61 / 69
61.
しおりを挟む
「愚か、なんと愚かな。死を前にしてとうとう狂ったか」
額を押さえ、嘲笑するペンタグラ。
「いや、そうでもないか。貴様はとっくのとうに狂っていた。カストリアに惚れた辺りからは随分と顕著にな。いい、いいぞ、許そう。貴様は狂ったまま、常軌を逸したまま死ね。常人でもなく、ただ人でもなく、貴族でもなくーーただの狂人として死ね」
続ける。
冷酷ま口調で。
「誰の記憶に残ることもなきーー死ね」
ペンタグラは言い切ると、右手を上げた。
その手を一瞬の躊躇いもなく、振り下ろしーー
「な、なっーー」
その手は、苦痛とともに静止した。
隣で控えていた、
動かず、話さず、ただそこにいた彼女の手によって止められていた。
「エクレアーー貴様っ、ーー何故っ!」
ペンタグラの脇腹に、深々と短刀が突き刺さる。
致命傷、とまではいかないだろうが動きを止めるには十分過ぎる不意打ち。
「何故も何もありません。私にとって従うべきはリトア様。血の繋がりがどうであろうと、関係あろうと、関係ありません」
「ーー揃いも揃って、愚か者どもがっ!」
言いつつ、ペンタグラはエクレアを振り払う。
その拳は空を捉え、彼女に触れることはなかった。
「叛逆のつもりか? 遅ればせの反抗期か? どちらにせよ、覚悟は出来ているのだろうな?」
ペンタグラは彼女に凄む。
だけれど、エクレアは気にする風もなく。
「覚悟? それは貴方の方でしょう? リトア様ーーいえ、お嬢様はもちろん、私も覚悟はとっくに出来ています」
「抜かせっ!」
ペンタグラは吼える。
併せて、近場にいた兵士から剣を取り上げる。
構えもなく、すぐ様に斬りかかる。
躊躇いもない。
迷いもない。
ただ、感情のままに、怒りのままに相手を害する。
「この程度の擦り傷で優位を取ったつもりか? 不意打ちで傷をつけられたことが誇らしいか? 自分に酔うのも大概にしろっ!」
あの人はそうして生きてきた。
そうやって、今の地域を手に入れた。
成功を重ねてきた。
だから、それを間違いだと。
誤りだと気づくこともなかった。
「死なない程度に殺してやる! 何、手が千切れようと足がもげようと大した問題ではない。今から得る教訓はそれ以上の価値がある!」
「貴方から教わることなんて、もう何もありませんよ」
切先を見切り、ギリギリのところで彼女は避ける。
ペンタグラの殺意を、交わし、流し。
獣のような激しい連撃、木の葉のように交わしていく。
取り囲む兵士も、私たちと同じく見守ることしか出来ず、ただの背景と化していた。
「もう、十分ーー見ていますから」
そう告げて、男の顔に一撃を見舞う。
男の巨体が地面に倒れ伏す。
額を押さえ、嘲笑するペンタグラ。
「いや、そうでもないか。貴様はとっくのとうに狂っていた。カストリアに惚れた辺りからは随分と顕著にな。いい、いいぞ、許そう。貴様は狂ったまま、常軌を逸したまま死ね。常人でもなく、ただ人でもなく、貴族でもなくーーただの狂人として死ね」
続ける。
冷酷ま口調で。
「誰の記憶に残ることもなきーー死ね」
ペンタグラは言い切ると、右手を上げた。
その手を一瞬の躊躇いもなく、振り下ろしーー
「な、なっーー」
その手は、苦痛とともに静止した。
隣で控えていた、
動かず、話さず、ただそこにいた彼女の手によって止められていた。
「エクレアーー貴様っ、ーー何故っ!」
ペンタグラの脇腹に、深々と短刀が突き刺さる。
致命傷、とまではいかないだろうが動きを止めるには十分過ぎる不意打ち。
「何故も何もありません。私にとって従うべきはリトア様。血の繋がりがどうであろうと、関係あろうと、関係ありません」
「ーー揃いも揃って、愚か者どもがっ!」
言いつつ、ペンタグラはエクレアを振り払う。
その拳は空を捉え、彼女に触れることはなかった。
「叛逆のつもりか? 遅ればせの反抗期か? どちらにせよ、覚悟は出来ているのだろうな?」
ペンタグラは彼女に凄む。
だけれど、エクレアは気にする風もなく。
「覚悟? それは貴方の方でしょう? リトア様ーーいえ、お嬢様はもちろん、私も覚悟はとっくに出来ています」
「抜かせっ!」
ペンタグラは吼える。
併せて、近場にいた兵士から剣を取り上げる。
構えもなく、すぐ様に斬りかかる。
躊躇いもない。
迷いもない。
ただ、感情のままに、怒りのままに相手を害する。
「この程度の擦り傷で優位を取ったつもりか? 不意打ちで傷をつけられたことが誇らしいか? 自分に酔うのも大概にしろっ!」
あの人はそうして生きてきた。
そうやって、今の地域を手に入れた。
成功を重ねてきた。
だから、それを間違いだと。
誤りだと気づくこともなかった。
「死なない程度に殺してやる! 何、手が千切れようと足がもげようと大した問題ではない。今から得る教訓はそれ以上の価値がある!」
「貴方から教わることなんて、もう何もありませんよ」
切先を見切り、ギリギリのところで彼女は避ける。
ペンタグラの殺意を、交わし、流し。
獣のような激しい連撃、木の葉のように交わしていく。
取り囲む兵士も、私たちと同じく見守ることしか出来ず、ただの背景と化していた。
「もう、十分ーー見ていますから」
そう告げて、男の顔に一撃を見舞う。
男の巨体が地面に倒れ伏す。
0
お気に入りに追加
161
あなたにおすすめの小説
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。
るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」
色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。
……ほんとに屑だわ。
結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。
彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。
彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
【完結】側妃は愛されるのをやめました
なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」
私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。
なのに……彼は。
「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」
私のため。
そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。
このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?
否。
そのような恥を晒す気は無い。
「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」
側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。
今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。
「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」
これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。
華々しく、私の人生を謳歌しよう。
全ては、廃妃となるために。
◇◇◇
設定はゆるめです。
読んでくださると嬉しいです!
完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる