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2章 第2の婚約者

24.風呂の中の平和

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時間がゆっくりと流れる。
何も喋らない時間というのは、
何もしない時間というのは、
ゆっくりに感じるものなのだな。
それが例え、異性と素っ裸でいる時でもーー

「アリシア様、そろそろ出ましょうか。長湯はお体に障ります」

「いや、もう少し……後少しだけこのままだ」

「ーー承知しました」

何回めの『もう少し』、『後少し』だろうか。
言っている自分が恥ずかしい。
彼と一緒にいてあげたい。
彼の温もりを感じていたい。

……馬鹿な、愚かな感情だ。
リヒーの境遇に哀れさを感じたというのか。
どこの時代でも、どこの世界にでもある、苦労話ではないか。
そんなお涙頂戴の物語に絆されるとは、どこのチョロイン(チョロいヒロインの略)だ。

肉体的に強くなった分、精神は弱くなったのかもしれない。
だからこそ、
力に酔ったり溺れたり、
哀れに心動かされたりしているのかもしれない。
まあ、正当化の言い訳なのだろうけれど。

かつての自分は、肉体的にも弱く醜かった自分は、気づかなかっただけだ。
気づく機会がなかっただけだ。
外見の醜悪さが、全てを覆い隠したから、他の弱さに目がいかなかっただけ。

どんな味つけでも、カレーに粉を入れてしまえばそれはカレーになってしまうように。

「そういえば、カレーを食べていないな」

「カレー、ですか。臣の知らない食べ物ですね」

そうか、この世界には『カレー』という言葉がないのか。
彼が知らないだけかもしれないが。

「カレーはスパイシーな、刺激的な食べ物だ。舌を焼くような辛さが、実に心地いい」

「流石は火龍を屠ったアリシア様、食文化も一般人のそれとは一線を画すのですね」

尊敬されてしまった。
カレーなど、どこの一般家庭でも食べられるものなのに。
まあ、いいか。
今はこの幸せなひと時を楽しもう。
いつ覚めるかも分からない、夢のような日々を。

私はリヒーに体を預け、目を閉じる。
あぁ、眠い。
魔法の反動、なのか。
アルベルトを苛めすぎた、疲労なのか。
それともーー

ーー
目覚めると、私もリヒーも裸のまま。
かつ、そこは浴槽の中だった。
つまり、私はあのまま風呂で眠っていたのだ。
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