20 / 51
二章
16.独りの悪役
しおりを挟む
情報提供者の一部を得意げに披露した後、リリネットは姿を消した。
拷問、別段悪いことだとは思わない。
必要であれば私もするだろうし、したこともある。
先ほど彼に渡された本を、手に取り、パラパラとめくる。
ーーやはり、多少盛られてはいるが拷問の記録も記されている。
併せて、そこには彼のメモらしきものも残っている。
ここに書かれている偽物情報に着想を得たのかもしれない。
指を切り落とす、なんて不可逆的な行為はしたことがないが、『拷問』という言葉で括ってしまえば同じだろう。同類だ。
だけれど、それは必要な行為だからするのであって、楽しむためではない。
あの男は明らかにその行為を楽しんでいる節があるし、実際そうなのだろう。
でなければ、拷問対象の指など持ち歩きはしない。
私以外にも自慢しているに違いない。
悪趣味極まりない。
内心でリリネットについて、一頻り毒づく。
部屋を隅々まで調べ、鍵をかけて。
彼がいなくなったことをしっかりと確認した後、パトリシアは一人呟いた。
「面倒なことに、なりましたね」
味方が誰もいないと独り言が増える。
孤独死を待つだけの老人のアレはこういうことなのか、と実感してしまう。
話相手がいないから、自分が代役を務める。
自分で話しかけ、
自分が答える。
自問自答。たしかに問題解決の手法としてはある程度有用なのだろう。
自分の状況を言葉にして、声に出すと言うことは。
ただ、
「絶望的に寂しい、ですね」
取り巻きも、駒もいない。
自身の問いかけにただ『はい、そうですね』と同意してくれるだけの自動人形でもあればと思ってしまう。
または、あの醜悪なアンドレアでもましかもしれないと。
あるいは、最早敵同然の立ち位置であるリリネットさえ、側にいた方が良かった気さえする。
良くない兆候だな、と彼女は思う。
弱くなったな、と彼女は思う。
だが、それは今まで気付いていなかっただけで、それが自身の本質であるということも、同時に思い当たってはいた。
だけれど、そんなことよりも解決すべきことがある。
蛮族の襲来、それにパトリシアは自身一人で対抗しないといけない。
基本的に、領民その他からの援助は期待できない。
これまでとは異なり、使える人的資源は自分一人。
手駒がいない、自ら動くしかないというのは、なかなかに気が重い。
先のような、対アンドレアのような、表面上は平和的な戦いならばまだいい。
だが今回は戦である。
うまく立ち回らなければ流血沙汰、場合によっては慰み物になった末の死である。
そんな死に方をするくらいなら、大人しく『あの場』で処刑されていた方がマシである。
「時間も限られていますし、思考は動きながらにしましょう。私が使えるのは『私』だけ。状況を嘆いても変わりません。いつも通り、最適解を選びましょう」
パトリシアは立ち上がり、移動を開始する。
人は指を切り落とされた程度では死なない。
首を落とさなければ、
頭を砕かなければ、
心臓を抉らなければ。
つまりは、余程乱暴に乱雑に扱わない限り、人は死なないようにできている。
人の形をしていれば、それは我々だろうと蛮族だろうと変わらない。
殺そうとしなければ、死なないのだ。
情報提供者をすぐに殺すような愚行を、リリネットは犯さないだろう。
あの男は悪趣味ではあるが、気に食わない男ではあるが馬鹿ではない。
きっと、私がそこに向かうことも想定の範囲内だろう。
拷問、別段悪いことだとは思わない。
必要であれば私もするだろうし、したこともある。
先ほど彼に渡された本を、手に取り、パラパラとめくる。
ーーやはり、多少盛られてはいるが拷問の記録も記されている。
併せて、そこには彼のメモらしきものも残っている。
ここに書かれている偽物情報に着想を得たのかもしれない。
指を切り落とす、なんて不可逆的な行為はしたことがないが、『拷問』という言葉で括ってしまえば同じだろう。同類だ。
だけれど、それは必要な行為だからするのであって、楽しむためではない。
あの男は明らかにその行為を楽しんでいる節があるし、実際そうなのだろう。
でなければ、拷問対象の指など持ち歩きはしない。
私以外にも自慢しているに違いない。
悪趣味極まりない。
内心でリリネットについて、一頻り毒づく。
部屋を隅々まで調べ、鍵をかけて。
彼がいなくなったことをしっかりと確認した後、パトリシアは一人呟いた。
「面倒なことに、なりましたね」
味方が誰もいないと独り言が増える。
孤独死を待つだけの老人のアレはこういうことなのか、と実感してしまう。
話相手がいないから、自分が代役を務める。
自分で話しかけ、
自分が答える。
自問自答。たしかに問題解決の手法としてはある程度有用なのだろう。
自分の状況を言葉にして、声に出すと言うことは。
ただ、
「絶望的に寂しい、ですね」
取り巻きも、駒もいない。
自身の問いかけにただ『はい、そうですね』と同意してくれるだけの自動人形でもあればと思ってしまう。
または、あの醜悪なアンドレアでもましかもしれないと。
あるいは、最早敵同然の立ち位置であるリリネットさえ、側にいた方が良かった気さえする。
良くない兆候だな、と彼女は思う。
弱くなったな、と彼女は思う。
だが、それは今まで気付いていなかっただけで、それが自身の本質であるということも、同時に思い当たってはいた。
だけれど、そんなことよりも解決すべきことがある。
蛮族の襲来、それにパトリシアは自身一人で対抗しないといけない。
基本的に、領民その他からの援助は期待できない。
これまでとは異なり、使える人的資源は自分一人。
手駒がいない、自ら動くしかないというのは、なかなかに気が重い。
先のような、対アンドレアのような、表面上は平和的な戦いならばまだいい。
だが今回は戦である。
うまく立ち回らなければ流血沙汰、場合によっては慰み物になった末の死である。
そんな死に方をするくらいなら、大人しく『あの場』で処刑されていた方がマシである。
「時間も限られていますし、思考は動きながらにしましょう。私が使えるのは『私』だけ。状況を嘆いても変わりません。いつも通り、最適解を選びましょう」
パトリシアは立ち上がり、移動を開始する。
人は指を切り落とされた程度では死なない。
首を落とさなければ、
頭を砕かなければ、
心臓を抉らなければ。
つまりは、余程乱暴に乱雑に扱わない限り、人は死なないようにできている。
人の形をしていれば、それは我々だろうと蛮族だろうと変わらない。
殺そうとしなければ、死なないのだ。
情報提供者をすぐに殺すような愚行を、リリネットは犯さないだろう。
あの男は悪趣味ではあるが、気に食わない男ではあるが馬鹿ではない。
きっと、私がそこに向かうことも想定の範囲内だろう。
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる