葉で、彼は言葉を紡ぎます。
不器用で、不恰好な所作で、
それでして人の、ヒトモドキのような私の心にも触れるような所作でーー
「用がなくても、またいらしてくださると嬉しいです。自身にできることなんて、料理くらいしかありませんが、こうして貴女様とお話できる時間はとても楽しかったです」
「そう思っていただけたなら、重畳です」
「昔から、こうしてお話ができればと思っておりました」
その言葉に、私はどきりとしました。
どきりというか、なんというか。
表現が難しいのですが、体が硬直するのを感じました。
昔、から。
「あの頃、貴女様に何もしてあげることができませんでした。オルコット様ーー前のオルコット様に、虐められている時もただ見ていることしかできませんでした。せいぜい、届けられる料理の量や栄養や味を、周囲に悟られない程度で良くするのが限度でした」
彼は続けます。
私の言葉を待たずに。
ただ、自身の思いを続けます。
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