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三章 領主と領民

78.犠牲の羊

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犯人(私)自ら、探偵役として場を制圧します。
この場合、可哀想な犠牲の羊さんはお兄様です。

ああ、何も言わなければレオリーゼさんが勝手に脱走しました、それだけで終わったのに。
ああ、私を陥れようとしなければ、窮地に落ちることはなかったのに。

愚かで、
哀れな、
私のお兄様。

けど、少しだけ。
ほんのちょっぴりですが、楽しいのです。
愉悦、というのでしょうか、この感情は。
安全圏から、黒幕気分で他者が右往左往している様子を見るのは面白いです。
ーー本当は、言うほど私は安全圏にいないのですけれどね。
だって、犯人なのですから。
本来、裁かれるべき、断罪されるべき状況なのですから。

「違う、それはっ、違うぞ!ただ、状況から考えて怪しいのはお前だと言っているだけでーー」

「分かりやすく狼狽しないでください。お兄様のそういうとこ、良くないと思いますよ」

くすり、と効果音でもつきそうなくらい。
私は笑ってしまいます。
憐れむように、
愚かなものを見るように。

「状況証拠で怪しいのは私でも、そのご様子ではお兄様の方が怪しいと思われますよ」

「このっ、言わせておけばっーー」

お兄様は怒りに任せ、テーブルを叩きます。
振動でお皿が揺れ、
グラスが揺れ、
そしてとある方のグラスが倒れます。
中に注がれていた赤い液体が溢れました。
ひたひたと、
じわじわと。
誰かの血のような、赤い液体が。

「止めないか、お前たち」

重く、それでいてゆったりとした口調でお父様は言葉を紡ぎます。
倒れたグラスを元に戻し、
その瞳の内に苛立ちを抑えながら。

「誰が犯人で、誰が犯人でなかろうと、小娘が逃げた事実に変わりはない。むしろ、誰かの協力があれば、逃げ出せてしまう管理体制が問題だ」

お父様は溜め息をつきながら、言葉を続けます。

「その日の屋敷の管理担当は誰だったかな?誰が、私の愛しい子供達のいがみ合いを誘発させたのかな?」

空気が冷え付き、
壁際に控えている使用人たちの表情が一変します。
びくり、と振動したのが分かります。
そのくらい、怯えているのでしょう。
そのくらい、恐怖しているのでしょう。

「罪には罰と贖罪を、だ」

短くお父様は言い、立ち上がりました。
てくてくと、犠牲の羊に向けて足を進めます。

あぁ、ごめんなさい。
ごめんなさい。
私のせいで。
私のせいで。

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