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三章 領主と領民

79.世界

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お父様の言葉で、私とお兄様の諍いは終了しました。
ご飯の時間も終了しました。
使用人のどなたかが犠牲になる、という悲しい結果にはなりましたけれど。
けれど、仕方がありません。
使用人としてマーテルロ家に仕えるということはそういうことなのです。

メリットとデメリット、そのどちらも理解しなければいけません。
名家に仕えるという誇りと、一般稼業と比較にならない報酬。
一族の機嫌一つで解雇、あるいは拷問を甘受しなければならないリスク。

ですから、悲しい気持ちはすぐに論理的に解消、です。
なので気にしません。
忘れます。
忘れました。

ということで、思考を別に移しましょう。
ええと、そうですね、彼女、レオリーゼさんについて考えてみましょう。
お屋敷からの脱出には成功しました。
となれば、後は無事に彼女たちの拠点に戻るだけです。
戻った彼女は、何を語り、何をするのでしょうか?
大方の予想はつきます。
もう1人が死んでしまったこと、
私たちの戦力、
自身が受けた拷問への憎しみ。
再度、マーテルロ家へ反逆するための計画を練ることでしょう。

ーーそして、そこに私オルコット=マーテルロという協力者の存在を組み込んでくれることでしょう。
私の存在は、彼女たちの計画にとって無視できないはずです。
最初は、ただの交渉道具としての存在でした。
ですが、マーテルロ家の一員でありながら、そこに恨みを持っている矛盾した存在。
敵陣内部の協力者、というのは利用価値が大きいのです。
情報を入手するにしろ、内部工作をするにしろ、とても動きやすいのですから。

なので、私は彼女たちからの接触をのんびりと待ちましょう。
他にもできることはあるでしょうから、その都度考えて動くつもりではありますが。
ですが、現状あるものを利用するのが一番効率的です。
一から、零から作り出すよりも、既存を応用するのがエコなのです。

「では、私は私の世界に戻りましょうか」

小さく呟いて、大きく、沢山収納できるようになった本棚に手をかけます。
私の世界、
私の宇宙。
名前が変わっても、扱いが変わっても、何一つ変わらない、私だけの書物の中の世界。
壊そうと思っても壊せない、
滅ぼそうと思っても滅せない、
無敵で素敵な夢想な世界。
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