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4章
34.眠り姫と眠りーー
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エーテルザット家の医者であるロベルト・アーネットは思考する。
あの場で何があったのかを。
場所は離れ、時間はゆっくりと流れていく。
しかし、あの惨状は彼の記憶から色褪せることはない。
意識不明で回収した連中。
あれは数度ではあるが見覚えがあった。
蛮族。
時折、野犬の如くに領内に攻め入っては金品や食料を略奪していく。
顔を隠すためなのか身につけている特徴的な仮面が逆に身元を示す証左となっている。
だが、あの数と武装は何だ?
火器など使用している所は見たことがないし聞いたこともない。
秘蔵していたのか、あるいは今回の襲撃のために入手したのか。
人数も多すぎる。
あれでは目立つだけだ。
それだけの理由があったのか。
全力を出さないといけないような理由が。
おかしいところは他にもある。
この愚鈍な我らが領主の動きだ。
文字通りの行動だ。
本来は動くことすらできず、そもそも通常時でさえ動くことは嫌っていたこの男が、どうして立ち上がり、どうして蛮族の連中とともに転がっている。
よくよく観察してみれば、アンドレアの拳には多少だが赤いものがついている。
恐らくは彼らの血であろう。
いや、道中に遭遇した獣の血という可能性もあるが。
「一体、これからどうなるんだ?」
ため息とともに、ロベルトは呟く。
彼の不安とは関係なく、時間は動く。
動くがーー
「すぅ……すぅ……すやすゃ」
かの令嬢は眠りから覚めることはなかった。
死んだようにーーではなく、気持ちよさそうに眠っている。
何か良い夢でも見ているのかもしれない。
あるいは、謎の戦いが終わったことによる開放感か。
どちらにしても、起こすことは気が引けた。
彼女から話を聞いたところで、ロベルトには何もできない。
その話をリリネット他、関係各位に報告するのがせいぜいだ。
彼は医者だ。
政治、統治にはかかわらない。
無論、意見は言うし助言もする。
だが、当事者ではない。
なら、医者として彼が出来ることは一つだけ。
「ゆっくりお休みください。睡眠は大事です。麗しき方なら、尚更」
安らかな寝顔に伝える。
「でも、貴方は眠り過ぎだ。現実逃避も程々にしてください」
と、そちらもどこか幸せそうな顔をしている残念領主に伝える。
こちらは相変わらず酷い寝息を立てている。
いちいち描写する価値もないような、醜悪なそれを。
だが、本来彼は一番の功労者。
残念などではまるでなく、勇者と称えられてもいい活躍を示した。
悲しむべきは、それを知っているのが全員眠ってしまっていること。
加えて、当の本人が夢心地だったため、全く記憶していないということだ。
あの場で何があったのかを。
場所は離れ、時間はゆっくりと流れていく。
しかし、あの惨状は彼の記憶から色褪せることはない。
意識不明で回収した連中。
あれは数度ではあるが見覚えがあった。
蛮族。
時折、野犬の如くに領内に攻め入っては金品や食料を略奪していく。
顔を隠すためなのか身につけている特徴的な仮面が逆に身元を示す証左となっている。
だが、あの数と武装は何だ?
火器など使用している所は見たことがないし聞いたこともない。
秘蔵していたのか、あるいは今回の襲撃のために入手したのか。
人数も多すぎる。
あれでは目立つだけだ。
それだけの理由があったのか。
全力を出さないといけないような理由が。
おかしいところは他にもある。
この愚鈍な我らが領主の動きだ。
文字通りの行動だ。
本来は動くことすらできず、そもそも通常時でさえ動くことは嫌っていたこの男が、どうして立ち上がり、どうして蛮族の連中とともに転がっている。
よくよく観察してみれば、アンドレアの拳には多少だが赤いものがついている。
恐らくは彼らの血であろう。
いや、道中に遭遇した獣の血という可能性もあるが。
「一体、これからどうなるんだ?」
ため息とともに、ロベルトは呟く。
彼の不安とは関係なく、時間は動く。
動くがーー
「すぅ……すぅ……すやすゃ」
かの令嬢は眠りから覚めることはなかった。
死んだようにーーではなく、気持ちよさそうに眠っている。
何か良い夢でも見ているのかもしれない。
あるいは、謎の戦いが終わったことによる開放感か。
どちらにしても、起こすことは気が引けた。
彼女から話を聞いたところで、ロベルトには何もできない。
その話をリリネット他、関係各位に報告するのがせいぜいだ。
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だが、本来彼は一番の功労者。
残念などではまるでなく、勇者と称えられてもいい活躍を示した。
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加えて、当の本人が夢心地だったため、全く記憶していないということだ。
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