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2章 第2の婚約者
34.バルバトロスくんのお願い
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にぱにぱとチャーミングな笑顔を振りまきながら、バルバトロスは言葉をためる。
一体、何をさせるつもりなのか。
龍退治か、
不老不死の霊薬探しか、
ギャルのパンティーか。
少なくとも、三つ目はないだろう。
彼なら言えば、普通に貰えるだろうし。
なんなら今から私の脱ぎたてをあげようか……というのは無論冗談である
「兄さんたちを、殺して欲しい」
「ーーはい?今、なんと?」
耳を疑い、思わず聞き返す。
小さな口から発せられた、残酷な単語。
兄殺しの依頼、
それも両方。
「だから、兄さんたちを殺してくれないかな?もっと丁寧に個人名詞を出して言うと、アルバリア=ステノンとクリスティア=ステノン、この両名の殺害、これが余のお願い」
笑顔を崩さず、
両手を合わせ私に愛らしく懇願する。
兄たちを殺せ、と。
どんな恨みがあるのだろうか?
単純にかんがえれば継承権の問題だろう。
自身が次期領主になるためには、武芸と知略、それぞれに秀でた兄たちを超える必要がある。
生まれた順序だけでも厄介なハンディがあるのに、加えて優秀な兄たちの存在。
兄よりすぐれた弟は存在しない、
どこぞの伝承者崩れが言いそうな台詞ではあるが、往々にして生まれた年月の差というのは埋めがたい。
それは自己研鑽した時間の差であり、
耐え忍んできた経験の差。
この差が容易に埋まることは、本来あってはならない。
だから人は才能ある人を憎み恨み、嫉妬する。
自身が過ごしたあの時間は何だったのか、と若輩者に悪意を向ける。
まあ、今回の場合はそうではないのだろうが。
普通に、普通。
生まれた順番、二人の兄。
それが消えれば、次は『余』の番、という訳なのだろう。
努力もいらず、消去法。
有能無能問わず、『血』の問題。
周りの臣下から見れば、それも嫉妬の対象になりうるだろうが。
自分が領主の息子としてさえ生まれていれば、あの場にいるのは自分かもしれない、と幻想を抱いたかもしれないが。
「理由を聞いてもよろしいでしょうか?」
「名家のお嬢様なのに、理由がないと人を殺せないの?」
「いえ、そういう訳では。ただ、バルバトロス様が兄君を憎む理由、それは婚約者候補として確認させておきたくてーー」
と、言い終わる前にバルバトロスくんは吹き出した。
吹き出して、笑う。
何を言っているんだ、
何とおかしな誤解をしているんだ、と。
「余が兄さんたちを憎んでる?憎しみなんて下等で無価値な感情、余は持っていないよ」
「では何故、兄君たちの死を望むのですか?」
「それは簡単だよ」
彼は笑顔を消し、
無機質な人形のような『無』を浮かべた。
「その方が効率がいいからだよ。兄さんたちがこの国を統べるより、余が成り代わって統治した方が、みんな幸せになれる」
バルバトロスくんは、続ける。
二つな持ちの兄たちより、自身が有能だと。
「新しい人間ーー正しくは改良され、完璧な人間へと進化しつつある、この余がね」
そして告げた、
自身が何者であるか、
どういった存在であるかを。
一体、何をさせるつもりなのか。
龍退治か、
不老不死の霊薬探しか、
ギャルのパンティーか。
少なくとも、三つ目はないだろう。
彼なら言えば、普通に貰えるだろうし。
なんなら今から私の脱ぎたてをあげようか……というのは無論冗談である
「兄さんたちを、殺して欲しい」
「ーーはい?今、なんと?」
耳を疑い、思わず聞き返す。
小さな口から発せられた、残酷な単語。
兄殺しの依頼、
それも両方。
「だから、兄さんたちを殺してくれないかな?もっと丁寧に個人名詞を出して言うと、アルバリア=ステノンとクリスティア=ステノン、この両名の殺害、これが余のお願い」
笑顔を崩さず、
両手を合わせ私に愛らしく懇願する。
兄たちを殺せ、と。
どんな恨みがあるのだろうか?
単純にかんがえれば継承権の問題だろう。
自身が次期領主になるためには、武芸と知略、それぞれに秀でた兄たちを超える必要がある。
生まれた順序だけでも厄介なハンディがあるのに、加えて優秀な兄たちの存在。
兄よりすぐれた弟は存在しない、
どこぞの伝承者崩れが言いそうな台詞ではあるが、往々にして生まれた年月の差というのは埋めがたい。
それは自己研鑽した時間の差であり、
耐え忍んできた経験の差。
この差が容易に埋まることは、本来あってはならない。
だから人は才能ある人を憎み恨み、嫉妬する。
自身が過ごしたあの時間は何だったのか、と若輩者に悪意を向ける。
まあ、今回の場合はそうではないのだろうが。
普通に、普通。
生まれた順番、二人の兄。
それが消えれば、次は『余』の番、という訳なのだろう。
努力もいらず、消去法。
有能無能問わず、『血』の問題。
周りの臣下から見れば、それも嫉妬の対象になりうるだろうが。
自分が領主の息子としてさえ生まれていれば、あの場にいるのは自分かもしれない、と幻想を抱いたかもしれないが。
「理由を聞いてもよろしいでしょうか?」
「名家のお嬢様なのに、理由がないと人を殺せないの?」
「いえ、そういう訳では。ただ、バルバトロス様が兄君を憎む理由、それは婚約者候補として確認させておきたくてーー」
と、言い終わる前にバルバトロスくんは吹き出した。
吹き出して、笑う。
何を言っているんだ、
何とおかしな誤解をしているんだ、と。
「余が兄さんたちを憎んでる?憎しみなんて下等で無価値な感情、余は持っていないよ」
「では何故、兄君たちの死を望むのですか?」
「それは簡単だよ」
彼は笑顔を消し、
無機質な人形のような『無』を浮かべた。
「その方が効率がいいからだよ。兄さんたちがこの国を統べるより、余が成り代わって統治した方が、みんな幸せになれる」
バルバトロスくんは、続ける。
二つな持ちの兄たちより、自身が有能だと。
「新しい人間ーー正しくは改良され、完璧な人間へと進化しつつある、この余がね」
そして告げた、
自身が何者であるか、
どういった存在であるかを。
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