追放された悪役令嬢は残念領主を導きます

くわっと

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一章

4.手紙

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『親愛なるお姉さまへ

お久しぶりです、お姉さま。
新しい土地での生活は慣れましたか?
王都では、お姉さまの話題で持ちきりです。
だってーー』

パトリシアは手紙を最後まで読むことなく、ビリビリと破り捨てた。
一切の躊躇なく、
遠慮も配慮の欠片もなく。
微塵に引き裂いた。

どうせ、全てを読む必要はない。
序文だけで、彼女の言いたいことは十分すぎるほどに理解できた。
痛いほどに理解できた。
ならば、最後まで読む理由があるだろうか。
いや、ない。
塵ほどにない、
小指の爪の甘皮ほどない、
全く、ない。

読んで不快になることがわかり切っている。
そこに並べられているのは、ほとんどが事実。
事実だから、否定できない。
かつてのように千の言葉を積み上げて、
虚構を作り出すだけの気力はない。
それはもう、ただの虚しいだけの作業だ。
自分のちっぽけな自尊心を誤魔化すだけの、作業。
それを、実の妹に行うだけの気力は、もうないのだ。

妹ーーテレジア・マーテルロについては、随分と可愛がっていたと思う。
それは皮肉でもなく、そのままの言葉の意味で。
年が5つも離れていたことで、彼女はお姉さまと慕ってくれていた。
色んな本を読み聞かせたり、色んなお菓子を買い与えたり、色んな場所へと連れ出した。
もちろん、自身が悪役令嬢と称される所以となった所行は全て隠した。
隠しきったつもりだった。
だが、世間の評価が下されてはどうしようもない。

あの時のパトリシア・マーテルロは偽物で。
今の哀れなパトリシア・マーテルロこそが本物。
真実の姿。
そう認識されても仕方がない。
その結果、本来の関係性になったのだろう。
尊敬と信頼のベールが剥がされたのだ。

身内ということは、それは競争相手という意味に同義だ。
敵対者と言ってもいい。
同じ血が流れているからと言って、そこに哀れみや隣人愛など存在しない。
私が逆の立場なら、もっと盛大に煽り、嘲っただろう。
だけれど、今の自身には相当に堪える。

ーー弱くなったのかもしれない。
昔は、こんなに悲しい物思いに耽ることはことはなかった。
悩んでいる暇があったら行動する。
それがパトリシアのシンプルかつ絶対不変のルールであった。

けれど、ここに至るまでの道中で、そのルールもボロボロに擦り切れてしまった。
引き摺りすぎて摩耗し、機能を果たせなくなった。

「この紙は?」

微塵に引き裂かれた断片を、ひとりの男が拾った。
不思議そうに見つめながら、何かを頬張っている。

「いえ、なんでもありません。ただの紙です」

パトリシアはそっけなく答えた。
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