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2章 第2の婚約者
39.バケモノのお兄様
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「殺した方が思いついたら、いつでも連絡してね♪彼に言ってくれれば、余はすぐに飛んでくるから」
にぱーと笑顔を作り、バルバトロスは去っていく。
最初に会った案内役の人を残して、てとてとと去っていく。
ーー
先のやりとりの後、私とリヒーは隔離されてそれぞれ別室にて軟禁された。
メノウは治療中なので、当然であるとして。
軟禁、と言えば言葉は悪いが用意された部屋は簡素ではあるものの充実した空間だった。
ベットもあるし、風呂もある。
水もあるし果物も置いてある。
私自身もあれだけの破壊活動を実施したが、お咎めは特になし。
せいぜい彼の小言くらいだった。
両手も両足も自由、
魔法も自由。
ただ、メノウを人質にとられているので精神的にはまるで不自由だ。
バケモノの鎖は破壊可能な物理的な『モノ』ではなく、身内の命を助けるという『約束』というわけだ。
難儀なことだ。
しかし、これからどうしたものか。
私はばたんとベットに飛び込み、そのままうつ伏せになり考える。
ポケットからターゲットの写真を取り出し、考える。
武のアルバリア=ステノンと
知のクリスティア=ステノン。
私とは全く関係のない、縁もゆかりもない相手。
何度思考を繰り返そうと、
幾度思案を巡らそうと、
いくつく結論はただ一つだけ。
彼ら二人の命とメノウの命、加えて言うなら同じく軟禁中のリヒーの命。
天秤に乗せるまでももない。
本来は考えるまでもない。
だけれど、一歩踏み出せない。
人間をやめられていない。
まだ、バケモノでないのだろう、私は。
火龍を駆除したとき、何も感じなかったはずだ。
かつての世界で蝿を叩くように、
蚊を潰すように、
殺した方がいいから殺した、その程度の感情しか抱かなかった。
あれだけのサイズ感、存在感であったのにもかかわらずだ。
だが、人を殺すというのはやはり違う。
同族殺し。
しないで済むなら、やはりそれに越したことはない。
やりたいことではない。
まだ、その手の汚れ仕事については処女なのだ、私は。
初めてのことは、不安だ。
それが『悪』と思える行為ならば、なおさらーー
コンコン、
軽いノックが二回。
「アリシア様」
私を呼ぶ声。
耳覚えのない、知らない声。
低めのそれは、多分男性。
私を呼ぶ、ということは彼は私を知っている。
「誰だ?」
「……クリスティアと申します」
男は一呼吸おいて自身の名前を言った。
「ご相談したいことがあります。どうか、私の話を聞いていただけないでしょうか」
弟に命を狙われている彼は丁寧な口調で、そう言った。
自身の殺害を依頼を請け負っている私に、そう言った。
にぱーと笑顔を作り、バルバトロスは去っていく。
最初に会った案内役の人を残して、てとてとと去っていく。
ーー
先のやりとりの後、私とリヒーは隔離されてそれぞれ別室にて軟禁された。
メノウは治療中なので、当然であるとして。
軟禁、と言えば言葉は悪いが用意された部屋は簡素ではあるものの充実した空間だった。
ベットもあるし、風呂もある。
水もあるし果物も置いてある。
私自身もあれだけの破壊活動を実施したが、お咎めは特になし。
せいぜい彼の小言くらいだった。
両手も両足も自由、
魔法も自由。
ただ、メノウを人質にとられているので精神的にはまるで不自由だ。
バケモノの鎖は破壊可能な物理的な『モノ』ではなく、身内の命を助けるという『約束』というわけだ。
難儀なことだ。
しかし、これからどうしたものか。
私はばたんとベットに飛び込み、そのままうつ伏せになり考える。
ポケットからターゲットの写真を取り出し、考える。
武のアルバリア=ステノンと
知のクリスティア=ステノン。
私とは全く関係のない、縁もゆかりもない相手。
何度思考を繰り返そうと、
幾度思案を巡らそうと、
いくつく結論はただ一つだけ。
彼ら二人の命とメノウの命、加えて言うなら同じく軟禁中のリヒーの命。
天秤に乗せるまでももない。
本来は考えるまでもない。
だけれど、一歩踏み出せない。
人間をやめられていない。
まだ、バケモノでないのだろう、私は。
火龍を駆除したとき、何も感じなかったはずだ。
かつての世界で蝿を叩くように、
蚊を潰すように、
殺した方がいいから殺した、その程度の感情しか抱かなかった。
あれだけのサイズ感、存在感であったのにもかかわらずだ。
だが、人を殺すというのはやはり違う。
同族殺し。
しないで済むなら、やはりそれに越したことはない。
やりたいことではない。
まだ、その手の汚れ仕事については処女なのだ、私は。
初めてのことは、不安だ。
それが『悪』と思える行為ならば、なおさらーー
コンコン、
軽いノックが二回。
「アリシア様」
私を呼ぶ声。
耳覚えのない、知らない声。
低めのそれは、多分男性。
私を呼ぶ、ということは彼は私を知っている。
「誰だ?」
「……クリスティアと申します」
男は一呼吸おいて自身の名前を言った。
「ご相談したいことがあります。どうか、私の話を聞いていただけないでしょうか」
弟に命を狙われている彼は丁寧な口調で、そう言った。
自身の殺害を依頼を請け負っている私に、そう言った。
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