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 馬車が止まり、屋敷の前で降りる。
 待ち受けていた二人は、私に関わりのある人間。

「リトア様、お久しぶりです」

 かつての従者、エクレア。
 ーー正しくは、エクレア=エーテルザット。
 本当の公爵家令嬢。

「死に損ないが。どこまでも我が一族の名に泥を塗るか」

 かつての父。ペンタグラ=エーテルザット。
 血の繋がりも、愛情も何もない、ただの他人。
 あるのは過去の繋がりだけ。
 偽りの、形式的な繋がりだけ。
 それも、私の命とともに消える。
 或いは、私が捕まった時点で消されているかもしれない。

「やれやれ、先回りされてしまったか。どこから情報が漏れたのやら。ーーまあ、それなりに予測は着く。今はこの状況をどう交わすかだ」

 ペコットは言いつつ、視線をシュライグへと移す。
 何かの合図か、彼もこくりと頷き、私達の前出る。
 庇うように。

「下手な真似はよせ。こちらも相応の準備はしている。手ぶらで向かう訳がなかろう」

 今度はお父様ーーいや、ペンタグラが合図をする。
 背後からぞろぞろと武装した兵士が現れる。
 10、20ーーこれ以上は同じだろう。
 明確な多勢に無勢。
 背後の屋敷には、ペコットに従う兵士がいるはずだろうが、この緊急事態に出てくる気配がない。
 既に手を回されているのかもしれない。
 私同様、ペコットも裏切り者として扱われているのかもしれない。

「さて、三人まとめて来てもらおうか。第一王子を殺害し、王族二人に怪我をさせた不敬者、リトア=エーテルザット……ではないか、ただのリトア。そして、その不敬者の逃走支援と王族貴族含め多数への殺傷行為ーーペコット=バルバシリアと、そこの……名前は知らんが従者よ」

 言葉と共に、彼らは進軍を開始する。
 私達の方へと、武器を向ける。

「抵抗はしない方がいい。別段、生死を気にする状況ではないからな。だが、死にたいならば存分に抵抗するといい」

 ペンタグラの言葉を、エクレアは黙って聞いている。
 何も動かず、何も話さず。
 ただ控えている。
 やはり、私と彼女の関係はそこまでだったのだろう。
 多少の憐憫は感じるだろうが、いざとなれば、命令の方が優先されるのだろう。
 それも仕方がない、彼女の未来はこれからなのだ。
 エクレア=エーテルザットとして、始まったばかりなのだ。
 だから、責めることはできない。
 でもーー

「エクレア!」

 私は彼女の名前を呼んだ。

「命乞いの言葉か? するだけ無駄とは思うが」

 嘲笑とともにかつての父は言う。
 だけど、私が告げるのはそれじゃない。

「今まで、ありがとう!」
 
 感謝の言葉だ。
 そしてーー

「さようなら!」

 お別れの言葉だ。
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