上 下
41 / 68
2章 第2の婚約者

39.バケモノのお兄様

しおりを挟む
「殺した方が思いついたら、いつでも連絡してね♪彼に言ってくれれば、余はすぐに飛んでくるから」

にぱーと笑顔を作り、バルバトロスは去っていく。
最初に会った案内役の人を残して、てとてとと去っていく。

ーー
先のやりとりの後、私とリヒーは隔離されてそれぞれ別室にて軟禁された。
メノウは治療中なので、当然であるとして。

軟禁、と言えば言葉は悪いが用意された部屋は簡素ではあるものの充実した空間だった。
ベットもあるし、風呂もある。
水もあるし果物も置いてある。
私自身もあれだけの破壊活動を実施したが、お咎めは特になし。
せいぜい彼の小言くらいだった。
両手も両足も自由、
魔法も自由。
ただ、メノウを人質にとられているので精神的にはまるで不自由だ。

バケモノの鎖は破壊可能な物理的な『モノ』ではなく、身内の命を助けるという『約束』というわけだ。
難儀なことだ。

しかし、これからどうしたものか。
私はばたんとベットに飛び込み、そのままうつ伏せになり考える。
ポケットからターゲットの写真を取り出し、考える。

武のアルバリア=ステノンと
知のクリスティア=ステノン。
私とは全く関係のない、縁もゆかりもない相手。
何度思考を繰り返そうと、
幾度思案を巡らそうと、
いくつく結論はただ一つだけ。

彼ら二人の命とメノウの命、加えて言うなら同じく軟禁中のリヒーの命。
天秤に乗せるまでももない。
本来は考えるまでもない。
だけれど、一歩踏み出せない。
人間をやめられていない。
まだ、バケモノでないのだろう、私は。

火龍を駆除したとき、何も感じなかったはずだ。
かつての世界で蝿を叩くように、
蚊を潰すように、
殺した方がいいから殺した、その程度の感情しか抱かなかった。
あれだけのサイズ感、存在感であったのにもかかわらずだ。

だが、人を殺すというのはやはり違う。
同族殺し。
しないで済むなら、やはりそれに越したことはない。
やりたいことではない。
まだ、その手の汚れ仕事については処女なのだ、私は。

初めてのことは、不安だ。
それが『悪』と思える行為ならば、なおさらーー

コンコン、
軽いノックが二回。

「アリシア様」

私を呼ぶ声。
耳覚えのない、知らない声。
低めのそれは、多分男性。
私を呼ぶ、ということは彼は私を知っている。

「誰だ?」

「……クリスティアと申します」

男は一呼吸おいて自身の名前を言った。

「ご相談したいことがあります。どうか、私の話を聞いていただけないでしょうか」

弟に命を狙われている彼は丁寧な口調で、そう言った。
自身の殺害を依頼を請け負っている私に、そう言った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

待ち遠しかった卒業パーティー

しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢アンネットは、暴力を振るう父、母亡き後に父の後妻になった継母からの虐め、嘘をついてアンネットの婚約者である第四王子シューベルを誘惑した異母姉を卒業パーティーを利用して断罪する予定だった。 しかし、その前にアンネットはシューベルから婚約破棄を言い渡された。 それによってシューベルも一緒にパーティーで断罪されるというお話です。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

【完結】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか?

曽根原ツタ
恋愛
「クラウス様、あなたのことがお嫌いなんですって」 エルヴィアナと婚約者クラウスの仲はうまくいっていない。 最近、王女が一緒にいるのをよく見かけるようになったと思えば、とあるパーティーで王女から婚約者の本音を告げ口され、別れを決意する。更に、彼女とクラウスは想い合っているとか。 (王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは身を引くとしましょう。クラウス様) しかし。破局寸前で想定外の事件が起き、エルヴィアナのことが嫌いなはずの彼の態度が豹変して……? 小説家になろう様でも更新中

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

これでも全属性持ちのチートですが、兄弟からお前など不要だと言われたので冒険者になります。

りまり
恋愛
私の名前はエルムと言います。 伯爵家の長女なのですが……家はかなり落ちぶれています。 それを私が持ち直すのに頑張り、贅沢できるまでになったのに私はいらないから出て行けと言われたので出ていきます。 でも知りませんよ。 私がいるからこの贅沢ができるんですからね!!!!!!

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

処理中です...