虐げられた黒髪令嬢は国を滅ぼすことに決めましたとさ

くわっと

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三章 領主と領民

72.彼女

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お兄様は私を追いかけてくるような情熱的なことはせず、
また、こっそり追跡するような陰気なこともしないようです。
遠目に見れば、先程の場所で佇んでいます。
……お暇なのでしょうか?

まあ、いいです。
私はやるべきことをやりましょう。
どうでもいい目的のために、
無価値な目的のために、
すべきことをやりましょう。

お屋敷の中では、暗い暗い廊下や階段を進んでいきます。
この道は少しだけ懐かしいです。
あの時は、強制連行かつ迫り来る確実な痛みへの恐怖で心と頭がいっぱいでしたが。
こうして、自分の意思で無感情に歩くとただの暗い道中です。

重い扉をいくつか開いて、開いて。
彼女が閉じ込められている場所へと近づいていきます。

久しぶり、という程時間は流れていないのですが、最早懐かしさを抱いてしまいます。
多分、それはフォルテシア=マーテルロの出来事だったからでしょう。
時間的跳躍は少なくとも、存在が切り替われば感覚は大きく変わる。
それが人間というものらしいのです。
書物にそうありました。

きっと最後の一枚だろう扉を頑張って開けると、彼女がいました。
一寸先すら見えない程の暗闇。
普通の人は慣れるのに大変な暗さでしょうけど、私は昔取った杵柄というやつです、すぐに体が順応します。
過去の虐待経験というのは、どこで活きてくるか分かりません。
大概、それを活かす前に死んでしまうのでしょうけれど。

私を自由にしてくれた彼女の現状は、それはそれは不自由でした。
手足を鎖で拘束されて、身動きの取れない状態です。
道中の扉に鍵等で施錠されていないのは、脱走の危険があまりないからでしょう。
彼女のお仲間がここまでお屋敷の内部、最早隠し部屋と言っても差し支えのない奥底までたどり着くのは困難を極めるでしょうし。
あるいは、奪われたところで大して問題ないと考えているのかも、しれません。

「誰……ですか?」

掠れた声で、彼女は、
ーーレオリーゼさんは言います。
口だけはじゆうにされているようです。
けれど、大分弱っているみたいです。
声に覇気がまるでありません。

それもその筈、彼女は私と妹様を誘拐し、そして捕まったあの日から人としての扱いを受けていないのですから。
当然の状況なのでしょうけれど。

彼女こそ、あの誘拐犯さんの2人組の片割れ。
私の人生の分岐点にいた方。
生き残った方。
死に損なった方。
可哀想な方。
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