54 / 69
54.
しおりを挟む
「成る程成る程、成る程ねー」
ペコットはうんうんと頷く。
私は、彼女に話した。
事の顛末を。
馬車に揺られながら、
周囲を計画しながら。
私は話した。
当然、全ては話していない。
嘘はついていないけれど、話すと不味そうなところは意図的に隠した。
その程度の話術は、嗜みとして身につけている。
助けてもらっておいてあれだけど、これはペコットのためでもある。
十分に、十分すぎるほど危険な状態だけれど。
できるだけ、迷惑はかけたくない。
無駄な努力、無意味な配慮とは理解している。
けれど、そうしてしまう。
愛情と同じくらい、友情というのも御し難い。
厄介な感情。
割り切れない、
折り合いがつかない。
それ以前に、私自身全てを語れる立場にはない。
隔離されていた時間は長いし、記憶の欠落が著しい。
むしろ、知っている誰かがいたら、私の方が教えてほしい。
どうして、こうなったのか。
私の何がいけなかったか。
「まあ、気絶している間にそんな事件が起こってしまえば、状況証拠的にそうなるか」
満足したように、ペコットは言う。
「君はどう思うよ」
と彼女は続けた。
言葉の対象は、当然私ではなく。
この馬車の行き先を握る、騎乗者。
「大方は合っています。途中の空白は僕が埋めましょう」
見覚えのある、影のような暗い男。
誰だっただろうか。
「まだペコット様のお屋敷までは距離があります。それまでの時間潰しには、丁度良いでしょう」
丁寧な口調で、彼は言う。
ーーあ、アンドレアル様の従者の一人。
いつもあの男の側に控えていた男、何度か関わりがある。
いや、でもーー
「どうしてここに?」
少し攻撃性を込めた口調で私が告げる。
私は対外的には彼の主人を殺した女。
主人の仇は自らとる、と言うつもりだろうか。
「まあまあ、そう殺気を向けないでくださいよ。僕は貴方の味方です。訳あって、一時的にペコット様にお仕えしているだけで」
「そんな言葉、信用できない!ペコット、気をつけて!」
私の言葉に、彼女は賛同することはせず。
どこか落胆したような表情を見せた。
「君がそれを言うかなー。リトア、彼は貴方を助けるのに協力してくれているんだよ。それに彼は君に感謝こそすれ、恨みを抱く立場にない」
「え、それはどう言うーー」
問い返す私の言葉を聞き終えることなき、彼女は言う。
「自分の主人に恨みを抱く従者なんて、腐るほどいるでしょう?第一王子の噂、直接会って関わっている君なら、そに人間性が如何程のものか、知らないことはないでしょう」
「それはーー」
「つまりはそう言うこと」
だから、心配しないで、とペコットは続けた。
ペコットはうんうんと頷く。
私は、彼女に話した。
事の顛末を。
馬車に揺られながら、
周囲を計画しながら。
私は話した。
当然、全ては話していない。
嘘はついていないけれど、話すと不味そうなところは意図的に隠した。
その程度の話術は、嗜みとして身につけている。
助けてもらっておいてあれだけど、これはペコットのためでもある。
十分に、十分すぎるほど危険な状態だけれど。
できるだけ、迷惑はかけたくない。
無駄な努力、無意味な配慮とは理解している。
けれど、そうしてしまう。
愛情と同じくらい、友情というのも御し難い。
厄介な感情。
割り切れない、
折り合いがつかない。
それ以前に、私自身全てを語れる立場にはない。
隔離されていた時間は長いし、記憶の欠落が著しい。
むしろ、知っている誰かがいたら、私の方が教えてほしい。
どうして、こうなったのか。
私の何がいけなかったか。
「まあ、気絶している間にそんな事件が起こってしまえば、状況証拠的にそうなるか」
満足したように、ペコットは言う。
「君はどう思うよ」
と彼女は続けた。
言葉の対象は、当然私ではなく。
この馬車の行き先を握る、騎乗者。
「大方は合っています。途中の空白は僕が埋めましょう」
見覚えのある、影のような暗い男。
誰だっただろうか。
「まだペコット様のお屋敷までは距離があります。それまでの時間潰しには、丁度良いでしょう」
丁寧な口調で、彼は言う。
ーーあ、アンドレアル様の従者の一人。
いつもあの男の側に控えていた男、何度か関わりがある。
いや、でもーー
「どうしてここに?」
少し攻撃性を込めた口調で私が告げる。
私は対外的には彼の主人を殺した女。
主人の仇は自らとる、と言うつもりだろうか。
「まあまあ、そう殺気を向けないでくださいよ。僕は貴方の味方です。訳あって、一時的にペコット様にお仕えしているだけで」
「そんな言葉、信用できない!ペコット、気をつけて!」
私の言葉に、彼女は賛同することはせず。
どこか落胆したような表情を見せた。
「君がそれを言うかなー。リトア、彼は貴方を助けるのに協力してくれているんだよ。それに彼は君に感謝こそすれ、恨みを抱く立場にない」
「え、それはどう言うーー」
問い返す私の言葉を聞き終えることなき、彼女は言う。
「自分の主人に恨みを抱く従者なんて、腐るほどいるでしょう?第一王子の噂、直接会って関わっている君なら、そに人間性が如何程のものか、知らないことはないでしょう」
「それはーー」
「つまりはそう言うこと」
だから、心配しないで、とペコットは続けた。
0
お気に入りに追加
161
あなたにおすすめの小説
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
どうして私にこだわるんですか!?
風見ゆうみ
恋愛
「手柄をたてて君に似合う男になって帰ってくる」そう言って旅立って行った婚約者は三年後、伯爵の爵位をいただくのですが、それと同時に旅先で出会った令嬢との結婚が決まったそうです。
それを知った伯爵令嬢である私、リノア・ブルーミングは悲しい気持ちなんて全くわいてきませんでした。だって、そんな事になるだろうなってわかってましたから!
婚約破棄されて捨てられたという噂が広まり、もう結婚は無理かな、と諦めていたら、なんと辺境伯から結婚の申し出が! その方は冷酷、無口で有名な方。おっとりした私なんて、すぐに捨てられてしまう、そう思ったので、うまーくお断りして田舎でゆっくり過ごそうと思ったら、なぜか結婚のお断りを断られてしまう。
え!? そんな事ってあるんですか? しかもなぜか、元婚約者とその彼女が田舎に引っ越した私を追いかけてきて!?
おっとりマイペースなヒロインとヒロインに恋をしている辺境伯とのラブコメです。ざまぁは後半です。
※独自の世界観ですので、設定はゆるめ、ご都合主義です。
貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後
空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。
魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。
そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。
すると、キースの態度が豹変して……?
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
王太子エンドを迎えたはずのヒロインが今更私の婚約者を攻略しようとしているけどさせません
黒木メイ
恋愛
日本人だった頃の記憶があるクロエ。
でも、この世界が乙女ゲームに似た世界だとは知らなかった。
知ったのはヒロインらしき人物が落とした『攻略ノート』のおかげ。
学園も卒業して、ヒロインは王太子エンドを無事に迎えたはずなんだけど……何故か今になってヒロインが私の婚約者に近づいてきた。
いったい、何を考えているの?!
仕方ない。現実を見せてあげましょう。
と、いうわけでクロエは婚約者であるダニエルに告げた。
「しばらくの間、実家に帰らせていただきます」
突然告げられたクロエ至上主義なダニエルは顔面蒼白。
普段使わない頭を使ってクロエに戻ってきてもらう為に奮闘する。
※わりと見切り発車です。すみません。
※小説家になろう様にも掲載。(7/21異世界転生恋愛日間1位)
嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜
みおな
恋愛
伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。
そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。
その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。
そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。
ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。
堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・
なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?
ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。
だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。
これからは好き勝手やらせてもらいますわ。
そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。
しげむろ ゆうき
恋愛
男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない
そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった
全五話
※ホラー無し
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる