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2章 第2の婚約者

21.お風呂回2nd

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かぽーん、と効果音でもつけようか。
風呂の中は無駄に溢れ出すお湯を除き、静かそのものだった。
先の悲鳴と言葉責めの空間が懐かしい。
明日も、またやろうかな。
壊れなければいいけれど、
彼もーー私も。

それにしても、今日も一日色んなことがあった。
この世界の1日は濃密である。
何もかもが初めての経験で、それでいて私にとって悪い状況ではない。
素晴らしい世界だ。
私は浴槽の中で、物思いにふけりつつ、遊ぶ。
泳ぎ、
潜り、漂う。
広く深いセレブ風呂だから許される行為。
暇を持て余した神々の如く、まったりと満喫する。
風呂という空間を。

「お嬢様、失礼致します」

ガチャリ、とドアが開く。
完全リラックスモードだったので油断していた。
昨日の今日で忘れる私も愚かだ。
使用人がいきなり風呂に現れるという文化が存在していることを失念していた。

だが、覚えていたところで私の驚き度合いには大差がなかっただろう。
登場したのは美少女メイドのメノウちゃんではなく、アルベルトの使用人リヒーだったのだから。

ーー

「メノウさんはご当主様ーーつまりはゴットファザ様のお迎えの準備があるとのことで、僭越ながら、お務めは臣が代役させていただきます」

丁寧に頭を下げるリヒー。
きちんと下半身はタオルが巻かれている。

いや、そういう問題じゃない。
なぜ、君がここにいる?
年頃の女の入浴の補助に年頃の男をぶち込むのは不味いだろう。
彼のアレが私にぶち込まれる危険を考えていないのか。
どうした、メノウ。いつもの有能な君はどこへいった?
何、ここは性別に関しては寛容な文化形態なのか。
混浴が一般文化として根付いているのか。
思考が混濁する。
言葉が脳内をところ狭しと駆け巡る。

「どうされました、お嬢様?」

「それはこっちのセリフだ!なんで君がここに入ってくる!いくらメノウに言われたからといって、それは男と女、断るのが普通だろう!」

「それは、考えが至らず、申し訳ありません。ただ臣はアリシア様に尽くしたい一心でっ!」

「君の気持ちは分かった、だが、私の気持ちも考えてくれ。今まさに貞操の危機があり得るという状況を」

「危機?それは臣がアリシア様と交わる、ということですか?」

「そうだ、確認せずとも分かるだろう。なんども言わせるな」

「ならば、ご安心を。臣が主人の婚約者様に手を出すなんてことは、ありえません。そもそもーー」

リヒーは纏っていたタオルをぱさりと床に落とした。
おい、お前一体何をする?
映像化されたら、そこは聖なる光で隠されるだろうが、私の視界には映り、記憶されるのだぞ。
主人があれなら臣下も、とうことか。
このど変態野郎が。

「臣は誰とも交わりようがないのですから」

見せつけられた股間には、あるはずのもがなかった。
転生前の、保健体育の知識と違う風景がそこにはあった。

「お、おーまいがっ」

ーー

人は驚くと、母国語以外を口にする。
今回はネイティブの発音ではなかったけれど。
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