虐げられた黒髪令嬢は国を滅ぼすことに決めましたとさ

三章 領主と領民

56.嘘から出た真実

嘘から出た真実、というのでしょうか。
本当に私が妹様になってしまいました。

「オルコットは表舞台に出したことはない。年齢が多少違うが、言わなければ分からぬ」

「ですが、隠したとしてもこいつは黒髪。呪われた出来損ないをマーテルロ家の一員として認めるべきでは……それに、自身の代わりとしてフォルテシアがなったとなれば、死んだ妹も浮かばれません」

「アデル……私の決定に刃向かうのか？」

「いえ、そんなつもりはーーただ、オルコットとマーテルロ家のためを思えば、その判断は適切ではない……ように思えるのです」

「ほう、自分の意見を私に言えるとは、随分偉くなったな」

お父様はかつんかつんと大きな足音を立てながら、お兄様に近づきます。
お兄様の恐れ、震えは見て取れます。
だけれど、それだけ彼は妹様のことを想っていたのでしょう。

死んでしまった妹様の気持ちの方が、
生きている私よりも、
比べるべくもなく、大切なのでしょう。

「だが、決定は買えなない。アレは今日から、今からオルコット＝マーテルロ。貴様の正式な妹だ。どうしてもそれが納得できないのなら」

お父様はポケットから、短刀を取り出して、それを床へと落としました。
お兄様に手が届く距離に、
無造作に、
乱暴に。

「ーーこれを使え。私の首を裂くか、自身の首を裂くか。好きなように選べ。無論、前者を選べは返り討ち、後者を選べば普通に死ぬがな」

「ど、どうしてーー僕は父上の後継者なのに」

「ああ、そうだ。それは事実だ。私はお前が死ねば悲しいし、つらい。だけれど、それはお前が私に従う、歯向かわないという前提があってこそ。私の意思に、判断に従わない息子など、最早不要。後に禍根を残すだけだ。ならば、ここで消すもやむなし、というところだろう」

「父上ーー」

「さあ、選べ。もちろん、私の決定を従順に受け入れる、という選択肢もあるが。だが、それだとお前は先に述べた妹への気持ち、マーテルロ家の繁栄という言葉への裏切りになるが」

お父様は、お兄様の頭を右手で掴みます。
お兄様は目を瞑り、びくっと震えます。

「さて、お前はどれを選ぶ？」