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私は自身の手を見た。
まだ鈍く痛む傷跡。
これが、あのお方の命を守った証拠。
あのお方との繋がり。
そう思うと、途端に愛おしくなる。
確かに、名誉の負傷だ。

「話を戻しましょう。今は貴方の話ではなく、僕のお話ですので。ーーそれで、僕は我が主人が貴方達を処分しようとする隙を狙い、仕留めました。同行した仲間を手にかける必要があったこと、それと貴方に罪を被せることには躊躇いはありました……けど、大義のためには仕方がありません。そう割り切って、実行に移しました」

私は、怒るべきなのだろう。
無実の罪を着せられたことに。
無用の非難と中傷を与えられたことに。
一歩間違えば処刑されたことに。

でも、
でも。
何も言えなかった。
結局は助けられているからか、
それとも、この傷の理由のせいか。
どちらにせよ、怒るの気分ではない。

「謝って済む問題ではありません。けど、僕の仲間とは違い、貴方はまだ生きている。だから、言わせてください」

言葉をためて、言う。
ただに丁寧な口調ではなく、
心底、申し訳なさそうに。

「ごめんなさい」

その言葉を私はただ受け止めた。
許しの返答をすることなく、ただ黙って。
理性的に考えれば、許せる所業ではない。
今の甘い頭で結論を出すのは良くない。
それに、まだ私の物語は続く。
きっと、彼の物語も。
ならば、ここで許さずとも、いづれは良い状況はやってくるはず。
だから、今はその時を待とう。
みんなでしっかり生き延びて、
なんとか幸せになって、
そんな時を。

「許して欲しい、なんて都合のいいことは求めません。ただ、分かって、知って欲しいというだけです」

私の心情を察したのか、彼はそう締めた。
私は何も言わなかったし、彼もそれ以上言葉を紡がなかった。

「じゃあ、主たるねたばらしは完了だね。そろそろ目的地にも着く頃だ。これからの話をしよう」

ペコットが間に入る。
そして、目の前の大きな屋敷を指さす。
彼女の邸宅、バルバシリアの屋敷。
どうやら彼女は一度、自分の領域で私を匿うらしい。

ーーだが、近くづくに連れて、その門前に誰かいるのが見える。
大きな男と、控える女。
見覚えは、もちろんあった。

「早速、問題発生だ」

ペコットはあっけらかんと言った。

「追手の登場、先回り。リトア、やっぱり君は運が悪いね」

と、付け加えて。

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