60 / 68
3章 政略と征略
58.アルベルト救出作戦?
しおりを挟む
黒い影、という表現は適切ではない。
どちらかというと、黒づくめといった方が正確だろう。
黒いコート、
黒い手袋、
黒いマスク、
黒い帽子、
黒眼鏡。
外見を構成する要素が黒で覆われている。
その見た目だけでも十分警戒する理由になったが、警告を告げるリヒーの背後で余裕綽々な風にダブルピースをしていることで、そのレベルは二段階ほど高まった。
うん、たぶんこいつが犯人だろう。
私は心中頷き、魔法を放つ準備をする。
この射線だと、リヒーを巻き込む可能性が高い。
だから、ひとまずは彼にこちら側に来てもらわないといけない。
背後の黒づくめにも、彼は気づいている様子がないようだし。
「早く、逃げてください!この屋敷は、もうっ」
そう呟きながら、地面に倒れ臥す。
こちらにくるよりも先に、彼の体力に限界が来たらしい。
見れば、彼の姿はボロボロだった。
顔こそ綺麗なままだったが、服は所々赤黒く変色しているし、一部風穴も空いている。
だが、重要なのはそこではなかった。
彼が命を賭してまで伝えに来た、逃げろという言葉。
それを言わせる原因となった対象が、その背後にいる。
リヒーは私がただのお嬢様でないことを知っている。
その目で、私が火龍を屠っている姿を見ている。
その人間ーーいや、バケモノと呼称しても問題ないレベルの存在に対して『逃げろ』という。
それは、相応の相手ということか、
あるいは、私に対して特攻攻撃でもできるスキルを兼ね備えた輩ということなのかもしれない。
ひとまずは、油断せずにいこう。
魔法を使えば万事オッケー、なんて傲慢は捨てよう。
配下の言葉はきちんと受け止めなくては。
「おっと、おねんねしちまったか。まあ、使用人にしては持った方か」
黒づくめは、ぶっきらぼうに呟くと、リヒーを踏み超え、こちら側へと足を進めた。
何人の使用人踏んでんだよ、と右手に力がこもるがまだ放つ時ではない。
流れ弾、ならぬ流れ魔法が当たる可能性がある。
安全第一だ。
「あなたは一体何者ですか?」
マナーとして、聞いてみた。
屋敷を襲われていて、自己紹介を促すというのは間抜けな感じではあったが。
「貴様、ルパインか?助かったっーー早く僕をここから出してくれっ!」
まさかの背後からのネタばらし。
なるほど、アルベルトの仲間か。
やっと救出部隊のご登場、ということか。
次期当主を人質に取られれば、表面上は火龍に相対、相討ちで英霊扱いになっているとはいえ、助けだしにはくるか。
しかし、存外強引な方法だな。
武力制圧とは、普通こういうのは外交ルートを使うのではないのかな?
生まれてこの方、いや、転生前もその手の仕事に絡んだことはないから、よくわからないが。
「ぼっちゃん、そこは俺に格好よく名乗らせてくれると助かるんですけどね」
黒づくめは、黒マスクと黒眼鏡を外し、素顔を晒した。
無精髭に、シニカルな笑顔。
青い目と、眉間の深い皺が特徴的。
「改めまして、お嬢様。俺はルパイン、しがない傭兵部隊の雇われ隊長。そこに転がっているアルベルトの坊ちゃんの仕事仲間さ」
「あ、どうも。アリシアです」
名乗られたのでつい挨拶を返す。
そんな穏やかな状態ではないはずだが。
だって、リヒーが床に倒れてるし。
本当は怒り狂って「お前の名前なんて、どうでもいいから」と魔力をぶっ放す場面なのだろうが。
逆に、彼を巻き込んではいけないという気持ちが私を冷静にさせてくれているのかもしれない。
あるいは、ただ単に深い眠りと適度な運動のお陰で、心身共に良好になっているだけかもしれないが。
「それはご丁寧に。気持ち的には、ここで綺麗なあんたと握手とハグを交わして、家族への自慢話のネタにしたいところだが、自体は切迫しててね。生憎、お遊びをしている時間はない」
冗長な口調、
からの鋭い眼光、
殺気のような、肌をひりつける重圧。
「やれっ、ルパイン!その立ち位置ならアリシアは魔法を使えない、いや、使わない!」
繋がれたアルベルトが叫ぶ。
「そいつは身内に優しい、というか甘いからな。最早敵の軍門に降った使用人だが、ここにて僕の役に立ってくれた!」
もう黙っとけ、アルベルト。
お前の言葉と声は不快だ。
愉悦に感じるのは、お前の鳴き声とその顔だけだ。
「残念だな、坊ちゃん」
ルパインは嘆息して、首を振る。
アルベルトの言葉を否定するように。
「今回の仕事の目的はあんたの救出じゃない。余裕があれば、気分が乗れば助けてやる。だから期待はするな」
と短く言い放つ。
「は、はにゃ?」
腑抜けた声を放った後に、アルベルトはそのまま黙り込んだ。
その声は、少し萌えるなと思った。
どちらかというと、黒づくめといった方が正確だろう。
黒いコート、
黒い手袋、
黒いマスク、
黒い帽子、
黒眼鏡。
外見を構成する要素が黒で覆われている。
その見た目だけでも十分警戒する理由になったが、警告を告げるリヒーの背後で余裕綽々な風にダブルピースをしていることで、そのレベルは二段階ほど高まった。
うん、たぶんこいつが犯人だろう。
私は心中頷き、魔法を放つ準備をする。
この射線だと、リヒーを巻き込む可能性が高い。
だから、ひとまずは彼にこちら側に来てもらわないといけない。
背後の黒づくめにも、彼は気づいている様子がないようだし。
「早く、逃げてください!この屋敷は、もうっ」
そう呟きながら、地面に倒れ臥す。
こちらにくるよりも先に、彼の体力に限界が来たらしい。
見れば、彼の姿はボロボロだった。
顔こそ綺麗なままだったが、服は所々赤黒く変色しているし、一部風穴も空いている。
だが、重要なのはそこではなかった。
彼が命を賭してまで伝えに来た、逃げろという言葉。
それを言わせる原因となった対象が、その背後にいる。
リヒーは私がただのお嬢様でないことを知っている。
その目で、私が火龍を屠っている姿を見ている。
その人間ーーいや、バケモノと呼称しても問題ないレベルの存在に対して『逃げろ』という。
それは、相応の相手ということか、
あるいは、私に対して特攻攻撃でもできるスキルを兼ね備えた輩ということなのかもしれない。
ひとまずは、油断せずにいこう。
魔法を使えば万事オッケー、なんて傲慢は捨てよう。
配下の言葉はきちんと受け止めなくては。
「おっと、おねんねしちまったか。まあ、使用人にしては持った方か」
黒づくめは、ぶっきらぼうに呟くと、リヒーを踏み超え、こちら側へと足を進めた。
何人の使用人踏んでんだよ、と右手に力がこもるがまだ放つ時ではない。
流れ弾、ならぬ流れ魔法が当たる可能性がある。
安全第一だ。
「あなたは一体何者ですか?」
マナーとして、聞いてみた。
屋敷を襲われていて、自己紹介を促すというのは間抜けな感じではあったが。
「貴様、ルパインか?助かったっーー早く僕をここから出してくれっ!」
まさかの背後からのネタばらし。
なるほど、アルベルトの仲間か。
やっと救出部隊のご登場、ということか。
次期当主を人質に取られれば、表面上は火龍に相対、相討ちで英霊扱いになっているとはいえ、助けだしにはくるか。
しかし、存外強引な方法だな。
武力制圧とは、普通こういうのは外交ルートを使うのではないのかな?
生まれてこの方、いや、転生前もその手の仕事に絡んだことはないから、よくわからないが。
「ぼっちゃん、そこは俺に格好よく名乗らせてくれると助かるんですけどね」
黒づくめは、黒マスクと黒眼鏡を外し、素顔を晒した。
無精髭に、シニカルな笑顔。
青い目と、眉間の深い皺が特徴的。
「改めまして、お嬢様。俺はルパイン、しがない傭兵部隊の雇われ隊長。そこに転がっているアルベルトの坊ちゃんの仕事仲間さ」
「あ、どうも。アリシアです」
名乗られたのでつい挨拶を返す。
そんな穏やかな状態ではないはずだが。
だって、リヒーが床に倒れてるし。
本当は怒り狂って「お前の名前なんて、どうでもいいから」と魔力をぶっ放す場面なのだろうが。
逆に、彼を巻き込んではいけないという気持ちが私を冷静にさせてくれているのかもしれない。
あるいは、ただ単に深い眠りと適度な運動のお陰で、心身共に良好になっているだけかもしれないが。
「それはご丁寧に。気持ち的には、ここで綺麗なあんたと握手とハグを交わして、家族への自慢話のネタにしたいところだが、自体は切迫しててね。生憎、お遊びをしている時間はない」
冗長な口調、
からの鋭い眼光、
殺気のような、肌をひりつける重圧。
「やれっ、ルパイン!その立ち位置ならアリシアは魔法を使えない、いや、使わない!」
繋がれたアルベルトが叫ぶ。
「そいつは身内に優しい、というか甘いからな。最早敵の軍門に降った使用人だが、ここにて僕の役に立ってくれた!」
もう黙っとけ、アルベルト。
お前の言葉と声は不快だ。
愉悦に感じるのは、お前の鳴き声とその顔だけだ。
「残念だな、坊ちゃん」
ルパインは嘆息して、首を振る。
アルベルトの言葉を否定するように。
「今回の仕事の目的はあんたの救出じゃない。余裕があれば、気分が乗れば助けてやる。だから期待はするな」
と短く言い放つ。
「は、はにゃ?」
腑抜けた声を放った後に、アルベルトはそのまま黙り込んだ。
その声は、少し萌えるなと思った。
0
お気に入りに追加
459
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されていた。手遅れな程に・・・
月白ヤトヒコ
恋愛
婚約してから長年彼女に酷い態度を取り続けていた。
けれどある日、婚約者の魅力に気付いてから、俺は心を入れ替えた。
謝罪をし、婚約者への態度を改めると誓った。そんな俺に婚約者は怒るでもなく、
「ああ……こんな日が来るだなんてっ……」
謝罪を受け入れた後、涙を浮かべて喜んでくれた。
それからは婚約者を溺愛し、順調に交際を重ね――――
昨日、式を挙げた。
なのに・・・妻は昨夜。夫婦の寝室に来なかった。
初夜をすっぽかした妻の許へ向かうと、
「王太子殿下と寝所を共にするだなんておぞましい」
という声が聞こえた。
やはり、妻は婚約者時代のことを許してはいなかったのだと思ったが・・・
「殿下のことを愛していますわ」と言った口で、「殿下と夫婦になるのは無理です」と言う。
なぜだと問い質す俺に、彼女は笑顔で答えてとどめを刺した。
愛されていた。手遅れな程に・・・という、後悔する王太子の話。
シリアス……に見せ掛けて、後半は多分コメディー。
設定はふわっと。
御機嫌ようそしてさようなら ~王太子妃の選んだ最悪の結末
Hinaki
恋愛
令嬢の名はエリザベス。
生まれた瞬間より両親達が創る公爵邸と言う名の箱庭の中で生きていた。
全てがその箱庭の中でなされ、そして彼女は箱庭より外へは出される事はなかった。
ただ一つ月に一度彼女を訪ねる5歳年上の少年を除いては……。
時は流れエリザベスが15歳の乙女へと成長し未来の王太子妃として半年後の結婚を控えたある日に彼女を包み込んでいた世界は崩壊していく。
ゆるふわ設定の短編です。
完結済みなので予約投稿しています。
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
私が死んだあとの世界で
もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。
初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。
だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。
いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と
鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。
令嬢から。子息から。婚約者の王子から。
それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。
そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。
「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」
その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。
「ああ、気持ち悪い」
「お黙りなさい! この泥棒猫が!」
「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」
飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。
謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。
――出てくる令嬢、全員悪人。
※小説家になろう様でも掲載しております。
【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。
曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」
「分かったわ」
「えっ……」
男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。
毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。
裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。
何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……?
★小説家になろう様で先行更新中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる