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二章 誘拐と叛逆

36.嘘、真実、嘘

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「彼女、フォルテシア=マーテルロは一族の汚点であり、呪われた子なのです」

私は、黒かった先輩さんに向けて語ります。

「マーテルロ家は動物を効率的に生産、運用することで発展してきました、その上で、マーテルロ家には特殊な技術があるのです」

聞き漏らしがないように、丁寧に。

「それは秘術であり、マーテルロの『血』が重要になります。術だけでは使えないし、血がなければ使えない。だから、フォルテシア=マーテルロという人間に価値はなくても、その血には価値があった。母体としての価値はあったのです」

ただし、途中質問を挟ませないように、少し早口で。

「だから、彼女は出来損ないでも生きることを宿命づけられた。呪われていて、我儘で、才能もなくても、生きなくてはいけなかった。マーテルロのために」

フォルテシア=マーテルロという人間の存在について、

「けれど、腐っても彼女はマーテルロの娘。使用人やその他領民と比べれば上位の人間。欲しいものは手に入れられるし、好き放題できる日常です。食べるものに困らず、努力する必要もなく。好きなことを、好きなだけ」

しっかりと騙りました。

「お父様も、彼女のことは見限っています。それ故の放任、甘やかしにも見えるかもしれませんが。ただ、彼女の境遇を思えば、それは一つの罪滅ぼしなのかもしれません」

同情を誘うように、

「必要となるその日まで、生かし続ける。ただ、私やお兄様が役目を果たせば、必要なくなります。無価値になります。保険は保険、不要になれば解約、処分です」

それでいて、お父様含め、お金持ちへの憎しみを煽るように、

「ただ、フォルテシア=マーテルロという少女はその身に呪いを受けているのです。一族の罪、動物を使役し、家の繁栄のために酷使した末路。今は染め上げて隠していますが、本当の彼女の髪は黒いのです。夜の闇のように、伝承の悪魔のように」

私は語り、

「その存在は、一族に災いをもたらすと言われています。不幸を、厄災を、没落を。だから、生まれたその場で殺すのが一番だった。だけれど、お父様はそうしなかった」

騙り続けます。

「迷信だと、信じなかった。殺すことなどいつでもできる、と。災いの片鱗が見えれば殺せばいい、と。それまで、とりあえず生かしておこう、と。これはこれで『使い道』と『可能性』はある、と」

嘘と真実をごちゃまぜに、

「そうして、フォルテシアの存在は隠されて、正式にはこの私、オルコットのみが、マーテルロの娘として世間に公表されています。とは言っても、まだ年端もいかない8歳の少女なので、表舞台には立ったことはありませんけれど」

と、私は言葉を締めくくります。
黒かった先輩さんは、最後まで私の言葉を黙って聞いてくれました。

ご静聴、ありがとうございました。
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