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一章 黒髪令嬢の日常

23. 蹂躙

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「ほう、懐かれたか」

犬さんたちとの楽しいひと時。
それはお父様の登場によって終わりを迎えました。

「やれやれ、人の味を覚えさせるつもりだったが、逆に絆されるとは。これだから獣は哀れだな。損得感情、利害関係を理解できん。賢いといっても所詮は犬。獣という括りからは脱せない、か」

こつんこつんと、足音を立てながら私の方へ近づいてきました。
犬さん達は警戒するように、お父様に相対します。
立ち上がり、
唸り、
吠えて。
こちらに近づくなと言わんばかりに、
私を守るように。

「今一度、立場を分からせるか」

その一言とともに、お父様は近場にいた一頭を蹴り上げます。
何の躊躇いもなく、
道端の小石を蹴り飛ばすように、犬さんを足蹴にしました。

短い悲鳴のような声とともに、犬さんは吹き飛びます。
壁に衝突して、地面に倒れ伏します。

「ほら、どうした?お前達のお姫様を守るんじゃあないのか?私に牙剥いたということの意味、獣でも理解できるだろう?」

お父様はそう呟くように言いながら、私の周りの犬さん達に次々と蹴り放ちました。
私は、その光景をただ見ているだけでした。

「立場を理解させてやろう。人間と獣の、な」

何もできず、
何も言えず。
ただただ傍観者。

確かに、彼らには一度牙を剥かれました。
彼らの意思ではないとはいえ、傷つけられました。

けれど、最後には、彼らの意思で私を癒してくれました。
その舌で、
その毛並みで。
そして、私を庇ってくれました。
文字通り、身を挺して。

どこかで、彼らのことを好きになっている、
好意的な感情を抱いている私がいました。

けれど、今の私はその対象が蹂躙されているのを、黙って見ているだけなのです。
何も、できないのです。
私はただ髪が黒いだけの、臆病な少女なのです。
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