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3章 政略と征略

63.ヘーゲル=エーテルザット

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エーテルザット家、
私の属するラインバルト家と同じく名家の一つ。
何が特徴の名家か忘れたが、何か凄いのだろう。

ステノン家は農業、
アルバート家は工業、
ラインバルト家は……なんだっけ、それも忘れた。
私、物覚えはそんなにいい方ではないからな。
日本史も世界史も苦手だったし。
今を生きる女、といえば聞こえはいいけれど。

「では、ついてきてもらおう。ルパイン、そこの二人は適当に拘束して回収しておけ」

「へいへい、了解しましたよ、主人様」

フランクな感じでルパインは言う。
ポケットから黒塗りのロープのようなものを取り出し、二人の両手・両足を拘束。
スムーズな動作で、そのまま二人を両肩に抱え込む。
力持ちだ。

「お前は誰だ?エーテルザット家の当主がこんなに若い訳がない」

既に縛られているアルベルトが騒ぐ。
たしかに、今までの婚約者系は見た目に多少の差はあれどあくまで次期当主候補だった。
このアルベルト=アルバート然り、
写真の記憶しかないが、バルバトロス=ステノン然り。

年齢的に国を治めるには若すぎる。
本来は父親世代の治世のはず。
急逝したのか、
それとも。

「先代なら、我が殺した。故に我が当主だ」

淡々と言う。
大したこと無いように。
虫でも殺したように。

「名家に非る野蛮民族がっ!」

「そんな野蛮民族に頼ってる次期当主様のお言葉とは思えないね。誰のおかげで、あんたの政略が成功したと思ってる?誰が手を汚して、若い生贄を用意したと思ってる?もっと感謝してほしいくらいなんだよな、こっちだってやりたくてやってるわけじゃあないだぜ」

「それは……」

ルパインの言葉に、黙るアルベルト。
なるほど、だからこの二人は知り合いだったのか。
アルベルトが自身の領地を維持するための政略に、一枚噛んでいるということか。
話し合いや政治だけ、非武装交渉ではなにも進まないということ。

「一応、そいつも回収しておけ。何かの交渉カードには使えるかもしれない」

「それはいいですけど、生憎両手が塞がってるんで」

「ならば、咥えて持っていけ」

「そんな無茶な、俺の口は美女のためにあるんですよ」

「なら、右肩の美女を咥えれば良かろう」

「確かに、それは妙案。流石は主人様」

ルパインはそうして、メノウを口に咥え(正しくは口で服の中央部を)、アルベルトをその右肩に回収した。
本当にパワフルだな、この人。

「よし、では撤収だ。案ずるな、殺しはしないし嬲りもしないし辱めることもない。あくまでお前は我の婚約者。エーテルザット家の象徴になってくれればいい」

そう言って、ヘーゲルは私の手をとった。
私の感覚のない、左手を。

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