3 / 7
3.
しおりを挟む
「私がいけないの? どこを直せばいいの? ミハイル、ミハイルーー馬鹿っ、馬鹿っ!」
逃げ出したお嬢様を追跡すると、やはり自室に籠っておられました。
ミハイル様を罵る言葉がこぼれ落ちています。
……確かに、ミハイル様の心労も理解できようというもの。
自身と共に人生を歩むお方が、このような子供じみた精神年齢では、不安を感じるのも否めません。
けれど、私もこの婚約破棄をなんとかすると誓った身、この程度の苦難で挫けることはありません。
「お嬢様、入りますよーーって」
ガチャガチャ、と短い音。
本来はガチャリと開く筈の扉が開きません。
お嬢様、本当に落ち込んでるいるようです。
「ミハイルの阿呆、糞真面目、冷血漢ーー」
ミハイル様への暴言に夢中になっているようで、私の気配に気づく様子もありません。
ならばーー仕方がありません。
私はかちゃかちゃと鍵穴に細長い針金を通します。
鍵とは閉じるために付いているものです。
ですが、同時に開けられることを前提としたものなのです。
ーーであれば、技術さえあれば付いていないと同じ。
このように、特殊かつ違法な技術で鍵を開けることには気が引けますが……それはそう、適当な嘘をついて誤魔化せば良いのです。
例えば、最初から閉まっていませんでした、とか。
例えば……うーん、なんでしょう、一つしか思い浮かびませんね。
「お嬢様、入りますよーーっと、これは」
防壁が作られています。
本棚や机、それらが乱雑にかつ明確な拒絶な意思と共に並べられています。
バリケード、というやつなのでしょう。
お嬢様はこういう時だけは頑張り屋さんですね。
もっと日頃から、その頑張りをしてくれたら、きっとミハイル様も喜んで迎えてくれたでしょうにーー
「仕方がないですね」
私は口癖の一つをこぼすと、侵入を阻む本棚や机を一つ一つ、横へとずらしていきます。
日常に掃除と変わりません。
ただ、少し汚れているだけのこと。
そもそも、お嬢様の体力でできる程度のことが、従者である私にできない筈もなく。
ーーものの数分でお嬢様の眠るベッドへと到着することができました。
「ミハイル、ミハイル、うぅ、うぅうーー」
シーツで全身を覆った何かがそこにいました。
サイズ感的にはお嬢様でしょう。
ですが、まだ分かりません。
シーツを剥ぎ取るまでは可能性は収束しません。
唸ってます。
獣のように唸っています。
もしかして獣かもーーと思いシーツを剥がしてみると、そこにはやっぱりお嬢様。
私の残念な主人の姿がそこにありました。
逃げ出したお嬢様を追跡すると、やはり自室に籠っておられました。
ミハイル様を罵る言葉がこぼれ落ちています。
……確かに、ミハイル様の心労も理解できようというもの。
自身と共に人生を歩むお方が、このような子供じみた精神年齢では、不安を感じるのも否めません。
けれど、私もこの婚約破棄をなんとかすると誓った身、この程度の苦難で挫けることはありません。
「お嬢様、入りますよーーって」
ガチャガチャ、と短い音。
本来はガチャリと開く筈の扉が開きません。
お嬢様、本当に落ち込んでるいるようです。
「ミハイルの阿呆、糞真面目、冷血漢ーー」
ミハイル様への暴言に夢中になっているようで、私の気配に気づく様子もありません。
ならばーー仕方がありません。
私はかちゃかちゃと鍵穴に細長い針金を通します。
鍵とは閉じるために付いているものです。
ですが、同時に開けられることを前提としたものなのです。
ーーであれば、技術さえあれば付いていないと同じ。
このように、特殊かつ違法な技術で鍵を開けることには気が引けますが……それはそう、適当な嘘をついて誤魔化せば良いのです。
例えば、最初から閉まっていませんでした、とか。
例えば……うーん、なんでしょう、一つしか思い浮かびませんね。
「お嬢様、入りますよーーっと、これは」
防壁が作られています。
本棚や机、それらが乱雑にかつ明確な拒絶な意思と共に並べられています。
バリケード、というやつなのでしょう。
お嬢様はこういう時だけは頑張り屋さんですね。
もっと日頃から、その頑張りをしてくれたら、きっとミハイル様も喜んで迎えてくれたでしょうにーー
「仕方がないですね」
私は口癖の一つをこぼすと、侵入を阻む本棚や机を一つ一つ、横へとずらしていきます。
日常に掃除と変わりません。
ただ、少し汚れているだけのこと。
そもそも、お嬢様の体力でできる程度のことが、従者である私にできない筈もなく。
ーーものの数分でお嬢様の眠るベッドへと到着することができました。
「ミハイル、ミハイル、うぅ、うぅうーー」
シーツで全身を覆った何かがそこにいました。
サイズ感的にはお嬢様でしょう。
ですが、まだ分かりません。
シーツを剥ぎ取るまでは可能性は収束しません。
唸ってます。
獣のように唸っています。
もしかして獣かもーーと思いシーツを剥がしてみると、そこにはやっぱりお嬢様。
私の残念な主人の姿がそこにありました。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説

結婚するので姉様は出ていってもらえますか?
基本二度寝
恋愛
聖女の誕生に国全体が沸き立った。
気を良くした国王は貴族に前祝いと様々な物を与えた。
そして底辺貴族の我が男爵家にも贈り物を下さった。
家族で仲良く住むようにと賜ったのは古い神殿を改装した石造りの屋敷は小さな城のようでもあった。
そして妹の婚約まで決まった。
特別仲が悪いと思っていなかった妹から向けられた言葉は。
※番外編追加するかもしれません。しないかもしれません。
※えろが追加される場合はr−18に変更します。

契約破棄された聖女は帰りますけど
基本二度寝
恋愛
「聖女エルディーナ!あなたとの婚約を破棄する」
「…かしこまりました」
王太子から婚約破棄を宣言され、聖女は自身の従者と目を合わせ、頷く。
では、と身を翻す聖女を訝しげに王太子は見つめた。
「…何故理由を聞かない」
※短編(勢い)

好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。

[完結] 私を嫌いな婚約者は交代します
シマ
恋愛
私、ハリエットには婚約者がいる。初めての顔合わせの時に暴言を吐いた婚約者のクロード様。
両親から叱られていたが、彼は反省なんてしていなかった。
その後の交流には不参加もしくは当日のキャンセル。繰り返される不誠実な態度に、もう我慢の限界です。婚約者を交代させて頂きます。

【完結】薔薇の花をあなたに贈ります
彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。
目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。
ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。
たが、それに違和感を抱くようになる。
ロベルト殿下視点がおもになります。
前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!!
11話完結です。
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星里有乃
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2023年01月15日、連載完結しました。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました!
* 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。

転生聖女のなりそこないは、全てを諦めのんびり生きていくことにした。
迎木尚
恋愛
「聖女にはどうせなれないんだし、私はのんびり暮らすわね〜」そう言う私に妹も従者も王子も、残念そうな顔をしている。でも私は前の人生で、自分は聖女になれないってことを知ってしまった。
どんなに努力しても最後には父親に殺されてしまう。だから私は無駄な努力をやめて、好きな人たちとただ平和にのんびり暮らすことを目標に生きることにしたのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる