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二章 誘拐と叛逆

39.悪魔の証明

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「むむむー、むむむー」

妹様はひたすらに叫びます。
助けて、と言っているのでしょうか?
痛い、と言っているのでしょうか?
それとも、ごめんさいとーーいや、これはありませんね。
彼女にそんな感情、ないでしょうから。

きっと、
絶対に許さない、とか。
後で覚えていろ、とか。
そんなところでしょう。

「おい、実の姉なんだろ?お前、辛くはないのか?」

「さっきの方をひよっ子呼ばわりしたのに、私には優しいのですね」

あるいは、甘いのでしょうか。

「俺たちは生きるために仕方がなく人に悪事を働いている。傷つけ、奪い、時には殺す。だけれど、それは覚悟の上だ。自身の行動の罪深さとこの世界の不条理さを理解した上でやっている。だが、お前は……」

黒かった先輩さんは言葉に詰まります。
やはり、優しいというよりは甘いですね。
私のことを、『今まで誘拐してきた人間の1人』ではなく、『可哀想な令嬢のオルコット』として認識しているようです。

甘い、
併せて、弱いです。
とても、
とっても。

筋力といった肉体面はいくら強くても、
言葉遣いが乱暴でも、
その中身は柔らかい。

触れれば、
そのまま、
潰れてしまいそうな程に。

「あなたは、同情とか可哀想とか、そういう感情を抱かないタイプの方と思ってましたけど。どうやら認識を改める必要があるようですね」

私は短く区切り、話題を移します。
実の無い話をするべきではありません。
時間はあっても、多くはないのですから。

「でも、この作業は私がやるしかないのですよ。先程の説明で、マーテルロの血は特別だと説明しましたよね?」

「あ、ああ。なんでも動物を操る秘術とセットになってるんだろう?」

「その通りです。ただ、それ以外にも厄介な点がありましてね」

私は、少し間を置きます。
一呼吸、時間をとります。

「私たちの一族の血が、一般の人に混じると、数日以内に死んでしまうのです」

「は?」

黒かった先輩さんは、間の抜けた声をあげます。
何を言っているんだ、と思っているのでしょう。
まあ、私自身もそう思ってます。

「混じる、と言っても皮膚に触れて浸透しただけでもお終いです」

これも当然のことながら、嘘、なのです。
だけど、確かめようがありません。
これを試すということは、誰が死んでしまうことになります。

証明できない嘘は、真実足りうる。
私の黒髪と同じ、です。

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