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60.
しおりを挟む馬車が止まり、屋敷の前で降りる。
待ち受けていた二人は、私に関わりのある人間。
「リトア様、お久しぶりです」
かつての従者、エクレア。
ーー正しくは、エクレア=エーテルザット。
本当の公爵家令嬢。
「死に損ないが。どこまでも我が一族の名に泥を塗るか」
かつての父。ペンタグラ=エーテルザット。
血の繋がりも、愛情も何もない、ただの他人。
あるのは過去の繋がりだけ。
偽りの、形式的な繋がりだけ。
それも、私の命とともに消える。
或いは、私が捕まった時点で消されているかもしれない。
「やれやれ、先回りされてしまったか。どこから情報が漏れたのやら。ーーまあ、それなりに予測は着く。今はこの状況をどう交わすかだ」
ペコットは言いつつ、視線をシュライグへと移す。
何かの合図か、彼もこくりと頷き、私達の前出る。
庇うように。
「下手な真似はよせ。こちらも相応の準備はしている。手ぶらで向かう訳がなかろう」
今度はお父様ーーいや、ペンタグラが合図をする。
背後からぞろぞろと武装した兵士が現れる。
10、20ーーこれ以上は同じだろう。
明確な多勢に無勢。
背後の屋敷には、ペコットに従う兵士がいるはずだろうが、この緊急事態に出てくる気配がない。
既に手を回されているのかもしれない。
私同様、ペコットも裏切り者として扱われているのかもしれない。
「さて、三人まとめて来てもらおうか。第一王子を殺害し、王族二人に怪我をさせた不敬者、リトア=エーテルザット……ではないか、ただのリトア。そして、その不敬者の逃走支援と王族貴族含め多数への殺傷行為ーーペコット=バルバシリアと、そこの……名前は知らんが従者よ」
言葉と共に、彼らは進軍を開始する。
私達の方へと、武器を向ける。
「抵抗はしない方がいい。別段、生死を気にする状況ではないからな。だが、死にたいならば存分に抵抗するといい」
ペンタグラの言葉を、エクレアは黙って聞いている。
何も動かず、何も話さず。
ただ控えている。
やはり、私と彼女の関係はそこまでだったのだろう。
多少の憐憫は感じるだろうが、いざとなれば、命令の方が優先されるのだろう。
それも仕方がない、彼女の未来はこれからなのだ。
エクレア=エーテルザットとして、始まったばかりなのだ。
だから、責めることはできない。
でもーー
「エクレア!」
私は彼女の名前を呼んだ。
「命乞いの言葉か? するだけ無駄とは思うが」
嘲笑とともにかつての父は言う。
だけど、私が告げるのはそれじゃない。
「今まで、ありがとう!」
感謝の言葉だ。
そしてーー
「さようなら!」
お別れの言葉だ。
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